エイドリアンの思惑
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お礼に、最後におまけを付けました。
お楽しみください。
公爵邸に戻ったエイドリアンは、レイゼラに足のマッサージを受けていた。
さっきからレイゼラが昼間の報告をしている。
「最初は、エイドリアン様と踊りたいので、エイドリアン様以外とはノーカウントです。」
レイゼラは都合のいい事を言っている。
「私の足では、いつになるかわからないぞ。」
「踊ってくれる気があるんですか!?びっくり。」
自分で言っておきながら、期待してないレイゼラに、エイドリアンもあきれる。
ははは、と笑うと昼間の疲れが消えていくようだ。
「それにしても、クレドール殿下って、2回も来るなんておヒマなんですね。」
東屋と今日の事を言っているのだろう。
自分が見張られている事はどうでもいいらしい。
「殿下も執務があるから、ヒマではないだろう。
お前に会う為に時間を作っていると言う事だ。しかも、私から離れるのを見張らせているみたいだな。」
クレドールは王の補佐業務をしている。決してヒマというわけではない。
そうなんですか、と返事するレイゼラは落ち着いている。
「見張られて、イヤじゃないのか?」
エイドリアンの言葉に、レイゼラが笑う。
「ここに、5年も見張らせていた人が、いるのに?」
クレドールとは比べ物にならない程の固執を、エイドリアンはしている。
「どうしてやろうか。」
クレドールの首はヘンリクに譲ったつもりだったが、そうも言ってられない。
「エイドリアン様、腕も出してください。マッサージします。」
レイゼラのマッサージは、エイドリアンに薬の効能が出た頃から続いている。マッサージの腕も上がったようだ。
どうやら、侍女達に助言を受けているらしい。公爵邸に馴染んでいる。
「ヘレン妃の誕生日の舞踏会は、私とヘンリクは出ないから、カデナと二人で出ることになるぞ。」
全盲の王太子と車椅子のエイドリアンは、呼ばれる事がない。
その代理として、王太子妃カデナが出席していた。
これからは、エイドリアンの代理でレイゼラが出ることになるが、結婚するまでは、エイドリアンの婚約者とはいえ、子爵令嬢にすぎない。
「お義母様に連れられて、お茶会に出てますが、夜は緊張します。
壁の花になっていれば、いいのでしょう?」
参加するだけでいいのでしょう?とレイゼラは言うが、エイドリアンが出席しないのをわかっていて、招待状を送ってきたのは、クレドールだろう。
クレドールと踊らせたくないが、エイドリアンには、それから逃げるという気持ちはない。
むしろ、レイゼラが舞踏会に出ている間は、クレドールが会場にいるだろうから、執務室を探らせよう、ぐらい思っている。
母親が張り切っているから、綺麗なエサに仕上がるだろう、とレイゼラを見る。
癪にさわるが仕方あるまい、エイドリアンの贈り物で全身を包んだレイゼラを見せつけてやろう。
そう思いながら、レイゼラを引き寄せ抱きしめる。
「おやすみなさい、エイドリアン様。」
「ああ、おやすみ。」
そう言って、深い口づけが始まる。
朝からパーミラの夜会指導を受けていたレイゼラは、昼過ぎから、侍女達によって、お風呂から始まるドレスアップの為のフルコースが始まった。
舞踏会では広く背の開いたドレスが多いが、レイゼラのドレスは肩までつまっている。
エイドリアンが、ダンスする時に、男性の手がレイゼラの背に触れるのは嫌らしい。
しかも、腰まで小さなリボンが並んで付いている。可愛いデザインではあるが、男性には女性の背の感触がなきに等しい。
腰には大きな花が縫い付けられ、裾まで流れるドレープをまとめている。
紫がかった薄いピンク色のドレスは光沢をはなち、正装の王太子妃と並んでも遜色のない物である。
首には大きなアメトリンが輝いている。周りをダイヤとペリドットで囲み淡い色彩でまとめてある。
