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貴婦人は優雅に微笑む  作者: violet
本編
33/65

エッデルブルグ子爵領

セルディは伯爵領に戻ると、隣のエッデルブルグ子爵領に向かった。

それは、通い慣れた道で、レイゼラとの婚約期間が長かった事を思い出させる。




レイゼラと婚約解消して1ケ月余、シフォンヌとの結婚式は王都の学校を卒業する来年と決めてある。

ドラン伯爵には、ヘレン妃の誕生会の顛末(てんまつ)で謹慎処分が通知されていた。

セルディは領地に呼び戻され、父親に問い詰められると、事の次第を話したのだ。

「どうして、レイゼラと婚約解消など勝手にしたのだ。

もう、言っても仕方ないと1ケ月前には思っていたが、それが全てだ。

あの娘は働き者で、我が家でも可愛がられていた。

それに比べ、シフォンヌはどうだ?

1ケ月前に来たきりで、手紙の一つもよこさない。

おまけに、巨額の借金持ちの娘だ。」

「借金の事は最近知ったんだから、仕方ないだろ!」

セルディだって、そんな家の娘なら結婚しようと思わなかった。

「しかも、王妃の誕生会でとんでもない事をしてくれた!

直ぐにエッデルブルグ子爵に謝って、取り成してもらってこい。」


シフォンヌが洗練されて美しく、家柄も伯爵令嬢で自分に似つかわしいと思っていた。

だが、どうだ。

王妃の誕生会で見たレイゼラは、最初わからなかった。それほど美しく変わっていた。

日に焼け、荒れた肌は、しっとりとした、きめの細かい白い肌になっていた。

クレドール殿下に庇護され、歩く姿に見とれた。

横にいるシフォンヌが色あせて見えた。レイゼラの方が格段に美しい。


自分が王都でシフォンヌに乗り換えたと思っていたが、浮気していたのはレイゼラではないのか。

王妃の誕生会に招待されるなど、貧乏子爵家には無理だ。

あのドレスだって、婚約者からの贈り物と言っていたが、1ケ月前に婚約解消されて、すぐに婚約できる程の家ではない。

金のある、どこかの商家の後妻にでもなるつもりか。

年の合う貴族の男性は、既に婚約者がいるか結婚しているだろう。

クレドール殿下は別格だ、婚約者がいないのは厳選されているからだ。

あいつは、殿下と通じていたのかもしれない。僕を笑っていたに違いない。

婚約者ではなく、愛人候補ではないか。




馬を走らせながら、思考をめぐらせていると、見慣れた景色に違和感を覚えた。

それは、葡萄畑を見たときにわかった。

広大な葡萄畑が鉄条網で囲まれていた。これだけの工事をするには、どれほどの資金がいるのだろう。


失敗した。

エッデルブルグ家は、資産が回復していたのではないか?

現に、自分の留学費用の送金が滞ったことなどない。婚約解消して、送金が無くなるまでは。

送金が無くなった自分は、以前のような生活はできない。シフォンヌにプレゼントも出来ないでいる。

レイゼラと結婚すれば、金のなる木であるワイン製造は自分の物になったのに。



エッデルブルグ子爵家の屋敷に着いて、ノッカーを叩くと、出て来たのは見慣れない家令だ。

「子爵にお会いしたい。」

「お名前をお聞きできますでしょうか?

本日、子爵はどなたとも面会のご予定はありません。」

「セルディ・ドランだ。」

貴族の僕を玄関先に立たせたままとは無礼な家令、と思いながらセルディが名を告げると、家令はその場で断りの言葉を口にしたのだ。

「申し訳ありません。

ドラン伯爵家の方は、主に通さないように言われております。」

「なんだって!」


目の前で玄関扉を閉められそうになったセルディは、扉を持って閉めさせまいとする。

「僕は伯爵家なんだぞ!

子爵家の家令が、偉そうに言うな!」


「私の主は子爵では、ありません。

デーゲンハルト公爵でございます。

御子息エイドリアン様の婚約者であられる、レイゼラ様のご実家を守るように、(つか)わされております。」

デーゲンハルト公爵といえば、我が国の宰相だ。権力も財力も王家に次ぐ家である。

「そんな・・・」

セルディの言葉は続かない。

力なく、玄関扉から手を放した。


『言っている意味がわかりませんわ。

このドレスも宝飾も婚約者からの贈り物ですもの。』

王妃の誕生会でのレイゼラの言葉が(よみがえ)る。

婚約者は、デーゲンハルト公爵嫡男、王太子補佐だ。

「いつから・・」


「レイゼラ様の御名誉の為にお伝えいたします。

公爵はレイゼラ様がお幸せになるならと、何も知らせずに見守っておられたのです。

婚約解消されたのは、ドラン伯爵家です。」

セルディは今度こそ、打ちのめされた。

自分は多額の負債があるとは知らずにポートダム伯爵家のシフォンヌを選んで、デーゲンハルト公爵家、さらには王家とも親交のあるレイゼラを捨てたのだ。


セルディが婚約解消した時には、レイゼラはデーゲンハルト公爵家も王家も知らなかったが、セルディにはそんな事はわからない。以前から親交があり、レイゼラは自分に黙っていたとしか思えない。

エッデルブルグ家はワインの販売で、いろいろな家と取引があるからだ。



デーゲンハルト公爵家からの家令や警備は、ジャクランを守るためであるが、それは極秘である為、レイゼラの実家を守るという名目で派遣されている。

セルディに知らされる事はない。


セルディは自分が捨てた者の大きさを思い知った。

そして同時に、自分が遠ざけたくせに、あの女に騙されたとの思いが強まっていくのだった。


王都の生活が、セルディを変えてしまったのか。昔は、レイゼラと仲の良い婚約者だったはずです。

レイゼラが、変わってしまったセルディを知ったのは、婚約解消の時だったのでしょう。

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