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貴婦人は優雅に微笑む  作者: violet
番外編
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邂逅2

ヘレンが刺客を仕向けたと聞いて、クレドールはヘレンの部屋に駆けつけた。

「母上!どういうことですか!?」

「あら、クレドール。何が?」

何が、と聞かれて刺客を雇ったかとは聞けない。


「あの・・」

ヘレンはクレドールの言いたい事がわかっているのだろう。

「大丈夫よ、陛下もベッシーニ伯爵も貴方に期待しているわ。」

他にもね、とヘレンは貴族の名前を連ねていく。



王は、ヘレンを王妃にしたことで、宰相と軍の総司令官との溝が深まっていた。


ヘンリクの方も、王とは離れており、次代では自らの側近で固めるべく有能な人材が集まっていた。

エイドリアン・デーゲンハルト、マイケル・ストラトフォールドが最たる者である。


ヘンリクはクレドールに声をかけることはなかった。

クレドールはわかっていたが、兄を支えるべき人の中に自分がいないことが、哀しくもあった。


「母上、すでに王太子がいるのです。」

「あら、そんなものどうとでも出来るわ。私が王妃よ。」

ヘレンには何を言ってもムダである。自分の思い通りにいくものだと思っている。

そんなヘレンの周りには、ヘレンの思い通りになるように動く人間が集まっていた。


王太子の暗殺は避けられない、そう思わざるを得なかった。





クレドールは久しぶりに、林に来ていた。

クレドールは、自分が泣いている事に気が付いた。知らずに涙が(こぼ)れていたらしい。

枯れ葉を踏み、カサカサと音を立てて歩く。


ヘンリクとここで初めてあった日も泣いていた。

伯爵家に生まれた剣術の教師は言ったのだ。

「寵妃など、王の関心が無くなれば捨てられるのだ。」

子供でも、周りからはヘレンが侮蔑されているのが、わかっている。

贅沢を好み、王以外にも男を侍らせ、権力欲が強く教養の低い女。何度その言葉を聞いただろうか。


母にとって、王の子のクレドールだけが確かなものなのかもしれない。

王妃になっても、ヘレンは自分の後ろ楯として、数多の男性を侍らせている。


空を見る、林の隙間から見る空は青い、誰の空も青いのだろう。

二人の秘密の林にいれば、ただの兄と弟でいれた。


だが、現実は王女の子の兄、優秀で何もかも持っている。

兄の側近は優秀ではない、秀逸といえる者達だ。

自分には、何があるのだろう?

父と母の愛は、自分に向けられているが、それは自分を縛る鎖でもある。


兄を殺したら、全てが自分のものになるのか?

違う、それは分かっている。

だが、王太子という存在意義になる。


「ああ、楽しいな。」

クレドールの口から言葉がこぼれでる。


兄を殺す事を考えると、生きていると実感できる。

母が兄を狙っている以上、兄にとっても自分は不都合な存在であるだろう。

兄が自分の存在を認めている、それが嬉しい。





着飾った紳士、淑女で賑わう夜会で、美しく微笑む令嬢がいた。

婚約者は、派手な女性関係の噂が絶えない。

実家からは婚約解消を申し出ているが、国一番の剣の使い手である婚約者が納得しないために、婚約は続いているとの噂まである。

結婚しても、男の女性関係がなくなると思っている者はいない。

周囲も気を使い、浮いた存在になっている。


「美しいレディ、僕と踊っていただけませんか?」

クレドールが声をかけたのは、マイケル・ストラトフォールドの婚約者、エリス・イスデニア。

「私と一緒だと、殿下に悪い噂がたちますわ。」

エリスは傷ついていたが、他人にすがろうとはしなかった。


「既に僕には噂がたくさんありますよ。」

さあ、と言ってクレドールはエリスの手を取り、ホールに歩いて行く。

その様子を見ていたのは、王妃ヘレン。


一瞬、周りはざわついたが、殿下の気まぐれだろうと、気にとめる者はいなかった。


ダンスで二人が約束を交わした事を、知る者はいない。




エリスとマイケルは相愛の婚約者であった。

それは、マイケルの女性関係が派手になるにつけ壊れていく。

エリスも、最初は一時の事とマイケルを待っていたが、諦めに変わっていった。


何度も婚約解消を申し出たが、マイケルは結婚するのはエリスだからと、受け入れてはくれなかった。

愛人のいる男の正妻になって嬉しい女性などいない。

マイケルの本気はエリスであったが、エリスの気持ちが離れていくのに気付こうとはしなかった。


好きな人だったからこそ、嫌いになった。

信じていたからこそ、憎んだ。

殺したいほど、好きだった・・・


心傷ついているエリスは、悪魔の囁きを聞いてしまった。

ヘレン妃がエリスに言ったのだ。

「貴女なら、クレドールの王妃にもなれるわ。

婚約者が解消してくれないというのなら、亡くせばいいのよ。

貴女の苦しみの原因は、あの男でしょ?」




マイケルの婚約者として、何度も執務室に出入りをしているエリスは、その日も差し入れのワインを持って登城した。

王太子達のお気に入りのワインだ。

王太子達がワインをあけて、グラスに注ぐ間際に毒をいれた。


やっと終われる、そう思った時、エリスに微笑みが浮かぶ。

(はかな)く、(もろ)く、美しい微笑み。

マイケルは倒れていく中で、エリスに見とれた。


エリスは、王太子暗殺の証拠である毒の残りを捨てなかった。

やがて腐臭がする事を知っていたはずなのに。


マイケルは毒から意識が戻った時に、ふらつく身体でエリスを探した。

処刑されたと聞いて、床を這いずって泣いた。

エリスの墓を掘りかえそうとして、周りの人間に取り押さえられた。

それでも、エリスを呼び続けた。




エリスの墓は罪人として、王都の外に花に埋もれてたたずんでいる。


クレドールの墓は、謀反人であるが、王族として王宮の近く、昔遊んだ林の中にある。


罪人(つみびと)ではあるが、誰かのかけがえのない人でもあるのだ。



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― 新着の感想 ―
[良い点] エリスはマイケルを憎んでいただろうなぁ、と思っていたのでこの話には納得です。 マイケルは婚約者の気持ちがわからない冷たい愚かな男だと思ったのでしょうね。そんな愚かな男が自分の夫になる未来の…
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