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貴婦人は優雅に微笑む  作者: violet
本編
7/65

レイゼラの初登城

機械人形が動いている。

エイドリアンは、王太子の執務室で挨拶するレイゼラを見ていた。

そこには連絡を受けた医師のヨーデルも来ている。


「初めてお目にかかります、レイゼラ・エッデルブルグと申します。」

これだけの挨拶に、周りにも緊張が伝わる程緊張しているのだ。


「エイドリアン、これ面白いな。凄い空気が伝わってくるぞ。」

目が見えない王太子は、異常に緊張した空気を感じ取ったらしい。

「カクカク動いて、ゼンマイ巻きのようよ。」

カデナが、レイゼラの動きを説明する。


「お姫様だわ、凄い綺麗。」

こっそり誰にも聞こえないように呟いたレイゼラの言葉は、側にいたエイドリアンと、目が見えなくなって、耳が発達した王太子には聞こえていた。


ブハハハッ!!

ヘンリクが思わず吹き出しながら、カデナに聞こえた事を伝えた。

「エイドリアン、お前と全然違うな。

邪心を全く感じられないぞ。何処の純粋培養だ? 」


「ど、どこがいけなかったのでしょうか?不合格ですか?」

エイドリアンに助けてくれとばかりに、レイゼラが振り返る。

エイドリアンは、苦虫を噛みつぶしたような顔で言う。

「満点合格のようですよ。」


「ありえません!

自分でも緊張しすぎと、わかってます!」

変です!とヘンリクを指さして、アッ、と指を引っ込めたレイゼラ。


「それぐらいで首は斬られませんから、大丈夫ですよ。」

横目でレイゼラを見たエイドリアンが、話が終わったとばかりに、医師のヨーデルを呼ぶ。

プルプルと震えたレイゼラが、どこが大丈夫なんですか、と心の中で叫ぶが、エイドリアンはレイゼラを見ていないし、話題は変わってしまっている。


エイドリアン様と呼ぼうとして、レイゼラはわかった。

セルディが、王都に留学中に連絡がないのを、自分は忙しいからだと、自分に都合がいいように思っていたではないか。

実際は浮気していたのに。

エイドリアン様も、報告書の中の私を自分に都合のいいように思っているのかもしれない。

それか、本当に恐れる必要のない事かもしれない。


婚約解消になった時も、2年前の事件で子爵家が大きな打撃を受けた時も、いろんな物を無くしたけど、ここに生きているではないか。

エイドリアン様も毒をもられた時に、どれ程の思いがあったか、自分には想像もできない。

お互いが、まだわからなくて当然なのだ。

でも、自分達はこれからの長い時を一緒にいるんだ、信用しないでどうする。


やっと、エイドリアンの言うとおり、大丈夫なんだろうと安心すると、微笑みがこぼれ出た。


「あら、可愛いわね。私がもらっちゃおうかしら。」

カデナが、ふふふ、とレイゼラを見ている。

どうやら、王太子執務室は狼の群れで、レイゼラ一人が羊のようだ。



ヨーデルは声も出せないぐらいに興奮していた。

机に広げられたキノコから目が離せない。

何故、ゴロゴロとアカザサが袋の中から出てくるんだ、完全な姿で見たのは初めてだが、間違いない。

「匂うな、ヨーデル、これはアカザサか?」

ヘンリクは視覚がなくなって、他の感覚が発達した。嗅覚もその一つだ。

昨日のアカザサの匂いと同じと、ヘンリクが認識したということだ。


「エッデルブルグ子爵領の葡萄畑にある古い葡萄の樹に、希に生えるそうです。」

「大発見ですぞ!」

「レイゼラが言うには、3日続けて服用すると、激しい下痢症状になるらしい。」

「ヨーデル。」

ヘンリクが、ヨーデルに直ぐに、エッデルブルグ子爵領に向かい、調査と保護を命じた。


「ヨーデル、フレディを連れていけ。既に待機している。」

ベッシーニ伯爵の賭博場の捜査は、後回しだ。

エイドリアンは、ヨーデルにエッデルブルグ子爵宛ての手紙を渡した。

「これがあれば、優遇されるだろう。レイゼラが書いた手紙だ。

フレディはデーゲンハルト公爵家として指示を出してある。警護や保護に手を回すことになる。」



コンコン、執務室をノックする音がして入ってきた二人の男性のうち一人は、右腕が動かないようだった。

マイケル・ストラトフォールド、ストラトフォールド侯爵の嫡男だ。

大股で、ガツガツ歩いて来るとヘンリク達がいるテーブル周りに、椅子を持ってきて座った。


「見慣れない女がいるな?」

「エイドリアン様の婚約者の女性でいらっしゃいます。」

マイケルの後ろに立つ男も武官のようだ。

「なかなかの美人じゃないか。」

品定めするような目つきが、好きになれそうにない。レイゼラは、思わずエイドリアンを見る。


「気にする必要はない。マイケル・ストラトフォールド。

第一司令官で、北部山脈での戦闘訓練から帰ってきたとこだ。」

エイドリアンの説明の間に、エイドリアンの影に隠れるレイゼラ。

いかにも勝ったとばかりに、エイドリアンがマイケルを見て、口の端をあげる。

「相変わらず、心が狭いな。見るぐらいいいだろう。」

「レイゼラが恐がっている。レイゼラを泣かせていいのは私だけだからな。」

え?とレイゼラがエイドリアンをのぞき込む。

それ、どういうこと?聞きたいが、聞いたら余計にダメな気がする。



「それにしても、臭いな。

昨夜届いた薬を飲んだ。何だか右手が熱を持っているんだ。

こんな事初めてだぞ。」

「マイケル様、他にも感じた事はありませんか?

ここに新たな薬が届きましたので、さらに処方ができます。」

ヨーデルにとって、レイゼラが持ってきた、怪しいキノコを処方するのは決定らしい。しかも、飲むのは王太子を始め、国の中枢を預かる、王太子、補佐のエイドリアン、第一司令官のマイケル。


「他にと言えば、よく眠れたぐらいかな。」

疲れがとれたよ、とマイケルが報告する。

「あの臭い薬はそれか?」

マイケルは机の上のキノコを指すので、ヨーデルが説明した。


「これが、それか。」

マイケルは、キノコをつまみ上げみつめる。

「エイドリアン、お前が彼女を選んだのは偶然か?

またしてもエッデルブルグだ。」

マイケルが言っているのは、毒が入れられたワインの事だとレイゼラにもわかった。



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