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貴婦人は優雅に微笑む  作者: violet
本編
4/65

王太子執務室

その後、エイドリアンは車椅子で王宮に登城した。

通いなれた王太子の執務室に向かう。



失明した王太子の側には、王太子妃のカデナがいる。事件の後は王太子の目となって側を離れない。

気位の高い公爵令嬢と思っていたが、王太子のことは本気で思っていたということだ。

あの事件で大きな後遺症を負ったが、本当に信頼の出来る者が残った。


「エイドリアン、今日は出仕しないはずだったのでは?」

王太子は足音で人を判別できるようになった。

「殿下、お知らせせねばならない事ができましたので。」

エイドリアンは、車椅子を押していた侍従のフレディに停めるように言った。

「このフレディには新しい任務を与えましたので、私の車椅子は別の者が押すようになります。

フレディはベッシーニ伯爵領に侵入させます。」

王太子が言葉を発する前に動く人物がいた。


「殿下、内密な話のようなので、私はさがります。」

それは医師のヨーデル・ストラストだった。

「いや、居てくれ。先生の話をエイドリアンにも聞いてもらいたいからな。」


「ほう、それは興味深いな。先にそちらの話を聞こう。」

エイドリアンが車椅子をヨーデルの方に向けた。


「臭うな。」

「臭いますね。」

エイドリアンとヘンリクが、ヨーデルの取りだした粉末に顔を見合わせる。

「この匂いでは、毒として役にたたないな。すぐにバレる。」

ヨーデルは、ヘンリクの言葉に頷く。

「これは毒としては、下痢をさせる程度です。

だが、毒消しとしては大きな力があります。身体中の毒素を体外に排出させます。」

ガタンと音を立てて動いたのはカデナだ。

「先生、すぐにその薬を手に入れて!」


「カデナ様、これは遠い東の国の商人から手に入れましたが、かの国でも貴重な植物らしいのです。

年に1本見つかればいい、というぐらいの珍しいアカザサというキノコから作られます。

100倍の重さの金と取引されます。」


ヘンリク王太子はカデナ妃の手を取り、自分の目に手をやった。

「昨夜、試したのだ。

この薬は、昨夜倍の量があった。私が半分飲んだのだ。」

「ヘンリク!!」

カデナが叫ぶ。

「確証もない薬を自分で試すなんて!」

ヘンリクはカデナの手を目に当てたままだ。


「今朝、うっすらと光を感じた。」

喜声をあげてカデナがヘンリクに抱きついた。

「本当ですか、殿下。しかし副作用の心配もあります。慎重に様子をみなければ。」

ヨーデルがヘンリクの腕をとり、脈を診る。


「体調はすこぶるいい。

そして、残りはエイドリアンとマイケルで試せ。」

ヘンリクは、ヨーデルに粉末を包むように指示する。

「これぐらいの量でも多少は違うだろう。

もっと量を手に入れねばならないな。ヨーデル、いくらかかっても手に入れろよ。」


「殿下、気持ちは同じですが、出来るとお答えするには、年月がかかると思われます。

我々医者でも、生涯に何度お目にかかるか、という代物です。」

「仕方あるまいな、希望が出ただけでもよい。」

次は、エイドリアンの話だ、と王太子が言う。


2年前の事件で人員は淘汰され、執務室にいるのは、全員が協力者であり共犯者である。たとえどれ程、機密性が高くとも人払いをする必要もない。

「たいした話では、ありません。

父が結婚相手を連れて来たので、明日から車椅子を押すのが、その女性になるというだけです。」


「すごい話ではないか!

とうとう結婚するのか!

前の婚約者の時は、あの女と呼んでいたエイドリアンが、その女性と言ったぞ。」

ヘンリクが、もっと詳しく話せと言う。


「子爵家の令嬢ですが、私のこの身体では、子爵でも良いと父が判断したのです。正妻として迎えます。」

「エイドリアン、確かに我々は後遺症で、身体に問題があるが、子爵家からというのは、ありえないな。侯爵家以上でないと貴族院の承認が取れないだろう。」

「そうですわ、デーゲンハルト公爵家の格式で、子爵令嬢というのは無理ですわ。

王家の姫君でも降嫁の出来る家柄です。」

ヘンリクもカデナも、反対だと言わんばかりだ。


「レイゼラが平民でなかっただけでも、幸いです。」


「ちょっと待て。

まるで、そのレイゼラと結婚するために、子爵家でもいいと言わんばかりだな?」

ヘンリクが確認してくる。

「そうです。

この身体になった私に、父からの贈り物ですよ、すでに父が貴族院の承認も取ってあります。すぐに公表されるでしょう。

好きな女を妻に出来るように動いてくれたのです。」

淡々と話すエイドリアンは、まるで書類を読むように、好きな女と言う。


「好きな女だと!?初めて聞いたぞ。」

「それより、エイドリアン貴方おかしい。

好きな女性の事なのに、表情ひとつ変えない。」

「確かに、声の抑揚も変わらないな。

本当に好きな女なのか?」

ヘンリクとカデナが違和感を覚えている。


「私には、婚約者もいましたしね。好きな女ができましたと報告する事もないでしょう?」

「お前の婚約者は、2年前にいなくなったよな?」

そんな前からか?とヘンリクが確認する。


「5年程ですね。

私の元に来させるつもりはありませんでしたよ。危険すぎますからね。

密かに報告をさせているのを、父はわかっていたらしい。」


「お前が見ているだけの5年だったのか?

有り得ない!」

「そうですわよ。

この恐い男が、純愛なんてありえませんわ!

しかも、平然と恋の告白をしているのですよ!」

ヘンリクとカデナが言えば、ヨーデルも言う。

「エイドリアン様、人間は恋をすると興奮しますが、お見受けできません。」

そうですか、と悠然と答えるエイドリアンだ。


「エイドリアン、彼女のために結婚式はしなさいよ。

ウェディングドレスは女の子の憧れですから。」

カデナが、エイドリアンは絶対どうでもいい、と思っていると確信して言う。


「覚えておきます。

ところで、ベッシーニ伯爵領の賭博場の件ですが・・」

レイゼラが泣きはらした顔で、いってらっしゃいませ、と言ったのを思い出しながら、エイドリアンがフレディに書類を出させる。

笑顔も可愛いが泣き顔は新鮮だったな、とクスッと笑う顔を、カデナが引き()った顔で見ていた。



ヒロイン、ヒーローによってピンチにたたされる予感が・・・(笑)

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