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貴婦人は優雅に微笑む  作者: violet
本編
9/65

花一輪

ヨーデル医師が、執務室を出ると代わりに沢山の人員が出入りを始めた。

キノコを隠し、匂いを消すと、通常業務が始まったようだ。

マイケル達も出ていき、文官達が書類を持って動き回る。


レイゼラを見て、訝しげな顔をする者もいるが、

「私の婚約者だ。今後、車椅子を押す事になるので顔を覚えておくように。」

エイドリアンの言葉に納得する。


その度に、レイゼラもカデナの指導を受けながら挨拶をする。数をこなせば、緊張もとれ、綺麗な挨拶が出来るようになってきた。

「レイゼラ、飲み込みが早いわね。」

カデナは素直なレイゼラに満足のようである。

元々貴族の教育は受けているレイゼラ。ワイン工場や畑で平民達と接するために、格式ばった事を飛ばす習性になっていたのだ。


「紅茶のカップを持つ手の小指があがっていてよ。

指は揃えた方が美しいわ。」

カデナの細かい注意も、ハイハイとレイゼラがやり直す。


「カデナ様、あの、洗面所に行ってきます。」

恥ずかしそうにレイゼラが言うと、カデナは付いていくと言う。

「場所もわかってますし、少し一人になって頭の中の整理をしたいです。」

断っても大丈夫かとビクビクしながらレイゼラが言うのを、楽しそうに見るカデナ。

「じゃ、行ってらっしゃい。」

その間に、王太子宮の厨房から、スイーツを運ばせようと手配する。



はりつめていた緊張がほぐれ、レイゼラは気を緩めてしまった。

トイレの帰り道を迷ってしまったのだ。


あれ、景色が違うと思った時は、かなり歩いていた。

歩いて来た道を逆戻りしようとして、人が居るのに気が付く。若い男性のようだ。

「も、申し訳ありません。迷い込んでしまって。」

あわてて礼をとるが、相手が誰かもわからない。


「へえ、見慣れない顔つきだな。僕が誰だかわかるか?」

偉そうな態度だが、レイゼラにとって、王宮なのだから子爵より上だろうと判断するしかない。

社交に出なかったレイゼラは、貴族の顔をほとんどしらないので、プルプルと首を横に振るしかない。


「僕はクレドール・ノーマンだ。」

ノーマン、ノーマン!

この国の名はノーマン王国、この男性は王子様だ。

「第2王子様?」

違ってほしいと思う時ほど、当たるものだ。

「いかにも。」

ヒー、とレイゼラは飛び上がらんばかりである。

「トイレの後で良かった。前だったら、驚きすぎてチビッちゃうよ。」

こっそり呟いたはずなのに、クレドールに聞かれて大笑いされる。

昨夜、あれほどエイドリアンに、思った事を口にしないように教育されたが効果はなかった。


「お前、綺麗な顔なのに、残念な中身だな。」

クレドールの口調は面白がっている。


結婚相手と思っていたセルディからは嫌われたのに、ここにきて興味を持たれている。

なんだかなぁ・・・・

げっそりとしたレイゼラにクレドールが、どうしたと聞いてくる。

「殿下、私ってそんなに残念なんですか?」

「お前は変な奴だな。」

クスッと笑う顔は王子様だ。本物の王子様なのだが・・・

王族らしい整った顔で理想そのものだ。兄に毒をもるような恐い人に見えない。


「どうして・・」

エイドリアン様に毒をもったの?言葉は続かない。


「女性に変な奴、とは失礼したな。」

クレドールがレイゼラに近づこうとした時に、レイゼラを探しに来た者の声がした。


「レイゼラ様。」

離れた場所から名を呼ぶ声がする。


「お前はレイゼラというのか。

頼まれてくれないか?」

クレドールは、レイゼラの前に一輪の花を差し出した。

「目の不自由な兄上に、花を届けて欲しい。王太子執務室にいるはずだから。

香りのいい花が咲いたのだ。」

レイゼラに花を握らすと、クレドールは背を向け戻って行った。


「どうして?」

レイゼラの呟きを聞く者はいない。



「レイゼラ様、遅いと皆さまが心配されてます。」

探しに来たのは、執務室にいた文官の一人だった。

さっき見た顔に、レイゼラは安心するが、クレドールが消えた方向から目が離せない。





「クレドールに会ったのか。」

ヘンリクは、そう言うと、レイゼラから花を受け取って香りをかいでいる。


「どうして・・」

毒をもったり、殺そうとしたりするの?

仲のよさそうな兄弟に見える。


「王になる椅子は一つ。

私もクレドールも、背中にいろいろなものを背負っている。」

ヘンリクは、執務机の上のグラスに花を挿すと、それ以上は答えなかった。


だから、お互いの存在が許されないの?

泣きそうなレイゼラをエイドリアンが呼ぶ。

「レイゼラ、おいで。」

なんだか、エイドリアンが優しく見えるとレイゼラは思った。




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