表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貴婦人は優雅に微笑む  作者: violet
本編
30/65

運ばれた物

宰相の指示で、王宮中が探された。

氷を隠しておける場所は限られている。


宰相の指示で探しているものの、内密な捜査の為、ヘレン妃の影響の強い所は探せない。

見つかった時に、自分に繋がるような所には隠さないだろうと判断され、そういう場所は捜査対象から外されている。



ヘンリクとカデナは、エイドリアンが持ってきた大量のサンドイッチを食べている。

王太子執務室の事務官達からも礼を言われる。毒の対象は王太子派と呼ばれる全ての人員であろうから、彼らにも振舞われた。


「エイドリアン、明日も頼むよ。旨いよ。」

ヘンリクは自分が狙われているというのに、上機嫌である。

レイゼラとパーミラは、サンドイッチを作りすぎてしまったのだ。公爵とエイドリアンの二人分なのに、大量になってしまった。

公爵家の豪華な食材にレイゼラが興奮した事と、パーミラが初めての料理で楽しんだ為に、すごい量のサンドイッチが出来てしまった。


本当に毒が運び込まれたかはわからないが、疑惑がある以上、王宮の食事は慎重にならざるを得ない。

それで大量のサンドイッチは、王宮に運び込まれ、王太子達の食事となったのだ。




コンコン、執務室のドアがノックされて、宰相からの使いが部屋に入ってきた。

「殿下、申し訳ありませんが、宰相が宰相執務室に来てくださるようにとのことです。

動かせないものがあるので、宰相がこちらに来る事が出来ないのです。」


ヘンリクとエイドリアンが急いで、宰相執務室に向かうが、全盲と肢体不自由を装っている二人。

王太子執務室の事務官とフレディに補助を受けている。

カデナとレイゼラは、王太子執務室に置いてきた。

ヘンリクが全盲になって、カデナとの絆は深まり、どこにでもヘンリクの補助として随伴させていた。だが、ヘンリクは決してカデナを危険な会話に参加させない、その気持ちが、今のエイドリアンにはわかる。




宰相執務室には、すでにヨーデル医師も待機していた。

「魚臭いな。」

机の上に氷を敷いて置かれたジイラはすでに腐敗が始まっているようだった。


「食品貯蔵庫に保管されていました。

調理人達も知らないうちに、つまりは昨夜運び込まれたようです。」

宰相事務官が、発見時の様子などを説明する。

そこが1番保冷に適しているだろう、とは思うが、鮮度を保つ事は出来なかったようだ。

「あそこは、地下の氷室の氷が運び込まれているが、それでもこれか。」

ヘンリクが確認するように言う。


「国境を越えて運びこむのです。その間に傷んだのでしょう。」

2年前、エイドリアン達は毒を飲み込まなかった。口に含んで違和感で吐き出し、徹底的な治療が施された。

ジイラを盛られて生き延びた、唯一の例であろう。

それでも重篤な後遺症が出る毒なのだ。

扱いにくい毒、それがジイラだが、無味、無色、無臭で気づかれず、相手を必ず毒死させる猛毒。


ジイラは魚の姿のまま、運ばれて来たようだ。使用直前に、内臓を取り出し、毒を絞れば無臭だ。

だが、このジイラはすでに腐敗が始まっており、内臓も異臭を放つだろう。

「異臭はありますが、猛毒のままです。お気を付け下さい。」

ヨーデルが皆に釘をさす。


軍の総司令官のグフタフ公爵が来た事で、会議が始まり、宰相のデーゲンハルト公爵が口を開いた。

「殿下。」

呼ばれて顔をあげ、宰相を見るヘンリクに周りも驚愕の目をみはる。

薬を服用して、回復してきていることは、王太子執務室の人員以外には内密にされていたからだ。


「殿下もでしたか。

息子の回復は驚くべきものでした。

我々は怖ろしい薬を手に入れたかもしれない。」

「宰相閣下、薬の効用は現在調査中です。解毒以外にも期待できると思っております。」

答えたのはヨーデルだ。

「事が終わるまで、公言するつもりはない。」

ヘンリクは、指示するまでもないだろう、と言う。

「もちろんです、ここにいるのは信頼のおける者ばかりです。」

マイケルの婚約者が犯行に及んだということで、出入りする人間は淘汰された。

それは、宰相執務室でも同じだったらしい。


「これを納入した人物はすぐにわかりました。

街の納入業者でしたが・・・

ヘンリク・ノーマン殿下の従者から、届く魚を王宮に届けるように言われていたらしい。」

宰相の説明に、皆があわてる。

「なんだって!」

「巨大な氷に冷やされ、見た事もない魚なので、さぞ高級魚なのだろうと、急いだと言うのだ。」


「やられたな。」

エイドリアンが、魚から離れ、椅子に座る。

「どういうことだ?」

「エリス嬢の時と同じだ。

スケープゴートは用意してある。

しかも、今回のターゲットは我々ではないかもしれない。」

あ、とグフタフ総司令官がエイドリアンを見る。


「そうです、総司令官閣下。

王がターゲットだったかもしれない。」

「王が狙われ、犯人が王太子。上手い筋書きだな。」

ヘンリクがそうだろ?とエイドリアンを見る。


「クレドール殿下は、王太子の首を獲る大義名分ができる。」

そうだ、とエイドリアンが返事する。


「では、ここに魚があるのはまずいのではないか?」

まるで、毒を前に、王暗殺の極秘会議だ。

「我々は、名を(かた)られ、毒を持ち込まれた捜査だ。

その通りなのだから、問題ないだろう?」

問題がないわけではないが、まず処分するしかない。


レイゼラを先に公爵邸に帰すか、とエイドリアンは考える。

今夜も先に寝るんだろうな、とため息をつく。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