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貴婦人は優雅に微笑む  作者: violet
本編
5/65

おかえりなさい

深夜になって、エイドリアンは屋敷に戻ってきた。

パタパタと足音が聞こえてレイゼラがかけてきた。

まだ寝てなかったらしく、ドレスのままだ。


「おかえりなさいませ。」

笑顔に見とれる。

「先に寝ておくように言わなかったか?」

待っていてくれて嬉しいのに、口からは違う言葉がでる。

「言われましたが、お話したいことがあって待ってました。」

「話とは?」

「もう言いました。」

どうやら、おかえりなさい、を言いたかったらしい。

そんな言葉、使用人以外から言われたことなかったと気がつく。父は仕事で忙しく、母は社交で忙しい。

「ただいま。」

記憶を思い起こしてみるが、初めての言葉だ。

レイゼラの顔が真っ赤になった、面白い。

エイドリアンの言葉で、真っ青になる人間は多いが、真っ赤になって口をパクパクさせている人間は珍しい。


待っててよかった、小さな呟きがエイドリアンの耳に届く。


「フレディ、もういい。自室で休め。後はレイゼラがする。」

車椅子を押していたフレディに仕事の終わりを告げ、レイゼラに代わらせた。



レイゼラは玄関からエイドリアンの部屋に向かう間、一日の出来事を話す。

馬車で王都に向かう間に、公爵夫人と仲良くなったらしいレイゼラは、エイドリアンが王宮に行っている間は、夫人に教育を受けていたらしい。


部屋に入ると、エイドリアンはレイゼラに、水差しの水をカップに注いで持ってくるように言った。

テーブルにヨーデルから渡された包みを取りだす。

封を開けると、漂うアカザサ独特の匂い。


「うわ、(くさ)い。

エイドリアン様、なんですか?

まるでジャクランのように(にお)いますよ。」

カップを持ったレイゼラがテーブルを(のぞ)きこんできた。


「ジャクラン、何だ?」

「古いブドウの樹に、たまに生えるキノコです。

乾燥させて保存するのですが、臭くって。

食用には向きませんが、薬になるのです。」

「ほぉ、どのような薬効がある?」

レイゼラが言いにくそうに答える。

「眠れない時とか・・・

便秘に効きます。

でも、3日続けて飲んではいけないのです。お腹がひどい下痢になりますから。」

匂い、下痢、ヨーデルの言葉と重なる。


「そのキノコは子爵領には保存して常備してあるのか?」

エイドリアンは、そのキノコを確認したくてたまらない。同じ植物でなくとも同属かもしれない。


「はい。

エイドリアン様、気になるようでしたら、お持ちします。

あの・・・私、緊張すると便秘になるので・・・持って来ているのです。」


レイゼラが荷物を置いてある部屋に取りに行っている間に、エイドリアンは考える。

レイゼラは毒消しの効能は言わなかったが、田舎では毒を服用することがないのだろう。つまりは毒消し作用があっても、必要なく知らないのではないか。

エイドリアンが王太子の執務室で初めて嗅いだ匂いを、レイゼラは知っていた。

王都の多様な物資の中には、似たような匂いはない。

明日の朝一番に、フレディとヨーデルをエッデルブルグ子爵領に向かわせよう。もし、貴重なキノコなら警備を厳重にせねばならない。



未来の公爵夫人には似合わない足音が聞こえる。

はは、と笑い声が漏れる。レイゼラが自分のものになって、いろんな事が動き出した。


エイドリアンは、見た事、聞いた事を忘れない記憶の持ち主だ。

些細な事も覚えているエイドリアンに比べ、周りの人間は忘れてしまう。何度苛立ったことか、子供の頃には諦めた。感情を抑えるのが普通になってしまっていた。

それが、レイゼラといると楽しくてしかたない。



「エイドリアン様、持ってきました。

袋を開けますから、覚悟してください。けっこうな量がありますから!」

駆けて来たのであろう、息を切らしたレイゼラが、鼻をつまむジェスチャーをしながら、袋を見せる。



粉末しか知らないエイドリアンには、アカザサの姿はわからない。それでも、レイゼラの袋の中のキノコと粉末のアカザサは同じ匂いであると確信した。

「これを貰ってもいいか?」

「もちろんです。

カップのお水はどうされますか?」

エイドリアンは、レイゼラからカップを受け取ると、ヨーデルから渡された粉末を口に入れた。


「エイドリアン様、便秘なのですか?」

レイゼラは、同じキノコからの薬と思っているようだ。

もう少しで口に入れた貴重な薬を吐きだすところだったエイドリアン、慌てて水をふくみ飲み込んだ。


レイゼラは少し教育せねばならないな、とエイドリアンは思う。

「レイゼラ、今夜からは、私のベッドで寝るように。」

「えええ!まだ結婚前です。もう私達結婚したことになっているんですか?」

「大丈夫だ、私はこんな体だからね、何も出来ないよ。」

本当に?と疑っているレイゼラ。


大丈夫だよ、ちょっと教育するだけだから、と心の中でエイドリアンは言葉を付け足す。

楽しい夜になりそうだ。

レイゼラには、思った事を何でも口に出すとどうなるか、わからせないといけないからね。



鬼畜エイドリアン、楽しい夜って・・レイゼラ危うし。

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