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貴婦人は優雅に微笑む  作者: violet
番外編
61/65

たった一つの純情 アルベルティーヌ

ギュンターとフランセットは馬車で、公爵邸に向かっていた。

「僕は何も出来なかった」

フランが攫われた時に、居場所を探したのはパーミラ。

将軍の屋敷で先頭にたったのはオスカー。

頭を押さえてギュンターが(うずくま)る。

その手にフランが頬を寄せて、身体を預ける。

「違うわ、ずっとギュンターが一緒だった」

ここに、とフランセットは胸を押さえる。

「絶対にギュンターの所に戻るって決めてた。

お母さんが言ってたもの。

どんなに死にたくなっても、諦めちゃダメだって。

あの人、私のことエリスって言ってた」


「エリス・イスデニア、昔亡くなったマイケル・ストラトフォード将軍の婚約者だ」

誰が教えなくとも、耳に入ってくる事がある。

現王が即位した時代のことを家族は話さないが、ギュンターは知っている。



イスデニア・・・


どうして忘れていたんだろう・・


「馬車を戻して!」

急に暴れだしたフランセットをギュンターが抱きしめる。

「フラン、どうしたんだ!?」

「お願いギュンター、馬車を戻して!」




ストラトフォード邸に戻って来た馬車に、兵士達が駆けよってくる。

「どうされました?」

馬車の扉が開くと同時に、フランセットが飛び降りて屋敷に走っていく。

その後をギュンターが追う形になっている。



オスカーとユリウスは、全面的に非を認めるマイケルとの話し合い中だった。

公爵家の侍女を攫ったが、被害があったわけでもなく、少額の金銭的賠償になる話だ。

それをマイケルは、エリスに似ているフランセットに賠償として全財産を差し出すと譲らないのである。


「フラン、待って」

ギュンターの大声と共に、フランセットが部屋に飛び込んで来た。


「アルベルティーヌ」

はぁはぁ、と肩で息をしながら、フランセットがマイケルに問いかける。

「アルベルティーヌ・イスデニア」

知っていますか? 言葉の前にマイケルが()ねるように飛び上がった。

「知っているのか? アルベルティーヌはどこだ?」


追いかけて来たギュンターに肩を抱かれたまま、フランセットが泣き崩れる。

「母です」


「ずっと探していたんだ、謝りにいかなくては・・」

フラフラとマイケルが歩き出す姿は、夢遊病者のようだ。


「フランのお母さんは、もう長らく(わずら)っている」

フランセットの代わりにギュンターが答えた。

ギュンターもアルベルティーヌが元貴族とは知っていたが、イスデニアとは初めて聞いた。


「似ているはずだ。

アルベルティーヌは、エリスの行方不明の妹だ」

自分に納得させるかのように、マイケルが言う。

イスデニア伯爵家は爵位を取り上げられ、屋敷は誰かに火を放たれた。焼け跡には伯爵夫妻の遺体があった。

婚約者の家に花嫁修業に行っていた妹のアルベルティーヌは行方不明、それがマイケルの知っている全てだ。


「教えてください、どうして母は婚約者の家を追い出されたんですか?」

優しい母が、理由もなく追い出されたとは考えられない。

「私が15歳になった時に、母が全部教えてくれました。

罪人の一族だから、名前は捨てたと言ってました。

ギュンター、ごめん、離れたくなくて言えなかったの」

ギュンターが妻に望んでくれても、平民だけでなく罪人の子供は許されない。

でも、理由がわかればギュンターの側にいれるかもしれない。


フランセットの話にマイケルが膝をつく。

「追い出された?」

マイケルが事件の後、アルベルティーヌを保護しようと訪ねた婚約者の家は、アルベルティーヌが自分から出て行ったと言っていた。


「着の身着のまま外に追い出されて、屋敷の門に鍵をかけられたと聞きました」

話すフランセットは泣きながら震えている。


「なんだと!」

声もなく目を見開いているマイケルの代わりに、オスカーが声をあげた。

王太子暗殺未遂犯の妹だとしても、貴族令嬢が身一つで放り出されて、生きていけるはずない。



「違う、エリスは何も悪くない。悪いのは俺なんだ」

マイケルが地に這うような低い声で言う。


「じゃあどうして、お母さんは貴族でなくなったの? 婚約者の家を追い出されたの?