耳と腕にはヴァイオレットモルガナイト、周りは同じくダイヤとペリドットで彩っている。
この1ケ月で、エイドリアンは希少な宝石を買い集めたのだ。
裕福な家で育ったレイゼラは宝石には詳しい。
アメトリンと聞いた時は、悲鳴がでるかと思った。
エメラルドやサファイアのような濃い色石ではないが、希少性は抜群だ。
落としちゃいけない、と気になり首に視線がいってしまう。
「あらあら、縮こまっているわよ。そんな事では、贈ったエイドリアンは嬉しくないと思うわ。」
パーミラが綺麗にできたわ、と満足している。
「そうですね。」
レイゼラも尤もな事と納得する。
「さぁ、少し歩く練習よ。
背筋を伸ばして、微笑んで。」
パーミラがコーチよろしく手をパンと打ち合わせる。
レイゼラが動くたびに、花とリボンを留めた、たくさんのダイヤのピンが巻き毛の中で輝く。
ーーおまけ編ーー『この世で美しき君』--
初めて見たのは、結婚式の場でだった。
隣国ロランデールの第3王女パーミラ。
真っ白なドレスに身を包み、隣に立つ姿は美しかった。
見とれたと言ってもいい。
息子も生まれ、仕事も順調だったのに、暗雲が立ち込めて来たのは、いつからだろう。
パーミラは出来の良過ぎる息子を遠ざけ始め、観劇や茶会、屋敷にいる時間は少なくなっていた。
宰相補佐から宰相となった頃からか、王が寵妃にいれ込むようになって来た。
王妃が亡くなると、さらにひどくなった。
寵妃の推す者を重用するようになり、重職に付けようとした。
さらには、寵妃を王妃にしてしまったのだ。
王太子殿下とヘレン妃の対立は顕著なものとなっていった。
それでも、第2王子クレドール殿下は王太子殿下になついているので、なんとかなると思っていたのだが、事件は起こった。
王太子殿下を始め、息子エイドリアン、マイケル・ストラトフォードが、エリス・イスニデア侯爵令嬢が毒を混入したワインを飲んで倒れたのだ。
王宮の医務室に運びこまれた息子の命は、諦めないといけないと思っていた。
飲まされた毒が、無味、無臭の劇薬、ジイラだからだ。
医務室に飛んできたパーミラは息子に取りすがると、体温が下がり、冷えた息子の手を懸命にこすっていた。
パーミラが幼い息子を遠ざけた理由の想像はつくが、愛情が無くなった訳ではないと知った。
公爵邸に連れもどり、3日後に目が覚めた息子には、重篤な後遺症が残ってしまった。
侯爵令嬢であるエリス程度が手に入れられる毒ではないと、わかっているが背後関係を調べもせずに処刑されてしまった。
それこそが、背後に大きな力があると言う事だ。
私は、息子の敵を取るべく、軍総司令官で王太子妃カデナの父であるグフタフ公爵と手を結び、王の権力取り上げに力を入れた。
そんな時だ、妻パーミラが声をかけてきた。見て欲しい物があると言う。
毒を飲まされた時に、息子の目を覚ませないかと、気を惹くような物を息子の部屋で探したというのだ。
そこで、見つけたのが、レイゼラの報告書。
3年分の報告書は驚愕と言っていいものだった。
あの息子にこんな想いが、と思うとなんとしても叶えてやりたくなった。
息子は婚約解消となっていたが、レイゼラには婚約者がおり、直ぐに両者に調査をいれた。
婚約者のセルディは学問の為に王都に来ていたが、恋人がいる事がわかった。
私達は、レイゼラの婚約解消を待つ事にした。
そして、レイゼラが婚約解消されやすいように、子爵家のワインが売れないように手をまわした。
もちろん、子爵家が潰れない程度にだ。
あれから2年、独自にレイゼラの報告をさせていたが、妻のパーミラはレイゼラが気に入ったようだった。
「パーミラ、貴族院でレイゼラ・エッデルブルグとセルディ・ドランの婚約解消が受理された。」
そう伝えると、パーミラはすぐに立ちあがり、私に微笑んだ。
「公爵、すぐに迎えに参りましょう。」
パーミラ、君は今も美しい。