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貴婦人は優雅に微笑む  作者: violet
本編
18/65

元婚約者

パーミラは枢機卿と話をしてくると言って、警護を一人レイゼラに付けて離れて行った。

その警護も話が聞こえない程度には離れている、危険がなければ様子見ということだ。


レイゼラとシュレンヌは大聖堂の身廊の中ほどで、立ったまま話をする。

「そのネックレスは、以前夫人がお着けになっていたのを見た事があるわ。」

シュレンヌは気になっていたであろう、レイゼラの首にあるネックレスの事を言う。

「お義母様から、いただきました。

私にはとても用意のできない物なので。」

「おかあさま?

お式もまだで、そう呼ぶとは図々しい。

どうやって取り入ったかは知らないけど、公爵家だから半身不随の男でもいいとは、(いや)しいこと。」

シュレンヌの言葉は、レイゼラを資産狙いと決めつけている。


「バーグミラ夫人は、間違っていらっしゃいます。

半身不随の男性と結婚するのが卑しい、という事が理解できません。」

レイゼラは、エイドリアンが(おとし)められるのが許せなかった。

自分が、婚約解消されて、弱りきっていた時に助けてくれたのがデーゲンハルト公爵家だ。


「綺麗事言っている貴女は、しょせん財産狙いでしょ。それを言っているのよ。

一年前に言った言葉を、一言一句全て覚えているような男、誰だって気持ち悪いわ。そこに身体がああなって、妻という名の介護要員かしらね。」

ホホホ、とシュレンヌが笑う。

「子供も作れない身体で、結婚できるというのかしら?

血筋から養子を取って、あの男が亡くなれば、不必要とされてよ。」


ああ、この人がエイドリアンと婚約者でいたのは、公爵家の魅力であったのだと悟る。

家同士の(しがらみ)もあったであろう。

エイドリアンを気持ち悪いと思っていても、公爵家だから我慢していたのだ。他人もそうだと決めつけている。


「貴族院も、あの身体ではと直ぐに婚約解消の許可を出したわ。皆が結婚は無理だと思う男と結婚する貴女を、卑しいと思うのは当然のことよ。」

勝ち誇ったかのように、シュレンヌが言う。


「ご自由にどうぞ。

けれど、貴女がエイドリアン様を(おとし)めるのは、許せません。」

私の事はどう思われてもいい、なんて思わないけど、エイドリアン様の事が(ひど)く言われるのは、もっとイヤ。

初めて会う人に、最初から嫌われて、この人の印象最悪。


「バーグミラ夫人・・・」

ふと、気がついて、レイゼラはシュレンヌをじっと見る。

「もしかして、エイドリアン様の事が好きだったの?」

「バカな事言わないで!

誰があんな男!」

シュレンヌの表情が一瞬崩れる。

エイドリアンとシュレンヌは子供の頃からの婚約者だったのだ。

レイゼラが知らない事がたくさんあるだろう。セルディとレイゼラだって仲のいい時があったように。


「やだやだ!絶対に譲らない!

エイドリアン様の奥さんは私よ!」

レイゼラが顔を真っ赤にして、シュレンヌに啖呵を切る。

子爵家の娘が公爵家に嫁ぐなど、夢物語だ。それでも、一度見た夢を手放したくない。


「あんな男の何処がいいわけ?」

(あき)れたようにシュレンヌが聞いてくる。

「何処がと聞かれても、わからないわ。

意地悪だし、自信家で悪魔だけど、ホントは優しいの。わかりにくいけど。」

クスッと思い出し笑いのようにレイゼラが微笑む。


「気がしれないわ。

あの男に優しさなんてないわよ。」

覚えておいて、とシュレンヌが言う。

「直ぐに貴女も思い知るわ。」

そう言って、シュレンヌは大聖堂の出口に向かい、礼拝に訪れた人の中に消えて行った。




「足がイタイ。」

慣れない細いヒールの小さな靴。

一人残されたレイゼラはポツンと呟く。

「あんな人キライ。

エイドリアン様と長い時間一緒にいた人なんてキライ。」

あんな人見返してやる。

誰よりも公爵夫人にふさわしくなる。エイドリアン様の横にいるのに、ふさわしくなりたい。

「エイドリアン様の婚約者だった人なんて大キライ。」



「レイゼラ様、あちらで公爵夫人がお待ちです。」

警護の者が近づいてきて、レイゼラに声をかける。

レイゼラは顔をあげ、すぐに行きますと返事をして、後ろを歩く。


あの人は、エイドリアン様との過去しかない。私には未来がある。

これから、ずっと一緒にいる為に、出来る事を頑張ろう。


前を向くレイゼラの瞳は大きく輝いている。



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