死にたくなるような事をされたの?」

悲鳴のようなフランセットの言葉が部屋に響いた。

フランセットはしまった、とばかりに口を両手で押さえた。


だが、フランセットの涙が止まらない、もう言葉が止まらない。

「私が15歳になったから気を付けなさいって。

お母さんは、逃げ切れなくって、物陰に引きづり込まれて何人もの男の人に・・・

痛くって、怖くって、死にたいって。

15歳のお母さんは、どうして?」


ギュンターもマイケルも、オスカーもユリウスも無言でフランセットを見つめていた。

貴族令嬢が、一人で街を彷徨(さまよ)っていたらどうなるか・・・



さっきフランセットを助けてくれようとしたメイドが飛び出してきた。

「同じ女性が側にいる方がいいかと・・」

言葉少なくギュンターに言って、フランセットの手を取った。



「ああああああ!!」

床を叩くマイケルの慟哭が部屋に響く。



「僕は絶対にフランセットと離れない。おばさんの婚約者とは違う」

ギュンターがフランセットを抱きしめようとして、メイドがフランセットとギュンターをソファに座らせた。

フランセットの涙は止まってなかったが、ギュンターにもたれて落ち着いてきた。

「うん、ギュンターは助けに来てくれたもん」


「おばさんが、生きていてくれて良かった」

ギュンターが(ささや)くように(つぶや)く。

「傷ついて、ボロボロになって捨てられていたお母さんを見つけたのが、お父さんだったんだって」

フランセットの言葉に、マイケルが顔をあげ床を叩く手が止まった。


「お父さん王宮の兵士だったんだって。

でも、王様の政変の時に大ケガしちゃって、軍を抜けてお母さんとエッデルブルグ領に逃げたんだって。だから、お父さんも、お母さんも、名前を捨てた。

お母さん、お腹が傷ついていて赤ちゃんは諦めていたのに、私が生まれたからお父さん大喜びしたって。

お母さん、お父さんに出会えた以上の幸せはないって。でも、お父さんは私が2歳の時に死んじゃったけどね」

メイドからハンカチを受け取って、フランセットが涙を拭く。

「王都に行くのを、お母さんが応援してくれたの。

私のことはいいから、ギュンターの側にいなさいって。

だから、貴族のギュンターの奥さんは無理でも、側にいる方法があるなら教えて欲しい」


「一生大事にする。僕の奥さんはフランだけだ」

貴族で無くなって、エッデルブルグ領で二人で働いてもいい。

貴族であるよりフランセットと一緒にいたい、ギュンターの想いは強い。


「将軍は君を攫った賠償に財産を譲ると言うんだ」

話を聞いていたオスカーが口を開いた。

「母君の治療に、この男の金を湯水のように使えばいい」

横でユリウスも同意している。

「エッデルブルグ伯爵夫人にストラトフォード将軍の養女なら、申し分なかろう。

ストラトフォード侯爵家は弟のオットーが継いでいるが、将軍も金ならたくさんある。

支度金も心配あるまい」


「そんな、俺に都合のいい話が・・」

マイケルが驚いているが、フランセットが1番驚いている。


「フランセット嬢、もし将軍の養女になっても、お祖母様の侍女である君はこちらで暮らすことはない。

結婚まではデーゲンハルト公爵家の別宅で、ギュンターと結婚後はエッデルブルグ伯爵家が君の暮らす家だ」

ユリウスがオスカーの後を引き継いで言うのは、自分も結婚に賛成しているという意志表示だ。

「まぁ、フランセット嬢の遺産を増やすために、この男は今まで以上に働くだろう」

王が喜ぶぞ、とオスカーが笑う。


ギュンターは立ちあがると、フランセットの前で膝をつき、フランセットの手を取った。

「フランセット、僕と結婚して欲しい。一生、君だけが好きだ」

まるで、ギュンターと結婚する為に将軍を利用しろ、と聞こえていたフランセットだが、最初に養女にしたいと言ったのは将軍だったと思い出す。

「私も、ギュンターと結婚したい」

だって、子供の頃から、ギュンターをずっと好きだったのだもの。


キャーと歓声をあげたのは、メイドだ。

「すぐ、お祝いの酒を用意いたします」

返事を待つことなく、メイドが準備に走る。


ギュンターとフランセットが照れながら、見つめ合う。





皆が帰ってしまった屋敷で、マイケルは絵の中のエリスに話しかけていた。

エリスの部屋には、たくさんのエリスの肖像画が掛けられている。

エリスを知らない画家達が描けるはずもなく、マイケルが自分で描いたエリスだ。

20年以上描いていると、画家並みに上手く描けるようになっていた。

「エリス、アルベルティーヌが見つかった。

遅くなってごめん。

君の姪も見つかったんだ」

ギュンターのプロポーズを(うらや)ましい、と思った。

自分には言えなかった言葉。言う資格もない。


「エリス、君に似ているんだ」

幸せを、願う。


番外編 たった一つの純情、 完結となります。

1,000万PV、もう嬉しくって、violet頑張りました!

読者の皆様も楽しく読んでくださったなら、嬉しいです。

感想、評価、嬉しいです!

何より、読みに来てくれるのが、とても嬉しくって励みになってます。

ありがとうございました。

violet

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― 新着の感想 ―
[一言] 妹さんを追い出した家、呪われてしまえ!罪のない少女になんて仕打ちだよ! 鬼畜はコイツら!
[一言] ギュンターとフランセットのお話も、番外編にするのにはもったいないくらい、完成した1つの物語ですね~。 マイケルは、女心としては許せないけど、若気の至りで調子に乗ってたのを一生自分で背負わな…
[一言] シリアスなシーンは胸が痛くなりましたが、ハッピーなだけじゃないストーリーが胸に刺さりました。
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