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貴婦人は優雅に微笑む  作者: violet
本編
12/65

父と息子の密約

エイドリアンは机の上にジャクランを置いた。

「これが、そうなのか!?」

エイドリアンは頷くと、父であるオスカーに向き直った。


「レイゼラが全てのきっかけです。

私の結婚を認めてくれた父上に感謝します。」

「エッデルブルグ家の婚約解消をいち早く知り、動けたからだ。

他の家に取られなくて良かったよ。」

それは、エッデルブルグ家に関する情報に気を付けていた、と言っている事だ。


レイゼラの事を父も報告させていたのかもしれない。

それに、気づかないとは迂闊(うかつ)であった。



エイドリアンは、既にヘンリクにも、マイケルにも効果が出ている事を伝えてあるが、エイドリアン自身が顔色も良く、回復傾向にあるのが明らかだ。

「完治するとは思ってませんが、かなり良くなると期待しています。」

「未知の薬だからな、毒消し以外の効能も調べた方がいいな、内密に。」

「レイゼラは便秘薬に使ってます。」

エイドリアンの言葉に、一瞬遅れてオスカーが、口を手で押さえて笑い始めた。

「100倍の金と取引する薬を便秘薬にか!

レイゼラはすごいな。

あのパーミラも気に入っているしな。」

オスカーの態度から、オスカー自身も気に入っているのがうかがい知れる。


パサッと音がして、書類も机の上に置かれた。

「この2年、密かに探っていた情報です。

お気づきだと思っておりますが、賭博関係の書類です。そちらのリストと照らし合わせてください。

父上が文官の中から、処分している者があるのを知っております。」

「ベッシーニ伯爵の資金は無視できんな。

あそこを潰さねば、安寧(あんねい)は来ないであろう。

王とヘレン妃が優遇しているのだから、簡単には手出しができん。」


宰相と軍が手を組んでさえ、ヘレン妃は手ごわい。

「王太子殿下が回復されたなら、王の退位も早めることが出来るだろう。」

今の王太子では、即位を認める者は少ない。クレドール殿下を推す者が増えている。

正式に王太子が立位した後の事件だった為に、今も王太子であり、執務をこなしているが盲目であることは、大きな不安を与える。


誰もが、ヘレン妃が黒幕であると思いながらも、確証がなく、実行犯だけが処刑された。

そして、裏で動く大金に従う者もいる。



「面白いですね。」

エイドリアンが口を開いた。

「相手にハンデを与えないと、つまらないでしょう。」


エイドリアンは、自分の頭をコツンと指でつつく。

「私は、自分でいうのもなんですが、飛び抜けた頭脳だ。

ヘンリクもそうです。出来すぎた能力だ。

しかも亡き母君は、隣国タンザールの王女殿下、調整能力は右に出る者はない。

マイケルも利き腕が不自由であっても、左手だけで国で一番の騎士だ。

最初の一撃で、我々をしとめられなかったヘレン妃の勝ちはない。」


カチンとオスカーが水の入ったグラスを、エイドリアンのグラスにあてる。

「頼もしいな。

いや、頼もしくなったな。

毒の後遺症で、お前は身体が不自由になったが、強くなったのだな。

もういつでも公爵を譲れるな。」


「それは、孫が出来てからでいいのでは?

レイゼラは何人でも産んでくれそうですよ。元気ですからね。」

「エイドリアン!」

オスカーの顔が喜色にそまる。

「父上、そのうちですよ。

薬が効能を発揮しそうなんです。」

「服用を始めて2日だろう、それほどの即効性があるのか。」

「歩くには訓練が必要でしょうがね。」

ニヤリとエイドリアンが口の端をもちあげる。


「子供を作る前に、国を安定させないと不安ですからね。」

だな、とオスカーも賛同する。


「私達に毒を入れる事を指示した犯人の確証を、見つけるのは困難だ。

だが、そんなものはいらない。」

エイドリアンが続ける。


「わかっているのは、クレドール殿下の存在は不都合だ、ということです。」


オスカー・デーゲンハルト公爵は静かに、グラスをエイドリアンの方に掲げた。

「意見が合ったな。

私は我が息子に毒をもられて、犯人を許すことなど、できないんだよ。」


「2年前の事件に関与した者は全て、(むく)いを受けるがいい。」

エイドリアンは用意していたのだろう、レディ・ガーネットと呼ばれるワインを取りだしてグラスに注ぐ。

デーゲンハルト公爵家の執務室で、父と子がグラスを交わした。



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