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貴婦人は優雅に微笑む  作者: violet
本編
28/65

クレドールとレイゼラ

テラスは薄暗がりであったが、広間の喧騒から離れ、外の空気が少しひんやりとして気持ち良かった。


「あの男は、どうしようか?」

さも、自分がどうとでも出来るかのようにクレドールが言う。


「もう、関係のない人です。」

その言葉が、レイゼラの中にストンと落ちた。

一緒にいるのが楽しくて嬉しくて、結婚するんだ、と思ってきた人。

人の心の移り模様を自分自身で知る。

ポロ・・・

「どうして。」

ふいに流れた涙に、レイゼラがあわてて顔を隠そうとする。


クレドールが胸の隠しから、ハンカチを取り出しレイゼラに渡す。

それ以上近づく事は、護衛が目で、おやめ下さい、と言っているのがわかる。

「よくできた護衛だ。」

「え?殿下ありがとうございます。」

レイゼラは、クレドールの言葉が理解できないが、礼を言ってハンカチを受け取り、目に当てた。


「ごめんなさい、お恥ずかしい姿をおみせしました。

悲しいとかではないのです。自分でも何故かわからなくって。」

ニッコリ笑うレイゼラに、クレドールが見惚(みと)れる。


「殿下、申し訳ありません。ハンカチを汚してしまって。」

洗って返すというわけにもいかない、どうしたものか、と思案していると、クレドールから提案があった。

「そのハンカチは差し上げます。

その代わりのハンカチを今度、いただけますか?」

もちろんです!とレイゼラが頷けば、クレドールが続きを言う。

「僕のイニシャルを刺繍してください。」

「え?」

「レイゼラが刺繍したハンカチ、楽しみですね。」


田舎娘ですから、刺繍も裁縫も得意です。

だが、言えない。

エイドリアンにさえ、手作りを渡してはいないのだ。

セルディには、たくさん作って渡したが、バカな女と笑っていたんだろう。

あんなに心を()めて作っても、想いは叶わなかった。


たかが、ハンカチだ。

セルディに作るのは楽しかった。結果がなかっただけだ。

エイドリアンに作るのも楽しいだろう。

喜んでくれるなら、クレドールに作るのも楽しいだろう。

作る事を、自分が楽しめばいいのだ。



クスクスとレイゼラが笑いだした。

「どうしました?」

「殿下は恐い人だと、思っていましたの。

案外、普通なのですね。」

本人に向かって言う言葉ではないが、手作りを望むなんて、凡庸だと思ってしまう。

思いもしなかった言葉に、クレドールが目を見張り、頬を染めた。


「君は本物かもしれない。」

クレドールが口元を手で押さえて呟く。

「まいったな、こんな事になるなんて。」



「きっと、殿下はたくさんのハンカチをお持ちでしょうから、そのうちの1枚として、お作りいたします。

特別な1枚なんて自惚れてません。お借りしたお礼ですもの。」

「特別と思ってくれないの?」

「私の特別が殿下ではないのに、それを望むのはおかしいでしょう?」

「はっきり言うね。」

クレドールの表情は、怒っているどころか、楽しそうでさえある。

レイゼラとの会話が楽しいらしい。


「では、これから作成に入る為に、おいとまいたします。

カデナ様にも作りたいので。」

「王太子妃にもか!?」

レイゼラはニッコリほほ笑む。

「殿下にも、カデナ様にもお礼がしたいのです。」

ハハハ、と笑ったクレドールはレイゼラの手を取った。

「外まで送ろう。」

クレドールは護衛に、馬車を廻すように指示する。




馬車に乗ったレイゼラの口から洩れる言葉。

「つかれた・・・」

でも公爵邸に戻れば、エイドリアンがイイコトをしてくれると言ってた、もう少し頑張ろう。



エイドリアンがヘンリクの執務室を出たのは、深夜になってからだった。

公爵邸の私室に戻ると、レイゼラはすでに寝ていた。

待ちくたびれたようだ。

「残念だな、イイコトしようと思っていたのに。」

そう言って、エイドリアンが机の上に置いたのは外国語の本だ。


「公爵夫人には、数ヶ国語が必要だからな。私が直々(じきじき)に教えてやる。」

レイゼラが期待していたのは、きっとコレではないだろう。

朝起きたら、どんな顔するか楽しみだ。

そう思いながら、エイドリアンはレイゼラの横に体を横たえた。


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