たった一つの純情 ギュンター
1,000万PV突破!!
うわっぁああ! 完結後も読みに来てくださり、ありがとうございます!
感謝、Thanks、Merci、謝謝、etc・・たくさんのお礼を!!
お礼に番外編を追加します。長くなりますので数回に分けてUPします。
楽しんでいただけると、嬉しいです。
ギュンター・デーゲンハルト。
エイドリアンとレイゼラの次男としてデーゲンハルト公爵家に生まれた。
レイゼラの実家であるエッデルブルグ伯爵家を継ぐことが決まっていた為、幼い頃からエッデルブルグ領に出入りしていた。
特に葡萄の収穫の時期は、祖父母に交じってワイン醸造の手伝いと称して工場に入り浸っていた。
領地の農民や季節労働者の子供達が遊び相手であった。
「フランセット」
名前を呼ぶ声がドンドン近づいて来ても、フランセットは無視して作業を続ける。
「フラン、僕も手伝うよ。
二人でした方が早い」
フランセットが持つ篭に、ギュンターが摘んだ葡萄の房が入れられていく。
「ギュンター様、そういうわけにはいきません。
作業が終わったら、いつもの所に行きますから」
俯くフランセットの長い睫毛が影を作る。
農民の子であるが、着飾ればどんな令嬢より綺麗になる、とギュンターは思っている。
「お母さんの調子はどう?」
フランセットが首を横に振るから、良くないのだろう。
「せっかく薬をもらったのに、良くならないの。
昔の夢を見るって、泣いてばかりで。
母さんって、貴族のお嬢様だったんだって」
貴族と聞いて、ギュンターも納得する。
フランセットの母親のアルベルティーヌは名前からして平民でないと思っていた。仕草も綺麗でフランセットにもマナーを教えていた。
フランセットはカーテシーも出来るし、本も読める。外国語も出来る。
フランセットは、こんなの役に立たないって笑うけど、アルベルティーヌが喜ぶからって、笑うんだ。
フランセットはアルベルティーヌによく似ていて、美しいと形容するのがふさわしい。
それがどうして、こんな所で平民として暮らしているのか、事情はわからないがフランセットは平民として生まれている。
自分達が生まれる前に、現王は前王を討って王位に就き、その時に多くの貴族が粛清を受けたと聞いている。
その中の貴族だったのかもしれない。
初めて見たときも、今も、フランセットより綺麗な女の子はいないと思っている。
王都で、王宮で、美しい令嬢も姫君もたくさん見たけど、その誰よりも、綺麗だ。
エッデルブルグに来るのは手伝いなど建前で、フランセットに会いたいからだ。
いつかは、ここでフランセットと暮らしたいと考えている。
どんなに気持ちを伝えても、賢いフランセットは応えてくれない。
エッデルブルグ伯爵家を継ぐべきだと言うのだ。
エッデルブルグ伯爵家を継いだとしても、フランセットがいないのなら不幸だと分かってくれない。
篭いっぱいの葡萄を持って、ギュンターとフランセットが工場に戻る。
周りもギュンターの気持ちを知っていて、フランセットにちょっかいをかける者はいない。
二人で手を繋いで歩く畑道を夕陽が照らして、頬が赤らんでいるのを隠してくれる。
小さな身体で、生活の為に葡萄畑で働いていたフランセット。
フランセットには父親がいなかった。アルベルティーヌは多くを語らなかったが、フランセットを大事に育てていた。
「ギュンター!」
待ち合わせの木に、フランセットが走ってくる。
「ごめん、随分待ったでしょ?」
ギュンターの手を取り、フランセットは自分の頬に当てる。
「こんなに冷えてる」
ごめんね、と繰り返す。
「寒そうなのはフランセットだ」
ギュンターは自分の上着をフランセットの肩にかける。
「ギュンター、ダメよ」
フランセットは領民、ギュンターは領主一族。
「覚えていて、僕は何より誰よりもフランが大切だ。
僕からフランを奪う者がいたら、殺しても取り返す」
怖い言葉なのに、フランセットは嬉しいと思っている自分を知っている。
「最後は、ギュンターと一緒に死にたい」
「僕もだ」
その夜、二人は初めてのキスを交わした。
幸せな時間は短く、フランセットは母の介護に戻らねばならない。
家の前まで送って、また明日と別れる。
いつかは一緒の家に帰りたい。
ギュンターは唇に手を当て、幸せを噛みしめる、
もう、手放せない。
夜遅くに、ギュンターは祖父であるエッデルブルグ伯爵の部屋を訪れた。
ギュンターの顔を見て、エッデルブルグ伯爵は全てを悟った。
昔、娘のレイゼラが婚約解消されて帰ってきた日の事が思い出された。
思い詰めた顔、のしかかる責任、捨てられない想い。
この孫は、エイドリアン・デーゲンハルトの息子だ。
似ているのだろう。
「お祖父様、お願いがあります。
フランセットを養女にして、僕を婿にしてください」
そんな事しなくとも、エッデルブルグ伯爵家はギュンターが継ぐ事になっている。
「フランセットを養女にするには、フランセットの事情を調べねばならない。
いいか?」
エッデルブルグ伯爵は、フランセットがよく働くいい娘であることも、ギュンターの想い人であることも知っている。
だが、これはデーゲンハルト公爵家の意向も考慮しなければならない。
エッデルブルグ伯爵家だけの問題ではない。
もし、ダメとなったらこの孫は、フランセットを連れて逃げるぐらいするだろう。
フランセットの方が、それを許さないだろうが・・
あの娘は、思慮深く、母親思いで身分をわきまえている。