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貴婦人は優雅に微笑む  作者: violet
本編
3/65

甘い誓い

ヒーローの登場です。

「おや、君は私を見て驚かないのか?」

エイドリアンは、ベッドに上半身を起こしてレイゼラに対面した。


そこはエイドリアンの私室で、ベッドの周りは読んでいたであろう書類が散らばっていた。

「公爵様から、後遺症があると聞いてました。」

レイゼラは初対面であろう、エイドリアンに微笑む。

「介護の為に呼ばれたのではないとわかっておりますが、正直、どうしたらいいか戸惑ってます。」


エイドリアンは、口の端を持ち上げて少し笑う。

「正直だね。こちらに来てくれ。」

レイゼラがエイドリアンのベッドの横に行くと、公爵夫妻とメイドは部屋を出て行った。


エイドリアンの身体は細く、長い間、寝付いていた事がわかる。

元は美しかったであろう顔は頬がこけ、目だけがギラギラしている。

「それで?」


「エイドリアン様が私のことを、どう思って結婚しようと言われているかは知りません。

でも、私は幸せになりたいのです。

だから、エイドリアン様を好きになりたいです。

婚約解消されたばかりで、こんな事を言うのは軽薄かもしれませんが、本気です。」

「私は毒の後遺症で下半身が動かない。

そんな私を好きになれるのですか?」

エイドリアンは手で自分の足を触った。


「いろいろあって、結婚がよくわからないのです。でも結婚する人を、好きになれたら幸せだと思うのです。

健康だけが取り柄の貧乏子爵の娘です、好きになってもらえるように頑張ります。」

うんうん、と頷きながらレイゼラが答える。


「ドラン伯爵令息は、こんな貴女を捨てるとはバカなことをしたものだ。」

事情を知っているに違いないエイドリアンには、辛い事も隠さないで済むと、レイゼラは安心した。

「もう、一つ好きになりました。」

エイドリアンは何も言わず、レイゼラを見ている。

「エイドリアン様は、夫として命令もできるのに、私を認めようとしてくれています。

それがとても嬉しいのです。」

そこが好きなところです、とレイゼラが言う。


「まいったな。」

エイドリアンは、レイゼラに机の右袖机の引き出しを開けて、箱を持ってくるように言った。

「箱を開けて、中を見ても、私を好きになれると言えるかな?」





もう何年前になるか、王都に遊びに来ていたレイゼラを見かけたのは。

レイゼラは男と楽しそうに歩いていた。

目を奪われ、すぐに調べさせた。

美少女であったが、誰よりも美しいという程でもなかった。ただ、笑顔に惹き付けられ、頭から離れなかった。


一緒に歩いていたのは婚約者とわかったが、調査は続けさせた。

レイゼラの田舎の暮らし、届く報告書を読むのが楽しみだった。

子爵の娘では正妻にはできない、愛人がいいところだろう。

田舎に置いておくのが、一番いいと思っていた。彼女の笑顔をくもらせないために。


王太子のヘンリクは長男だが、母親の正妃は亡くなり、王は愛妾ヘレンを王妃に迎え入れた。

ヘレン妃は息子クレドールに王位を与えたい。じゃまになるのが王太子だ。

王太子の陣営と王妃の陣営で次期王位が争われている。

誰もが手を汚している、こんなところにレイゼラを入れることなど出来ないと思っていた。


王太子の側近の中に裏切り者がいた。ワインに毒を盛られ、王太子を始め、その場に居た3人が倒れた。

処置が早く、一命を取り留めたが、後遺症が残った。

王太子は失明し、私は下半身不随、武官のマイケルは右手が動かない。

だが、こんな事で我々は負けたりしない、すでに手は打ってある。


2年前の事件の直後、私の婚約者は逃げていった。半身不随の男など嫌だったのだろう。

私と結婚しても、すぐに男をひきずりこみそうな女だったから清々した。

報告書の中のレイゼラは、事件で大きな痛手を負った子爵家を立て直そうと頑張っていた。それが、私の中の希望だった。


父には、私のしている事がわかっていたのだろう。

レイゼラの婚約がなくなった話がでると、

「デーゲンハルト公爵として、レイゼラ・エッデルブルグと結婚するよう命じる。」

と私に言い残して、すぐにエッデルブルグ子爵家に向かった。





レイゼラがエイドリアンの手を握ってきた。

「全部は見てないけど、私に関する報告書ですね。一番古いものが5年前からありました。その時の私、13歳ですよ。」

「ずっと見られていたなんて気持ち悪いだろう?

何度も君を愛人にすることを考えたよ。」

クスクス、とレイゼラが笑う。

「報告書を見て、恐いと思いました。」

そうだろうな、とエイドリアンも思う。知らない人から監視されていたと知って喜ぶ人間はいないだろう。


「でも、今の私は婚約解消されたばかりで、愛情に飢えているんです。

好きになってくれる人が、好きなんです。」

「私は恐いよ?」

「そんな気がしていました。」


「私はこれから地獄におちるような事をするよ。

連れていくから、逃げるなら今だよ。

この身体では追い掛けられない。」

「追いかけてくれないなら、逃げません。」

恥ずかしいけど、レイゼラは最大の勇気を振り絞って言葉にした。

レイゼラの言葉を受けて、エイドリアンも重ねた手に力が入る。


レイゼラが笑おうとした顔は涙顔になり、嗚咽(おえつ)が漏れる。

エイドリアンに引き寄せられ、ベッドに乗りあげるような形でエイドリアンに抱き締められる。

5年も監視されて全てを知っている人には、取り(つくろ)う必要もない。

声をあげてレイゼラは泣いた。



ヒーローは粘着質のストーカーでした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 5年!ヒーローが危ない奴だった!
2021/07/16 03:38 退会済み
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