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貴婦人は優雅に微笑む  作者: violet
本編
36/65

カデナ

総司令官室に、王太子、宰相、総司令官、エイドリアンが集まっていた。

北部の暴動の規模など、情報が確認されていた。

ヘレン妃が集めた人員が、農民達を誘導し、暴徒化しているのは間違いない。


「軍を誘き寄せた後、手薄になった王都で蜂起だろう。」

宰相が言う。

「かねてから、王都の情報も探ってますが、それらしい集団は見当たりません。」

総司令官が、巡回などで軍が偵察していた様子を伝えた。


「ベッシーニ伯爵領だろう。」

机に広げられた地図のベッシーニ伯爵領を、指しながらエイドリアンが、王都に近いと言う。

だからこそ、賭博場として繁栄しているのだ。


地図には、暴動の起こっているサランダー男爵領に大きな印がついている。

その横に、エイドリアンはバツ印を書き込んだ。

「ここにストラトフォード第一司令官がいます。」

「北西演習地から、かなりあるな。移動したのか、どういう事だ?」

総司令官には、無断で移動しているということである。


「マイケルの移動に合わせて、サランダー男爵領に忍び込ませた手の者に、暴動の火種となるように指示してありました。」

「なるほど、暴動が起こったという事は、既にストラトフォードが来ているからだ、ということだな。」

「はい。」

「サランダー領では、いつ暴動が起こってもおかしくない状態でした。ならば、ヘレン妃が様子をみているなら、こちらの都合のいいタイミングでと、考えたのです。」

「それでも、軍は制圧に行かねばなるまい。」

うむ、と総司令官が納得しながらも、言葉に出す。


エイドリアンが地図の上に置いたのは借用書だ。

「ベッシーニ伯爵領の賭博で負った借金のようです。」


そこにかかれた名前を見て、総司令官が借用書を握りしめた。

「第二司令官、アイザフ・サルダトーレ。」

「彼を外した軍体制を考慮していただきたい。」

「かしこまりました、殿下。」


「それと、総司令官としても、義父上としても、話しておかねばならない事がある。

カデナが妊娠した。」


「おめでとうございます。」

その場にいた皆が、祝いを述べるがヘンリクの表情は暗い。

「世継ぎは嬉しいが、時期が悪い。」



「レイゼラを側にいかせましょう。」

エイドリアンの言う事が、カデナの為には最善であるが、公爵邸に比べ、王宮は危険が格段に高い。

エイドリアンを見たヘンリクの言いたい事は一つだ、いいのか?


「あの娘が知ったなら、自分から行くと言うでしょう。」

エイドリアンを援護したのは、宰相だ。

父親の言葉を聞くと、エイドリアンはフレディを呼び、レイゼラを連れて来るように指示した。


それは、自身をもってしても、世継ぎを守れ、ということだ。

レイゼラに武道の心得などなく、守りの役にはたたない。

だが、妊婦である、カデナの精神の安定には一番かもしれない。





夜明けを待ってレイゼラは登城し、すぐにカデナの部屋に向かった。

扉の前には、警備が増やされ、厳重体制になっている。


訪ねて来たレイゼラを見て、カデナは驚いたが、全てを察したようだ。

「まだ、朝早くてよ。」

「お祝いを誰よりも先に言いたかったものですから。」

カデナもレイゼラも危険が迫っている事はわかっているが、口にしたりはしない。

「おめでとうございます。」

「ありがとう。」


カデナもレイゼラも早朝というのに、身支度も化粧も完璧である。

たとえどんなことになろうと見苦しい姿はいけません、とレイゼラはパーミラに送りだされた。

カデナも同じ気持ちなのだろう、王太子妃という誇りがあるのだ。


「サンドイッチを作ってきました。お茶を淹れましょう。」

そう言ってレイゼラは、カデナの部屋を見渡したが、侍女の姿がない。

たとえ深夜であっても、王太子妃付きの侍女がつめているはずだ。


「先程、全員に実家へ帰るように言いました。

でも、イゼラとアビゲールが残ると言い張って、あちらの部屋で準備をしているわ。」

「勇者が二人もいて、素晴らしいです。カデナ様。」

「貴女もね。」

そう言って、カデナがレイゼラを見る。


「殿下はこちらには来られません。状況は刻々と変わっていくでしょう。」

カデナは、自分達でお腹の子を守るのだ、と言っている。

もちろん、何もない可能性もある。

北部の暴徒が制圧されて、それだけで鎮静化するかもしれない。


「最悪の事態を想定して、準備するのです。

もしもの時は、皆を盾にしてでも生き延びます。」

カデナの瞳はレイゼラを捉える。

「もちろんです。

どんな事があっても、お守りする為にきたのです。」

レイゼラが頷くと、カデナが微笑む。


「その時がこないことを祈るわ。」

王宮を捨て逃げることはできない。

王太子妃としての矜持がカデナを支える。



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