公爵家の僕
スマホアプリ「まいどく」にて『貴婦人は優雅に微笑む』配信記念として、番外編を追加いたします。
まいどく版は修正・加筆されて配信となっております。こちらは削除しませんので、楽しんでいただけましたら嬉しいです。
公爵夫人の朝は優雅に始まる。
普通ならば。
「おはようございます、エイドリアン様」
「ああ」
応えるエイドリアンはレイゼラを見下ろしている。
レイゼラがベッドから落ちて、上を見上げているからだ。
「すごい音がしたぞ。ケガはないか?」
「なんとか」
笑ってごまかすレイゼラだ。寝相が悪いにしても、ベッドから落ちるのは久しぶりである。
夫婦の寝室を覗く趣味はないけれど、大きな音でビックリしたんだ。
レイゼラが寝ぼけてベッドから落ちたらしい、僕は覗いた部屋から出ていった。
厨房に行くと、朝のミルクが用意されている。
朝ごはんを食べたら、ヘンリクと遊ぼう。僕の予定は気ままなんだよ。
ヘンリクは王宮に住んでいて、ちょっと遠いんだ。
チビッ子の時は、レイゼラが馬車で連れて行ってくれたけど、今は一人で行ける。
遠出の散歩コースだ。
最近は、レイゼラの絵を描きに、じーさんが来るからそれまでに帰って来ないとならない。
僕は、レイゼラの膝に乗って絵を描かれるんだ。
じっとしていると、眠たくなってくる。
食堂に行くと、レイゼラがエイドリアンと朝食中だ。ひょいとテーブルにあがる。
僕の席は、レイゼラの隣だ。
エイドリアンが僕を見たが無視してやる。
あいつ邪魔なんだよな、僕のレイゼラなのに。
レイゼラが、メイドに何か言うと、僕の朝ごはんのお皿が出てくる。
ふー、お腹いっぱいになったら、王宮に行くかな。
テーブルから降りると、しっぽでエイドリアンの足をはたいてやった。
王宮に着くと、最初に行くのは、クラリッサの部屋だ。
この前の秋に生まれたヘンリクの娘で、ミルクの匂いがする。
レイゼラの次に好きな女の子だ。
まだ歩けないけれど、僕がわかるんだ。
クラリッサは僕のしっぽが大好きなんだ。
小さなベッドの端に飛び乗ると、クラリッサの小さな手が僕に伸ばされる。
しっぽを振ってやると、声をたてて笑う。
クラリッサは、僕が守ってあげないといけない気がするんだ。
おい、ヘンリク。
ヘンリクの執務室に入っても僕に気づかないようだ。
執務官に囲まれて、朝から疲れた顔しているぞ。
「みゃー」
やっとヘンリクが顔をあげて僕を見つけた。
「クー」
ヘンリクは眼鏡をはずして机に置くと、僕を抱き上げ無造作に頭をなでる。
馬車で僕より先に来ているはずのエイドリアンは、今日は自分の執務室にいるので、ここにはいないようだ。
「少し休憩しよう」
僕を抱き上げたまま、ヘンリクは足早に執務室を出る。
行くのは林の中だ。
途中で王宮の庭園に咲いている花を、無造作に千切って手に持つヘンリク。
むやみに千切ると、またカデナに怒られるぞ。カデナの大事な花が混じってないだろうな。
サクサク、枯葉を踏む足音が林にこだまする。
ヘンリクは僕を地面に置くと、大きな石の前に置いてある古い花を片付け、持ってきた花を飾る。
ヘンリクは何も言わない。
僕は蝶々を見つけて、追いかけている。
「さあ、やるか。戻るぞ」
おい、僕はまだ遊び足りないぞ、抱き上げるな、懐にいれるな。
がさつに頭をなでるな!
侍女のお姉さんが毎日ブラッシングして、サラサラが自慢の毛並みだぞ。
女は僕の白銀の毛並みと青の瞳にメロメロなんだぞ。
仕方ないな、お前、僕を好きだからな。
もう少しだけ、なでていいぞ。
ちょっとは顔色よくなったか。お前、忙し過ぎるんだ、カデナが心配していたぞ。
僕が来ないと、息抜きさえしないのは感心できないな。
「みゃー」
僕は帰るよ。レイゼラが待っているからね。
それに、絵描きのじーさんが来ているかもしれない。
レイゼラの膝の上は、ほんわかして気持ちいいんだ。
なでるのも、ヘンリク、お前より上手いぞ。
また来て遊んでやるよ。
クラリッサを守ってやらないといけないからな。
お前の娘だからな。
ヘンリクが執務室に戻って、床に僕を置くと、僕は扉に向かって走り出した。
僕の名前は、クー。
レイゼラ・デーゲンハルト公爵夫人の猫。
群青に近い深い青色の瞳の猫。
お読みいただき、ありがとうございました。




