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貴婦人は優雅に微笑む  作者: violet
本編
21/65

苦悩

ヘンリクは受け取った書類を机の上に置くと向き直った。

「無事に戻ってくれて、良かった。

3年近い準備をかけての侵入であったが、こんなに早く上手くいくとは思わなかった。」

ベッシーニ伯爵領の賭博は、事件の前からヘレン妃の資金源を断つ為に調べられていたのだ。


オーツは、他にも賭博場で見聞きした事を報告する。

「ルーレットのテーブルでは取引もされてました。」

「なるほどな、舞踏会を装うのは、賭博を隠すだけでなく、取引も隠していたのか。

武器商人の出入りがあるが、それか?」

「はい。」


ヘンリクも視力が回復しているが、執務室に入るまでは全盲の振りで、カデナに導かれて来る。

そのカデナも、エイドリアンの車椅子を押して登城したレイゼラも、執務室にはいない。

カデナか、レイゼラをダンスのレッスンに連れ出している。


借用書を見ながら、ヘンリクがため息をつく。

エイドリアンに差し出してきた借用書には、貴族院議員の名があった。

「これで、エリスの処刑が早かったのも納得できるな。」

エリスは毒を盛った実行犯として処刑された、マイケルの婚約者だ。

「従来なら、もっと取り調べるはずなのに、3日後に我々が毒から意識を回復した時には処刑されていた。」

ヘンリクは、自分で取り調べたかった、と言う。

男達は会員名簿と借用書を照らし合わせ、精査に入る。

潰す人間の順番を決めるのだ。



カデナとレイゼラは練習の休憩時間にお茶をしていた。

「カデナ様が男性パートも踊れるとは、驚きました。」

「子供の頃、ヘンリクとパートを交換して踊って遊んだわ。」

「殿下と!?」

「あの頃のヘンリクは優しくて、かわいい女の子でも通る顔立ちだったわ、今は大きく育ったけど。」

フフフ、とカデナが笑う。

「想像もつきません。殿下は凛凛しい顔立ちですから。

羨ましい事です。

エイドリアン様の子供の頃の思い出は他の方のものですもの。」

レイゼラの言葉に、ああ、とカデナは紅茶のカップをソーサーに戻すと、ケーキの皿を取った。


「こちらは今年1番最初のラズベリーで作らせましたのよ。」

そう言って、レイゼラの前に置いた。

「もう、ラズベリーが出ているんですか。」

パクンとレイゼラが嬉しそうに口に入れる。


それを見て、カデナは話し始めた。

「貴女はエイドリアンに求められて婚約者になったけど、皆がそうではないわ。

もっとも、エイドリアンが女性に興味があった、ってことが驚きですけどね。」

子供の頃の婚約は家同士の取り決めでなされる。

貴族ならば、そういうものだとわかっている。


「ヘンリクも変わらざるを得ない事がたくさんあったわ。

最たるものが2年前の毒。

表情が変わると、優しい顔つきも凛凛しくなるのね。」

カデナの話をレイゼラは聞いている、とても重要な事を話すつもりだとわかる。


「意識が戻った後のヘンリクの苦悩は大変なものだった。

王太子なのに、目が見えなくなったのよ・・」

カデナは言葉につまり、レイゼラを見る。

「レイゼラ、貴女は知っておかねばなりません。」

レイゼラはカデナに頷く。

王太子を降りる事の方が、続けるより楽なのはわかる。


「あの男達は才能にあふれ、とんでもない自信家だったの。」

エイドリアンを考えても、今でさえ自信家なのだ、健常の時はもっとであったろう。


「なんでも散らかす方だったヘンリクは、盲目になってから、物を大切にし、場所を覚えるようになった。

メモを取る事ができないかわりに、記憶を重視するようになった。」

カデナの言う事が簡単な事でないのは、容易に想像がつく。

エイドリアンが効率よく、物事をすると思っていたが、それも事件の後、動けない身体の替わりに身に付けたものかもしれない。


「マイケルがね・・泣いたのよ。」

今は北部に偵察に行っているストラトフォード司令官の事よね?

「すでにエリスが処刑されたと聞いて、マイケルが泣いたの。

エリスに悪かった、と言って泣いたの。」

エリスってワインに毒を入れた人よね?

レイゼラは、怒るべきところを泣くのがわからない。


「マイケルとエリスは仲のいい婚約者だったの。

けれど、あの男達は女遊びを始めたのよ。」

王太子もエイドリアンもという事だ。

「特にマイケルは、地方に訓練で行くことも多く、遊びでない女性にも手を出していたの。

エリスは何も言わず、表情には出さなかったけど、嬉しいはずがない。

マイケルは結婚するのはエリスと決めていたけど、勝手な事よね。」


エリスはクレドールの優しい言葉に惹かれたのかもしれない、殺したい程マイケルを憎んでいたのかもしれない。

でも、マイケルはエリスが好きだったんじゃないか、と思う。

だって、数度しか会ってないけどあの人の表情は、悲しそうだった。


エリスが、どういった心境でマイケルを裏切ったかは、亡くなっており、知るすべはありません。

心に秘めた、思いも悩みも苦しみも、マイケルは知ろうとしなかった事だけが事実として残るだけです。

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[一言] マイケルは馬鹿な男のトップ
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