裏切り者
その夜のベッドの中で、エイドリアンは事件の事を教えてくれた。
ワインに毒を入れたのは、マイケルの婚約者だった女性。
成功した時には、クレドールと結婚して王妃になるつもりだったらしい。
それを証明するものもなく、クレドールも王妃も知らぬ、を通せば、彼女一人の犯行となる。
マイケルが目を覚ました時には、すでに婚約者は処刑されていた。
犯人を捜し出したのは、王ではなく、軍と宰相のデーゲンハルト公爵。
力のない人間が王位に就くと、どうなるかはこの国が表している。
それでも、ヘンリクの母が生きている間はよかった。彼女は他国の王女だったからだ。
寵妃が王妃となり、王を傀儡とすると、宰相、軍との対立は顕著になった。
「クレドール殿下は、重職につけなかった多数の貴族の支援を受けている。ヘレン妃は男爵家の生まれだ。
王の寵妃になるにあたり、侯爵家の養女となった。」
セルディから婚約解消されてから、だんだん話が大きくなっていく。自分は何処にむかっているのかもわからない。レイゼラはエイドリアンを見つめた。
「エイドリアン様、私はどうして殺しあうかが、わかりません。」
裏切った者の気持ちもわからない、セルディは私を裏切るのを悩まなかったのだろうか。
「ヘンリクもクレドール殿下も稀代の才の持ち主だ。
ヘンリクは、盲目になっても執務をこなす。カデナの補助があっても、それは並大抵の事ではない。
どちらかが、平凡であれば、こんな事にはならなかっただろう。
ヘレン妃の考えなどわからないが、王妃になったのがヘレン妃でなければ違っただろう。
我々は、2年かかって、この身体に慣れ、実務をこなせるようになった。
生き延びた我々は、許してはいけない立場にある。」
エイドリアン様、楽しそうに言ってるように聞こえます。
王太子殿下は、呼び捨てなのに、第2王子は殿下なのですね、と本題以外が気になるレイゼラであった。
「私を好きになったか?」
出会って、2日なのに、短絡すぎます。しかも、今日を振り返っても、好きになる要素あったっけ?
「それ、毎日聞くつもりですか?」
「そうだ、お前が私を好きになりたい、と言ったのだ。」
確かに言いました。
エイドリアン様とベッドの中にいるけど、甘い雰囲気はない。
さっきから、訊問前の説明を受けているような感じしかしないのは、どういうことだろう。
それは訊問が始まるからであった、とレイゼラが気づくのは、エイドリアンがレイゼラが逃げられないように腕を握ったからだった。
「トイレから執務室までは1本道です、どうやって迷うんですか?」
エイドリアンの目は恐い、感情が見えない。
「え、同じような扉ばかりで、通り過ぎてしまったのです。」
レイゼラも、2日一緒にいるとエイドリアンに慣れてきた、むやみに恐がりはしない。
「そう、通り過ぎた、ね。」
ふーん、と言うエイドリアンは、クレドールの姿が見えたからそっちに行ったのではないか、と疑っているかのようだ。
ドン!
エイドリアンがレイゼラに圧し掛かられた。
「なんでも疑ってかかるのは、エイドリアン様の悪い癖です!」
レイゼラの言葉に、私を疑うのですか、と憤るところだろう、と思うエイドリアンが普通である。
しかも、エイドリアンが聞く前に、クレドールとの会話を話しだす。
「隠し事ではありませんが、私が気がつかなくとも、エイドリアン様からみて怪しいところがないか考えてください。」
レイゼラは決してバカではない、反対に思慮深いのだ。
ワイン工場でも品質管理に意見をだしていたほどだ。
ところで、とエイドリアンがニヤッと口の端をもちあげる。
「朝まで、私に乗っているかい?」
ボン、と音がしそうなほど真っ赤になったレイゼラが飛び降りる。
「エ、エイドリアン様、おみ、お水入れます。く、薬を飲まれるでしょう?」
レイゼラがどもりながら、サイドテーブルの水差しに手を伸ばす。
「レイゼラも薬がいるんじゃないか?
今日はずいぶん緊張していたようだから。」
「ギャー!
エイドリアン様、デリカシーなさすぎ!!」
レイゼラの言葉の前に、枕がエイドリアンに飛んできた。