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貴婦人は優雅に微笑む  作者: violet
本編
26/65

舞踏会の夜

「僕の妖精を侮辱しているのは、君か?」

レイゼラがセルディに反論するより早く、後ろから声がかかった。

現れたのは第2王子クレドール。


シフォンヌは直ぐにわかったのだろう、顔を青くしている。

反対に、セルディはわからないらしく、誰だ、という顔をしている。着ている服で、高位であると察することも出来るはずなのに。

セルディもシフォンヌも、王家に拝謁する機会もまだないだろう。だが、シフォンヌは独身の王子ということで知っているようだ。


カデナは様子見に徹したようで、静観している。

表情には出していないが、面白がっているのが、レイゼラにはわかる。


「殿下。」

レイゼラの言葉で、セルディもやっと気がついたようで、礼をとる。

「僕の妖精が、どうしたのかな?」

殿下、僕の妖精って2度も言って、恥ずかしくないんですか?

レイゼラの心の声は外に出せない。


「いえ。」

セルディも相手が王子だとわかると、それまでの大きな態度が急に(しぼ)んでいく。


「君達は、母の誕生会を壊しに来たようだね。

可哀想に、レイゼラも怖かったろう?」

クレドールの言葉に、レイゼラは首を少し横に振って微笑む。

「大丈夫ですわ、力強い味方がいますから。」

レイゼラは、胸のアメトリンの事を言ったのだが、聞いている者は、違う意味にとったようだ。

「僕が助ける、と思ってくれてたのだね。」

ここで、違います、と言う勇気はレイゼラにはない、やんわりと微笑む。


「1曲踊っていただけますか?」

クレドールがレイゼラの手をとり、指先に唇を落とした。

周りから、悲鳴のような声があがる。

やり過ぎです、殿下、とは言えない。

嫌な顔になりそうなのを抑える為に、そっと少し(うつむ)いて瞳を閉じると、恥ずかしがっているようにも見える。



クレドールに手をとられ、ホール中央に向かう前に、レイゼラはセルディに視線を落とした。

驚き過ぎて、何も言えないのだろう、呆然とレイゼラを見ている。


さよなら、私の初恋の人。

シフォンヌに夢中になったセルディが、レイゼラをどうでもよくなった気持ちが、今のレイゼラにはわかる。興味がなくなった、この一言につきる。

それにしても、僕に会いにきた、はないでしょう。

偶然会ったのに、その発想とは驚くばかりだ。どれ程自惚れているのだろう。

少し笑うと気持ちが落ち着いてきた。


伏せた(まぶた)を開けて、レイゼラはパーミラの教えを思い出しながら、全神経をつま先に持っていったかのように、最初の1歩を歩んだ。

流れるドレープはドレスの光沢をひきだし、胸元で輝く大きめのアメトリン。

淡い色合いのドレスとアクセサリー、優しい雰囲気に包まれたレイゼラは微笑みを絶やさない。



「あんなに綺麗だったんだ。」

セルディが小さく呟いた言葉は、誰にも届かない。

クレドールに手をひかれ、遠ざかるレイゼラは、もう手が届かない所にいることはわかった。




ダンスを始めると、クレドールがレイゼラに話しかけた。

「父と母がレイゼラに会いたがっている。」

クレドール殿下で手いっぱいです、と叫びそうになった。

次々に恐い人が・・・

「どうして?」

「さっきの事を見ていてね。」

クレドールの言葉はどういうことだろう・・・

さっきのって、セルディの事よね。冷や汗が流れる。

楽しい誕生会を台無しにしたと思われているのかも。

助けて、カデナ様ー。

ここで思いつくのがカデナで、エイドリアンではない事に、レイゼラも少し笑ってしまう。


曲が終わると、そのまま王と王妃の元に連れて行かれた。

「母上、ご希望の妖精を連れてきました。」

殿下、恥ずかしいから、その妖精は止めて欲しい、とは口に出せない。


ヘレン妃はレイゼラに笑いかけた。

「よく頑張りましたわね。

子爵令嬢というだけで、横暴な目にあったのね。」

そうだった、この方は、男爵家の生れであった。


「陛下、私は陛下が守ってくださるので、幸せですわ。」

ヘレン妃の言葉に、嬉しそうに王が頷く。


わかった。

とびきりの美人ではダメなのだ。

男性に、自分がいなければダメだと思わせる存在。

ヘレン妃は庇護欲をわかせる女性なのだろう。


「大丈夫でしてよ。

私の誕生会に招かれざる客の人達は、陛下が考慮してくださりますから、ねぇ陛下?」

セルディとシフォンヌの処分を暗ににおわせるヘレン。

「デーゲンハルト公爵家が婚約者に欲しがるのも、納得ですわね、陛下。」

「そうだな、綺麗な令嬢だ。」

ヘレン妃が話しかけ、王が答える、これが、いつもの事なんだろう。

ヘレン妃が王を扇動しているようにしか、聞こえないレイゼラ。


「母上、僕達はあちらでシャンパンでも飲んでますよ。」

そう言ってクレドールが示すのは、テラスだ。

広間の喧騒から離れているが、薄暗がりで、クレドールとは行きたくない場所だ。

「心配だろうから、そこで待機している警護の帯同を許可する。」

レイゼラではなく、後ろに控えている警護にクレドールが言う。


いろいろな事がありすぎて、心臓がバクバクのレイゼラだ。

「ありがとうございます、殿下。」

そう言うのが、やっとである。

王と王妃の前で、テラスに行くと言う王子の言葉を断る・・・無理である。



クレドール、そこはヒーローの役だろう、と思うのは作者だけでしょうか・・・

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