邂逅1
感動のあまり、プルプルしております。
PV300万突破!
ありがとうございます!!
お礼に番外編邂逅を数話、投稿させていただきます。
お楽しみください。
草を踏みしめる音に気が付いた。
クレドールは泣いていた顔をあげて、音のする方を見る。
「驚いた、僕以外にこんな場所に来る者がいるなんて。」
現れたのは、王太子ヘンリク。
「兄上・・・?」
「そうだよ、クレドールだね?」
ヘンリク6歳、クレドール5歳。
母の違う兄弟は、会うことは滅多にない。
そこは王宮の広大な庭園の奥深く、庭師もほとんど手入れに来ない為に草が生い茂っている。
王宮の敷地内というより、王宮の側の林と言ってもいい場所である。
「どうして泣いてたの?」
「剣術が上手く出来なくて、ケガをしてしまったのです。
そうしたら、母上が先生に怒ってしまったのです。」
クレドールの幼児のぷっくりした手の甲には、擦り傷がある。
次からは、違う教師になるのだろう。
ヘンリクは、落ちている枯れ枝を拾うと、小枝をそぎ落としてクレドールに渡した。
「僕と剣術の練習をしようか?」
クレドールは最初驚いた顔をしたが、みるみる笑顔になって、ヘンリクに飛びついて来た。
「ありがとう、兄上!」
それから、時々二人はその林で会うようになった。
クレドールは侍女が側にいない、昼寝の時間に抜け出してきた。
ヘンリクもその時間に合わせるようになった。
もちろん、二人が会わない時の方が多かったが、草に寝転がったり、植物の観察をして過ごした。
ヘンリクとクレドールが一緒になった時は、剣術をしたり、持ち寄ったお菓子を食べたり、林の探検もした。
それは、誰も知らない二人の秘密だった。
熱い夏も、寒い冬も林に子供の笑い声が響いた。
2年が経つ頃、ヘンリクの母である王妃が亡くなった。
それを境に、ヘンリクは林に来なくなった。
行く時間が無くなったというのが正しいが・・・
王太子としての教育は増え、監視の目も厳しくなった。
クレドールはずっと待っていたが、そのうち林に行く事は無くなった。
それから何年も過ぎ、お互いがすれ違いの生活が続いていた。
「父上、それは真ですか?」
クレドールが、父である王から聞かされた言葉を確認する。
「ああ、ヘレンを王妃にする。」
ソファーから立ちあがりかけたクレドールは、もう一度座り直す。
母であるヘレンは満面の笑顔だ。
「私が王だからな、反論はさせないよ。」
王の力、侯爵家に養女にいったとはいえ、男爵家の生まれのヘレンを王妃にする力。
クレドールは父をみつめた。
「ヘレンもクレドールも苦労をさせた。正妃の子供となれば、正式な王位継承権が持てる。」
「まぁ!」
王に抱きつかんばかりに喜んでいるヘレンの横には、ベッシーニ伯爵が控えている。
「陛下、よくぞご決断をなさいました。」
「もっと早くにと思っていたのだが、なかなか難しくてな。」
「とんでもありません、陛下ならばこそです。」
ベッシーニ伯爵が侍従の代わりに、王にお茶を継ぎ足す。
「とっても嬉しいですわ、陛下。
陛下は私とクレドールを守ってくださるので、幸せですわ。」
ヘレンが王に微笑む。
「愛は見えませんが、陛下は形にしてくださいますのね。
陛下のそのお気持が、とても嬉しいのです。」
家族でお茶の時間を楽しんでいた王は、執務に戻っていった。
ヘレンは機嫌がいいのだろう、笑顔が途切れない。
「王太子に何かあったら、クレドールが王よ。私は王太母よ。」
何を言うんだと、クレドールはびくついたが、ヘレンは気にしていないようである。
うふふ、と笑っているヘレンは、ベッシーニ伯爵と話をしている。
「王妃になれば、ドレスも宝石も相応にしなければね。
寵妃とは格が違うもの。」
「王妃様、いい宝石商がいます。」
「あら、ベッシーニ伯爵、まだ王妃様は早くてよ。
それで、宝石商って?」
「いえいえ、すぐにふさわしくなられますよ。
サファイアの産出国の宝石商です。
ご紹介いたします。」
あらら、楽しみね、とヘレンが言う。
「母上、僕は部屋で勉強をしています。」
そう言ってクレドールが立ち上がると、ヘレンが近寄って来た。
「しっかりお勉強するのよ。
陛下の後を継がねばならないのですからね。」
そこで、はい、とは返事ができないクレドールは、逃げるように部屋に戻った。
母は本気だ・・・・
兄上がいるのに。
不慮の事故、ふいに浮かんだ言葉に身震いする。
なんとかして、母を止めたい。
この時、クレドール13歳。