公爵邸の朝
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ビックリしたし、嬉しいです。
ありがとうございます。
エイドリアンは身体の火照りと重みで目が覚めた。
昨夜飲んだ薬の影響かと、半覚醒の頭で考えるが、感触がある。
半身不随の男に乗り上げて、寝ているのはレイゼラだ。
寝相が悪いらしい、さすがにこれは報告書になかったな、と笑いがでてくる。
「レイゼラ。」
エイドリアンの胸の上で、レイゼラがうっすらと目を開ける。
「エイドリアン様。」
モソモソと動いたと思うと、ガバッと跳ね起きた。エイドリアンの上に乗っていると自覚したらしい顔は真っ赤だ。
「ご、ごめ、」
言い掛けたレイゼラが両手で口を押さえて悶えた。慌てて動くのと謝るのを同時にした為に、舌をかんだらしい。
つぅぅぅ!
「ほらほら、こっちに来なさい。」
エイドリアンが引寄せると、力の抜けたレイゼラが倒れこんでくる。
「ごめんなさい、男の人に乗りあげるなんて、寝相が悪いって呆れないで。」
この娘は、私が半身不随とか気にしてないのだ。人間、気にしていればベッドの端に寄って近寄っては来ない、とエイドリアンは思う。
2年前の事件で、後遺症が残ったエイドリアンに周りは腫れ物を扱うように、接するようになった。
それを利用したのは間違いないが、エイドリアン自身も引け目があったかもしれない。
1年を過ぎる頃には、治療を続けても回復の兆しがみえない事に諦め、頭脳が守られたから問題ない、と思い込もうとしていたかもしれない。
「呆れてないから、朝のキスをおくれ。」
「ええ!?
頬じゃダメですか?」
「昨夜、キスは教えたろう?」
レイゼラの真っ赤な顔は、湯気がでるのではないかと思うほどになっている。
カク、カク、とぎこちない動きで、レイゼラがエイドリアンにキスをする。
「おはよ・ござい・ます。」
言葉も、変なところで途切れて緊張しているのが伝わってくる。機械仕掛けの人形のようで面白い。
「噛んだ舌をみせてごらん。」
エイドリアンの言葉に、レイゼラが少し舌をだす。
「よく見えないな、もっと口を開けて。」
そう言った時には、舌を舐めていた。
声にならない悲鳴をあげて、レイゼラが離れようとするが、エイドリアンがガッチリ抱きしめて離さない。
結局、エイドリアンに深く長いキスをされ、レイゼラがギブアップするまで離してもらえなかった。
「エイドリアンさまーー!
息ができなくて死にそうです!命がけのキスは困ります!」
レイゼラが涙目で訴えるが、エイドリアンは楽しくてしかたない。
これから、序々に教えていけばいいか、と思った時に気が付いた。
2年間、役に立たなかった下半身が熱を持っている。これは、昨夜の薬の効果か、レイゼラの影響か。
「レイゼラ、仕度しなさい。今日は私の車椅子を押して王宮に行くのだ。」
「王宮って王様のいるとこ!?」
ヒー、とレイゼラが両手で頬を押さえる。
「会うのは王ではなく、王太子だ。」
レイゼラはエイドリアンの仕度を手伝った後、部屋を飛び出していった。
公爵夫人のところに、挨拶のチェックを受けに行ったのだ。
エイドリアンと公爵が食堂で話をしていると、公爵夫人パーミラに連れられてレイゼラが来た。
「子爵家では、王太子殿下にお会いする機会もなかったでしょうが、公爵家に嫁いで来たからには、もっと堂々としなさい。」
「はい・・お義母様。」
か細い声でレイゼラが返事しているが、頼られてパーミラも嬉しいのが窺い知れる。
「エイドリアン、待たせました。」
母の言葉に、いえ、とエイドリアンが返事すると、レイゼラがイソイソと隣に座りに来た。
母のところで着替えたのだろう、シンプルだが、質のいいドレスに着替えている。
「家族が揃っての食事は久しぶりだな。」
父の言葉に、そう言えば、と思う。
公爵も、エイドリアンも仕事が忙しく、不規則な時間に食事をしていたため、揃う事は滅多になかった。
「エイドリアン、明日は私がレイゼラを預かりますから。他の者を使ってちょうだい。
この娘ったら、陽に焼けていて、戻すのが大変よ。
明日から集中的にします、ドレスも作らねばなりませんしね。」
いつも茶会で屋敷にいない母が、レイゼラの為に屋敷に詰めると言う。
高位貴族の令嬢と違い、レイゼラは教育が足りていない事が多く、母の庇護欲をかきたてたのかもしれない。レイゼラを中心にデーゲンハルト公爵家が変わってきた、エイドリアンはそう思わずにはいられなかった。