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貴婦人は優雅に微笑む  作者: violet
番外編
53/65

美しきカデナ

うわぁ! 歓喜の叫びをあげてます。

800万PV突破!!

レビューもいただきました!

ありがとうございます、うわぁ、うわぁ!


お礼に番外編を追加しました。

読みに来てくださって、感謝の気持ちを少しでも表したいです。

真っ白なドレスに身を包み、カデナは自分が飾られていく様を見ていた。

ヘンリクは王太子としての義務で自分と結婚する。

この結婚でヘンリクの王太子としての地盤がゆるぎないものとなる。

ヘレン妃の力が強い王家で、軍総司令官であるグフタフ公爵の後ろ盾は必要なのだ。

分かってはいても、それを悲しい自分と嬉しい自分がいる。


王太子の結婚の祝福で国中の鐘が鳴らされ、グフタフ公爵令嬢カデナ、王太子の婚約者から王太子妃となる。


「美しいなカデナ」

ねぇ、それは心から言ってくれているの?

ヘンリクに手を取られ、祭壇の前へ進む。

貴方の心が私にないとしても、私は貴方といたい。


「とても綺麗だ。逃してあげれなかった、これからは守るから」

「殿下?」

ヘンリクが囁くような声はカデナに届いた。


「私は、殿下が誇れるような妃であり続けます」

貴方に有用な人間であれば、側にいられる。

私は貴方が欲しい。

その為に家柄が役に立つなら使う事に躊躇はしない。

誰よりも美しくありたい、貴方が見てくれるように。

教養が必要なら身に付けよう、私以外の人が貴方の横に立たないように。



「私、ヘンリク・ノーマンはカデナ・グフタフを妻にすることを誓います」

カデナのウェディングドレスの姿は賞賛するほど美しい。

「私、カデナ・グフタフはヘンリク・ノーマンを夫とすることを誓います」

ヘンリクは自分の隣に並ぶカデナの結婚の宣誓を聞いている。

カデナならば、今の不安定な王太子でなくとも、どこにでも嫁げたであろう。

私の婚約者ということで、幾度か危険な目にあったのは知っている。

ヘレン妃にとって、王太子妃、もしくは王太子の婚約者が懐妊することは何よりも許せない事だ。

クレドールの王位が遠くなることだから。


私は結婚には政的意味しか持っていない。父王が母にしたこと、愛妾であったヘレン妃にしたこと、愛情を優先させた結果がこの国の現状だ。

王族の結婚とは国の安定と直結する、それを王としての幸福と呼ぶのだろう。

結婚したら、妃一人を大事にすると決めていた。

それがカデナだ。

もしカデナがクレドールを婚約者としていたら、状況は変わっていた。





「妃殿下、王太子殿下が毒に倒れました!」

扉を開けて駆けこんで来た侍従の言葉に、音を失った。

毒?

王族は毒に身体を慣らしてある、簡単には死なないはずだ。

そう自分に言い聞かせながら、カデナはヘンリクの執務室に向かった。

すでに医師達が治療を始めており、駆け付けたカデナが手を取ってもヘンリクはピクリとも動かない。


「直ぐに吐き出され、飲むことはなかったようです」

青ざめるカデナに医師は説明する。

その言葉に、少しの明かりが見えたような気がしてカデナは顔をあげた。


「犯人が捕まり、持っていたのはジイラの毒でした」

銀器にも反応せず、無味無臭の即効性で解毒薬のない致死毒。

ジイラの毒は手にいれるのも難しく、僅かな量で即死するために、身体を慣らすことは出来ない毒。


飲んでなくとも、口に含んだだけでこの状態なのだ、ジイラの毒に間違いないのだろう。

「お覚悟が必要だということです」

医師の言葉に、倒れそうになる身体をカデナは叱咤(しった)する。

私が倒れたら、だれが殿下の側にいるの!

殿下の隣は私だけのもの。


いやよ! 神様にだって渡さない、殿下は私のものよ!






