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貴婦人は優雅に微笑む  作者: violet
本編
42/65

デーゲンハルト公爵夫人

これで、最終話となります。


たくさんの方に読んでいただき、そして、感想もいただいて、とても励みになりました。

ありがとうございました。

ヘンリクの戴冠式がせまっていた。


各国からの来賓が、すでに到着しており、外交会議でヘンリクもエイドリアンも更に忙しくなっていた。

エイドリアンは、ヘレン妃に加担した貴族の処置で、王宮に寝泊まりしている状態が続いている。

貴族院の承認のもと、父から公爵位を継ぎ、デーゲンハルト公爵となった。



レイゼラは、その日もカデナの元を訪れていた。

カデナは、お腹が少し目立つようになったが、安定期に入り、公務をこなしている。

レイゼラは、それを手伝っているのだ。

「レイゼラ、ヘンリクから使いが来てるわ。

西の来賓室に来るようにですって。」

カデナは、事務官が持ってきた手紙を読んで、レイゼラに声をかけた。


当然の様に、カデナもついてくる。

そこには、グランデアル王国の新王がいた。

戴冠式の為に来ているのだが、友好条約の調印の会議をしていたのだ。

前王は好戦的であったが、新しい王は、内政に力を入れ、融和をもって国を治めていこうとしていた。


「シュテフ・グランデアルだ。

レイゼラ・エッデルブルグ子爵令嬢かな?」

結婚式を挙げて3カ月が過ぎ、久しぶりに聞く自分の名前に、レイゼラが、少し遅れて頷く。


「グランデアル国王陛下、初めてお目にかかります。

私が、レイゼラ・デーゲンハルト、結婚前はレイゼラ・エッデルブルグです。」

深いカーテシーは、パーミラに指導を受けたものだ。


グランデアル王が机の上に置いたのは、豪華な装飾が(ほどこ)されたベルベットの箱。

カデナとレイゼラが席につくと、グランデアル王は、レイゼラに箱を開けるように言った。


「私が王になる前に、我が国の宝石商が注文を受けていたものだ。

代金も頂いている。

クレドール・ノーマン王子から、レイゼラ・エッデルブルグ子爵令嬢への贈り物との注文だった。」


そこにあったのは、緻密(ちみつ)な彫金がされたネックレスとイヤリング。中央にあるサファイアは、群青に近い深い青色。

クレドールの瞳と同じ色だ。

大きな石ではないが、強い輝きは最高級の石の証拠。


レイゼラは思わず両手で口元をおさえた、何と言っていいのかわからない。

エイドリアンを、(うかが)い見る。

答えたのは、ヘンリクだ。

「弟の形見だ、貰って欲しい。」

これは、クレドールの命だ。


「貰っておきなさい。」

エイドリアンがレイゼラに言う。

「はい。」

そう言うレイゼラの頬に涙が流れていく。






ヘンリクの戴冠式は、華々しいものだった。

宝石を散りばめたマント姿のヘンリクは、王としての威厳があった。

横に並ぶカデナの美貌が、それをさらに引き立てている。

国中の鐘が鳴らされ、新しい時代の始まりを告げた。



昼の戴冠式の後は、夜の祝賀会である。

各国の来賓、国内の貴族が集まり、エッデルブルグのワインが振る舞われる事になっている。


会場の王宮の大広間には、既にたくさんの人々が集まっていた。

煌めくシャンデリア、人々の談笑、淑女達の色とりどりのドレス、久しぶりの慶事に国中の貴族が集まっていた。


身体が弱くなったドラン伯爵の代理で来ているセルディもその一人である。

シフォンヌとは婚約解消した。

ポートダム伯爵家は、ヘレン妃に加担した事で取り潰しとなり、シフォンヌは行方不明となった。

2度も婚約解消し、最初は自身の浮気が原因で、相手は現在のデーゲンハルト公爵夫人である。セルディは、貴族との婚姻は難しい状態である。


エイドリアンは、取り潰した家の没収した領地の一部を、ヘンリクやカデナを守った護衛の騎士や、功績のあった者達に分け与え、叙勲した。

エッデルブルグ子爵は、レディ・ガーネットの功績と、レイゼラのカデナへの献身、ジャクランの保護の為、伯爵位を賜り、領地も広がった。


次々と大広間に、来賓と高位貴族が入場して来る。


デーゲンハルト公爵夫妻の入場に、セルディの目は釘付けになった。

エイドリアンにエスコートされたレイゼラがいたからだ。

ヘレン妃の誕生会で見た時よりも、美しくなっていると感じていた。


ヘンリクも、エイドリアンも人前に出るのは2年半ぶりである。

社交に出て来ず、執務室と自室だけしか行動しない二人に誰もが、不審に思っており、生存さえ怪ぶまれていた。

マイケルは軍に出ていたが、社交からは遠ざかっていた。



レイゼラからエイドリアンにとセルディの視線が移る。

エッデルブルグ家にいた家令の話では、デーゲンハルト公爵が息子の嫁にレイゼラを望んだと言っていた。


レイゼラが公爵夫人になるのが許せなかった。

どうせ、子爵の娘など、息子のエイドリアンに追い出されると思っていた。

レイゼラとエイドリアンが、寄り添って歩いているのが憎らしい。


自分はレイゼラが追い出されるのを待っていたのではないか、と気づく。

自分の元に戻って来て欲しかったのだ。




レイゼラはセルディが居ることに気がついた。

だが、どうでもいいことだ。

セルディに婚約解消された時の自分はもういない。

たくさんの涙と共に流れていった。


愛されることを知った。

哀しみも、辛さも、喜びもレイゼラを変えた。


人々の中央を、エイドリアンとレイゼラが進む。

レイゼラは、少し微笑んで周りを見る。


王と王妃の入場が告げられると、人々のざわめきは静まり、エントランスに視線が集まる。


王の入場で祝賀会が始まる。

人々の手にはワイングラスが配られ、祝杯の言葉で、レディ・ガーネットが飲み干された。


レイゼラがエイドリアンに囁くと、エイドリアンが口の端をもちあげる。

レイゼラが微笑み、エイドリアンの腕に腕をからめて、王の元に歩む。


カデナとレイゼラが微笑みを交わしあい、その場にいる全ての人が、二人に見とれる。

華やかな王妃と麗しい公爵夫人の存在は、ノーマン王国を鮮やかに彩っていく。






たくさんの喜びも哀しみも、レイゼラを貴婦人にしました。


また、お会いできる事を願い、完結とさせていただきます。

再度ですが、ありがとうございました。

violet

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― 新着の感想 ―
[一言] とても面白かったです。読みだしたら止まらなくなってしまいました~。 主役の二人はもちろんですが、周りの人たちも、すごくよくて、悪役も王とヘレン妃以外は全員好きです~。 こんなにすべての登…
[一言] 盛り上がりが凄くてここまで一気に読みました。終盤、とても切なくて泣きました。読めて幸せです。ありがとうございます。
[一言] セルディみたいに、エイドリアンの元婚約者に対するざまぁ的描写があるかと思いましたが、なかったのが残念でした。 ぎゃふんと言わせたかった(笑)
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