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貴婦人は優雅に微笑む  作者: violet
本編
39/65

クレドールの決意

きゃー!

ヘレン妃の部屋に入って来たクレドールを見て、ヘレン妃が悲鳴をあげた。

「クレドール、服が血だらけではないですか!」


クレドールは、それには答えず窓の外を見ている。

街の方で土煙があがっている。

軍の本隊が駆け戻って来たようだ。



「母上、何故にレイゼラを殺すように指示したのですか?」

「レイゼラ?誕生会の時の娘?

だって、王太子妃と一緒にいる者は、全て始末せねばならないわ。」

フフフ、とヘレン妃が笑う。

「可愛い娘なら、いくらでもいるではないですか。」

ヘレンは、侍女達にクレドールの着替えを用意するように指示をしている。

もう、話は終わったと言わんばかりだ。


クレドールは剣に手をかけると、一刀でヘレンを切り捨てた。

「きゃーーーー!!!」

侍女達の悲鳴に、扉の外の警備兵が駆け込んできた。


クレドールは、剣を(さや)に収めながら言う。

「ここは、直ぐに戦場になるだろう。

お前達は逃げなさい。」


侍女も、警備も我先にと逃げ出した。

それを見て、クレドールは笑いが込み上げてくる。

「所詮、人などこんなものだ。

君は命がけで、王太子妃に付き添っているのにね。」


クレドールは、胸の隠しからハンカチを取り出し、口付けをする。


クレドールは、倒れている母親に視線を移す。多分、もう息をしていないのだろう。

「あっけないものだ。

もっと早くこうすればよかったんだ。」


兄は自分には優しかった。

優秀な兄が大好きだった。そして、憎かった。

他に道はあったとしても、やはりこうなっただろう、とクレドールは思う。





駆けてくる大勢の足音がする。

あれは、兄か、サルダトーレか。

ハハハ、とクレドールの口から笑い声がもれる。

軍の本隊が戻った以上、勝利の可能性は低い。

サルダトーレが、それまでに兄の首を取っていれば別だが。



バン!

大きな音を立てて扉が開いた。

「ヘレン妃!」

声は、ヘンリク・ノーマンのものだ。


「やはり兄上が来られましたね。

母はそこです。」

そう言ってクレドールが指さす先に、ヘレンが血を流し倒れている。


「クレドール?」

「僕の大事な妖精を葬ろうとしたのです。」

ああ、とヘンリクはカデナから聞いていたのだろう。

僕の妖精はレイゼラだとわかる。


「兄上、目が・・・」

クレドールもヘンリクが目を開いて、一人で行動している事に気が付いた。

「いつから?」

「一月程前からだ。良い薬が手に入ってね。」

「そうですか。」

そう言うクレドールは、エイドリアンが立っているのを見ている。


クレドールが血塗られた剣を抜くと、周りが殺気立つ。

「兄上、先に言っておきます。

父上は、執務室におられないようなら、ダーツ室です。お好きですから。」

「そうか、それは知らなかった。

だが、私は政治の駒として王の子供にうまれたが、父親はいない。」

哀しそうな笑いを顔に浮かべて、ヘンリクが言う。


「二人で決着をつける。手を出すなよ。」

ヘンリクは、同行のオーツやエイドリアン達の動きを止める。


「大好きな兄上は、僕の憧れでした。」

「知っていたよ。

私の家族は、カデナと生れてくる子供とお前だけだ。」

「義姉上が。そうですか、おめでとうごさいます。」

二人とも、嘘を言ってはいないことが解っていた。


子供時代は、父親に愛されているクレドールが、羨ましいと思ったこともあった。

ヘンリクも政略の婚姻でカデナとは、両親のようになると思っていた。

だが、視力を失ったことで、カデナの愛を知り、変わっていったのだ。



「行きます。」

クレドールが剣を振り上げる。

ヘンリクの剣がクレドールの剣を受け止めると、大きな音がした。

もう誰も手が出せない。

兄と弟の死闘が始まった。


二人ともたくさんの兵達と交戦してきた後だ。

ヘンリクは視力が回復したとはいえ、完全ではない。

クレドールは手負いである。

幼い頃から武術の手ほどきを受け、人並み優れた能力の二人だ、長引くかと思われた。


戦いを終わらせたかったのは、クレドールだったのだろう。

ヘンリクの剣がクレドールを斬り裂いた。

「クレドール!」

崩れ落ちるクレドールを、剣を投げ捨てたヘンリクが受け止める。


「兄上、乱れてしまったこの国を頼みます。」

ゴボッとクレドールが血を吐いた。

「わかった。」

「兄上の腕は、温かい・・な。」

そう言って、クレドールは胸に手を当てると息を引き取った。


ヘンリクはクレドールの髪をなで、床に寝かすと、胸の隠しを探った。

そこには、青い糸で刺繍されたハンカチ。

「一緒に墓に入れてやるからな。」



ヘンリクは立ちあがり、周りを見渡す。

「行くぞ。」

狙うは王の首。


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― 新着の感想 ―
[一言] クレドール!!!。゜゜(´□`。)°゜。 もっと他に道はなかったのかな。。 悪役って分かってるけど、全然憎めない(泣 せつない。泣ける、、、
[一言] クレドールが本当に哀れですね。 母親は彼に地位を与え、権力を持たせることには必死だったのかもしれないけれども、彼の気持ちや感情を考えたことはほとんどなかったのかもなぁ…と思いました。 あれく…
[一言] クレドール…。 泣いてしまった(TдT)
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