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貴婦人は優雅に微笑む  作者: violet
本編
35/65

終わりの鼓動

はい、と渡されたハンカチにエイドリアンは目を見開く。

「これを、私に持てと?」

もう慣れた、これは、ありがとう、という意味だとレイゼラは笑う。

「1番上手に出来ました。」

フフフ、とレイゼラが言う。

「2番があるのか?」

「2番はね、いっぱいあるの。1番以外は順番つけられないから。」

「そうか。」

そう言って、エイドリアンは胸の隠しにハンカチを入れた。


1番はエイドリアンだが、1番時間をかけたのは、カデナのハンカチである。イニシャルの周りに色とりどりの花を刺繍したからである。


レイゼラは、エイドリアンの車椅子を押しながら王宮に向かう。

このところ、王太子執務室に行っても、直ぐにカデナと二人、お茶に向かう。

男性達は、カデナとレイゼラを話に入れたくないらしい。

それが、優しさゆえとわかっている。



いつもの、東屋で、お茶にする。

カデナとレイゼラの二人だが、周りには護衛もついており、目立っている。

レイゼラは、早速カデナにハンカチを渡した。

貴族女性に刺繍は趣味だが、時間をあり余らせている女性の中には、プロ顔負けの腕前の者も多い。

「お恥ずかしいですが、田舎の花を刺繍しました。」

「嬉しいわ。今度は私がプレゼントしますわ、期待してね。」

「そんな、カデナ様に作っていただけるなんて、おそれ多いです。」

レイゼラとカデナは、主従関係にあるが、同志でもある。




カサッと草を踏む足音に振り向くと、

「僕が頼んだのに、忘れたの?」

クレドールが、また供も連れずに現れた。

「殿下のも、もちろんあります。」

そう言って、レイゼラはハンカチを取り出した。

それは、クレドールの瞳と同じ深い青い糸で刺繍されていた。


「イニシャルが目立ち過ぎるかな、とは思ったのですが、殿下の瞳の色は綺麗なので。」

ニッコリ笑って言うレイゼラは、青い鳥が綺麗です、というぐらいに簡単に言う。そこには、媚びもお世辞もない。


言われたクレドールの方が、顔を赤くしている。

片手で、顔を隠してクレドールが呟く。

「君は・・・」


クレドールはレイゼラから、ハンカチを受け取ると胸の隠しに入れる。

エイドリアンと同じである。


思わずこぼれでたレイゼラの笑顔に、クレドールの目は釘付けになる。


今のクレドールには、レイゼラを抱きしめることは出来ない。

せつない・・・という気持ちを知る。


「ありがとう。」

そう言って、クレドールは背を向けた。



クレドールの姿が花畑の先に消え去ると、カデナが尋ねてきた。

「私のハンカチはクレドール殿下のおまけかしら?」

「申し訳ありません、エイドリアン様のおまけです。」

シュンとしてレイゼラが答えると、さすがにカデナも笑いだした。

「あの男のどこがいいか、わかりませんわ。」

「そうなんです、私もどこが、と聞かれたら説明できません。」

すごくわかりにくいですが、優しいのです、とレイゼラは思う。


「クレドール殿下の方がいい、と思わないの?」

エリスの事があるので、カデナも気になるのだろう。

「エイドリアン様一人で手いっぱいです。」

「たしかに、それは言えるわね。」






深夜に、扉を叩く音に飛び起きた。

それは、デーゲンハルト公爵邸に響き渡った。


「北部地方で、領民による暴動発生!」


エイドリアンはベッドから飛び降りたが、まだ左足に力が足りないらしく、バランスを崩した。

なんとか体勢を取り戻し、不安そうにしているレイゼラに振り返った。

レイゼラを引き寄せると抱きしめ、優しくないキスをする。

「私を忘れるな。」

レイゼラの返事も待たずに、エイドリアンは背を向け寝室を出ていった。


既に馬車が用意されていたらしく、フレディを従え、公爵と共に乗り込んだ。

とうとう、嵐がやってきた。

この先は、誰にもわからない。

お互いが相手の先を読み手を打っている。それはどちらが先手なのかは、今はわからない。



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