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貴婦人は優雅に微笑む  作者: violet
番外編
43/65

新しい家族

たくさんの方に読みに来ていただき、PV200万超えとなり、ささやかなお礼として、番外編をつけさせていただきます。

レイゼラは、サファイアのネックレスとイヤリングを着けて、王宮の近くにある墓参りに来ていた。

何度か来ているので、通い慣れた道でもある。


出産が近づき、ナーバスになっているカデナの話し相手に登城するついでに寄っている。

ヘンリクがよく来ているらしく、その墓に花が絶えることはない。


墓の主は、クレドール・ノーマン。

ひっそりと葬儀が行われ、ヘンリクの願いで王宮近くに眠っている。


ガサガサ、近くで草の音がして、レイゼラはびくつき、警護が緊張を高める。


「みゃー。」


そこにいたのは、子猫。

薄汚れてはいるが、白い毛並みだろう小さな身体は、やせ細り、弱っているようだ、力なく丸まって鳴いている。


レイゼラが手を出そうとすると、警護が止めた。

「奥様、病気を持っているかもしれません。

むやみにお触りなさいませんように。」


そう言われれば仕方ないが、放っておくことも出来ず、レイゼラは、公爵邸で焼いてきた菓子を取りだす。

食べやすいように、小さく割って、子猫の近くに置こうとして、子猫の顔を見た。





「その猫は、私がひきとる!」

力説しているのは、国王ヘンリク。



レイゼラは、王宮の片隅で子猫にミルクを与えていた。

警護が止めるのもきかず、子猫を抱き上げ連れて来たのだ。


カデナには、子猫を連れているむねを伝え、参上出来ないお詫びに、菓子だけを届けさせた。

妊婦の側に、汚れている動物を連れて行くわけにはいかない。


カデナから事情を聞いたのだろう、ヘンリクが様子を見に来て、先程の言葉になったのだ。


「陛下、ありがとうございます。

けれど、カデナ様の出産が終わって、お子様に抵抗力がつくまでは、動物は近づけない方がいいと思うのです。」

レイゼラの言うことは、もっともだが、ヘンリクは諦めがつかない。


「私が引きとりますから、陛下が名前を付けてくださいませんか?」

「クー。」

ヘンリクが、子猫に呼び掛けると、ミルク皿から顔を上げ、ヘンリクを見つめた。


汚れてはいるが、洗えば真っ白になるだろう毛の色である。

瞳は、レイゼラのネックレスと同じ色。

群青に近い、深い青。


「クー、よくぞ戻って来てくれた。」

そう言ってヘンリクは、子猫の頭をなでた。

子猫は気持ちよさそうに、ミャーと鳴く。


夢でもいいから、会いたいと思う人は夢にもでてこない。

恨み顔の人間はでてくるのに、とヘンリクは思う。

願いがこの子猫を、そういう風に見てしまうのも・・・わかっている。


「陛下、早く戻らないと、今頃、宰相が怒ってますよ。

カデナ様の様子を見て来る、と言って執務室を出て来たんですから。」

ヘンリクの後ろから、次官が声をかけてくる。


様子を見に来たヘンリクに、用事をいいつけたのはカデナである。

『クレドール殿下のお墓の近くで、レイゼラが子猫を拾ったそうなの。

厨房からミルクを貰って飲ませているから、見て来てくださる?』


「時々は、王宮に連れてくるのだぞ。」

そう言い残して、ヘンリクは執務室に戻っていった。


レイゼラは子猫を抱き抱え、屋敷に戻ると猫をお風呂に入れ、パーミラの部屋に連れて行った。

子猫は、お腹がふくれ、身体を洗われて疲れて眠っている。



エイドリアンが公爵邸に戻ってきたが、レイゼラが部屋にいない。

ヘンリクから、猫の事を聞いたエイドリアンは、いつもよりずいぶん早く帰宅したのである。


エイドリアンにとってイヤな予感はあたる。

レイゼラが子猫に夢中になっていたのだ。

あろうことか、そこに、母パーミラもいる。

まあ、おほほ。あらあら。

と楽しそうな二人の声がサロンから聞こえる。

子猫で遊んでいるらしい。


「お義母様、ご覧になって。

あくびをしてますわ。」

「まあ、可愛いこと。」

綺麗に洗われて、真っ白な毛並みの子猫の首には、青いリボンがつけられている。


サロンの扉を開けて、エイドリアンが現れると、レイゼラが立ち上がって駆けてきた。

「エイドリアン様お帰りなさい。

子猫を飼っていいかしら?」

既に、屋敷に慣れたようで、クッションの上でぐっすり眠っている。


エイドリアンは片眉をあげてレイゼラを見る。

たかが猫だ、殿下の瞳と同じ色だからと、気にする必要もあるまい。

ヘンリクはそこが気に入っていたようだ、うちで飼うか王宮で飼うかの違いだ。

私が留守の間のレイゼラの慰めになるだろう。

「よかろう。」

「エイドリアン様、ありがとう!」

瞳をキラキラさせて、レイゼラがエイドリアンに抱きついた。



それから毎晩、エイドリアンは猫の報告を受けることになる。


元気になってくると、どんどん過激な内容になっていく。

カーテンで爪をとぐ、ネズミを追いかけて屋敷中を大騒ぎで駆け回った。

飾り壷の中に落ちた、シャンデリアに飛び乗って降りれなくなった。


「最初は、殿下の生まれ変わりかと思いましたが、全然違いますわ。

こんなにイタズラなんて。」

レイゼラが、見て、と破られたレースをエイドリアンに見せる。

「所詮は猫だ。」

ヘンリクやレイゼラ達が生まれ変わりと勝手に思っているだけで、猫は猫だ。

エイドリアンにとっては、白い猫の認識にすぎない。

「でもね、ごめんなさい、ってスリスリしてくると許しちゃうのよ。」


「ヘンリクが連れて来い、と言ってたぞ。」

どうせなら、4~5日預けてしまえ、とエイドリアンは思っている。

「わかりましたわ。

カデナ様は、クーのイタズラが気に入ったようですの。」

まだまだ猫の話は続いて、デーゲンハルト公爵家の夜は更けていく。



ありがとうございました。

violet

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