温かい。

お湯か、誰かが身体を拭いてくれている。

心地よい。

布を絞っている音、湯が(したた)る音、この声はカデナ。

「殿下、次は右肩を拭きますね」

温かい布が肩にあてられ、それをしているのがカデナと分かる。

侍女ではなく、自らが私の世話をしているのか。

目を開けて・・・

(まぶた)は動く、カデナが見えない。


「え、手が」

カデナの声が震えだして、差し出したヘンリクの手をカデナが握る。

「殿下!

誰か侍医を呼んで!

殿下が目を覚まされたわ」

カデナが握ったヘンリクの手に頬を寄せてるのが分かる。

泣いているのか、涙が手に流れてくる。

カデナの嗚咽(おえつ)と共に声が漏れ聞こえる。

良かった、生きていてくれて良かった。


「カデナ」

「はい、殿下」

「君が見えない、真っ暗なんだ」

視力が戻ってない、そういうことだ。



医師の診察は、ジイラの毒で生き残った例はない、意識が戻ったことが奇跡。

レディガーネットだから含まれた異物に気が付き、飲み込まなかった。

あの純粋さが我々の命を繋いだ。

後遺症の視覚障害は一時的なものかどうかも分からない、そうだろう。


数週間経っても、視力は戻らなかった。


ふと、インクの臭いがした。

横にいるカデナからだ。

そういえば、カデナは私の言葉を書いているようだ。

私の言葉を止めることなく、書き控えている。

速記。

公爵令嬢の教育にそんなものはない。

視覚障害の私の為に、この期間で身に付けたのだ。


父にも母にも愛されなかった私は、弟だけが家族と思っていた。

もっと近くにいるではないか。

こんなにもカデナの愛情を感じる事ができる。


「カデナ」

「はい、殿下」

ヘンリクはカデナの顔に手を()わせた。

「これからも、私の妃でいるつもりなら、もう殿下は卒業しないか?

ヘンリクと呼べばいい」

ヘンリクの手が震えるカデナの口元を撫でる。


「は・・はい、ヘンリク」

見えなくとも、カデナが笑っているのが分かる、それがこんなにも心豊かにする。

君の笑顔が見たかったな。

いつでも見れる立場にいたのに、笑顔にさせてあげる事が出来なかったな。


「私の書類を読めるか?」

多分、その練習もしているのだろう。カデナの声がかすれている時がある。

私が寝ている間に、自分の寝る時間を削って練習しているのだろう。

「速く間違いなく、分かりやすい音を出すようにします」

カデナの答えは、思った通りだった。


「私は王太子を降りはしない。

それでは犯人の思惑通りだ、絶対に成し遂げてみせる。

そして、本当の犯人に報復する」

もう視覚が戻るのでは、と期待することは止める。

今の私が全てだ。



それでこそ、私の王子様だわ。

私がヘンリクの目になる、カデナは決意新たに誓う。

でも、視覚がなくなった時に、これで私だけのもの、と思ってしまった。


婚約者として会うたびに、私が貴方に惹かれていたなんて教えない。

誰よりも剣も勉強も頑張っていた姿を知っているのは私だけ。

貴方は努力の人、どこにも逃げようとしない。

今の貴方も眩しいなんて、私だけの秘密。

誰にも貴方をあげない。


ヘレン様、貴方にヘンリクの命をあげない。

私が守ってみせる。


生き残った者と共に生きるカデナの覚悟、いかがでしたでしょうか?


楽しんでいただけたなら、嬉しいです。

再度になりますが、ありがとうございました!

violet



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― 新着の感想 ―
[一言] 凄く良かったです。 天真爛漫なレイゼアも可愛かったですが、彼女を囲む人々も魅力的でした。 エイドリアンは腹黒大魔王ですが、彼の分かりにくい優しさをレイゼアが分かっていて、あの難しいエイドリア…
[一言] 目が見えなくなったヘンリクは文字通り他の人間に目を奪われることがなくなったのだから、カデナ嬉しかったのかもね…。 後世に偉人伝としていろいろなお話になる王妃になってそうですね… あの後だって…
[一言] こんにちわ(*^^*) 私は番外編が読めて歓喜の叫びです♪ カデナ&ヘンリクもいろいろあったんですネ カデナ様の一途だけど隠された激しい愛が素敵です もちろん楽しめました ありがとぅご…
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