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貴婦人は優雅に微笑む  作者: violet
番外編
48/65

夢一つ

デーゲンハルト公爵領にある別邸に、エイドリアンとレイゼラは来ていた。


新婚旅行を兼ねてやってきたのだ。

レイゼラは久しぶりの田舎の空気に、興奮気味だ。

湖畔に建つ別邸は、夏の避暑に使われる事が多い。

深い木々、木漏れ日、鳥のさえずり、静けさが辺りを支配している。

王都の屋敷とは、正反対である。


「エイドリアン様、来る途中に見えたお花畑に行きましょうよ。」

レイゼラは馬車の窓から、途中の風景に見入っていた。

エッデルブルグのような葡萄畑はないが、豊かな田園風景が広がっていた。


二人で手を繋ぎ、湖畔の路をたどる。

エイドリアンは足を少し引きずるが、杖が無くとも歩けるまで回復している。

手にはワインとチーズの入ったバスケットを持っている。


花畑でシートを広げ、ワインをあける。

レイゼラは花畑に入り、花摘みをする。

エイドリアンは持ってきた本を読み始めた。


レイゼラは、エイドリアンにもたれて、摘んできた花で冠を編み始めた。

時々、チーズをかじったり、ワインを飲んだり、気ままに過ごす。

完成した花冠を、エイドリアンに被せて遊ぶ。

「私より、レイゼラの方が似合う。」

そう言ってエイドリアンが、レイゼラに花冠を被せる。


のんびり時間が過ぎて行く。贅沢な時間だ。

夕暮れ近くまで、ゴロゴロ過ごして、また手を繋いで帰る。


「あれはムクドリですか?」

空を飛ぶ鳥の群れを見ながら、レイゼラがエイドリアンに尋ねる。

「多分そうだろう。」

「エッデルブルグの領地では、ムクドリが多いんです。

夕方になると、すごい群れで巣に帰って行くの。

それを見ると、帰る時間だってわかるの。」


それは便利だ、とエイドリアンが笑うと、そうでしょ、とレイゼラも笑う。


今度はエッデルブルグにも行こう、とエイドリアンが言う。

嬉しい、とレイゼラが答える。


館が近づくと、繋いだ手を離すのが寂しい。

見つめ合い、重なる唇。

「愛しているよ。」

「私も。」






「夢か、そうよね。

ありえないわよね。」

レイゼラが暗い寝室のベッドで目覚めて呟く。

どうやら夢を見ていたらしい。


「何がありえないんだ?」

エイドリアンも目が覚めたようだ。

「これの方がありえないだろう。」

そう言って、エイドリアンが指さすのは、エイドリアンの腹の上に乗ったレイゼラの足。


ボン!と真っ赤になって、レイゼラが足を下げる。

「気にするな、いつもの事だ。」

「エイドリアン様、デリカシーがありません。」

少しは言葉を、と言うレイゼラを、ニヤリと笑ってエイドリアンが後ろから抱き締める。


「こうすれば、蹴られないし、ベッドから落ちないぞ。」

「女性に対する扱いではありません。」

「仕方ない、レイゼラだからな。」

ははは、と笑いながら、エイドリアンがレイゼラの腰に腕を廻す。


「レイゼラは特別だ。」

え、とレイゼラはピクンとする。

「腹を蹴るのも、乗るのも許可しよう。」

「ひ、ひどい。

言い方があるでしょう。」

レイゼラが後ろのエイドリアンに頭をゴンゴンする。


「時間が取れたらエッデルブルグに行こうか?」

まるで、さっきの夢と同じ事をエイドリアンが言う。

「嬉しい!」

「ジャクランの管理状況も見たいし、葡萄畑も見たいからな。」


あれ?さっきの甘い夢とは違う。

少しガッカリするレイゼラ。

夢の中のエイドリアンはニッコリ笑ったのに、現実はニヤリと口の端を持ち上げる。


「私達の子供が継ぐ家だ。

管理をしっかりせねばな。」

子供の一人は公爵家、一人は伯爵家を継ぐのだ、と暗にエイドリアンが言う。

「こ、こ、子供!?」

先程とは、違う意味で赤くなるレイゼラ。


「たくさん欲しいな。

屋敷が賑やかになるぞ。」

子供の笑い声や泣き声、駆け回る足音、想像するだけで楽しくなってくる。

「早く会いたいですね。」

夢のままでは終わらない。

いつか来る現実。


やっぱり、この人と生きていきたい。

「好き。」

返事の代わりに、エイドリアンの唇が落ちてくる。


たくさんの方が来てくださり、とても励みになっております。

感謝、感激であります。

読んでくださり、ありがとうございました。

violet


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