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貴婦人は優雅に微笑む  作者: violet
本編
1/65

動きだした時

おとなしかった少女が、周りに助けられ、強く成長していくのを書いていきたいと思います、楽しく読んでいただけると嬉しいです。

レイゼラは小さな領地だが、高品質のワインを生産するエッデルブルグ子爵家に生まれた。

爵位は低いものの裕福な貴族として育ったが、2年前に王太子暗殺未遂事件があり、毒薬をいれられたワインがエッデルブルグ産だったために、売り上げは激減し、周りの人々の対応も大きく変わった。

2年前は大量の返品でエッデルブルグ家も大変だったが、資産の売却と出費を抑えたことで、ワイン生産も落ち着いてきている。以前とは比べ物にならない清貧な生活だが。




隣の領地のドラン伯爵家の嫡男セルディとは、幼なじみで婚約者である。

レイゼラの持参金として多額の金額を用意していたが、それもワイン工場の資金として回された。それでも、予定通り結婚すると思っていた、その日までは。


セルディから届いた手紙を手にレイゼラは、伯爵邸を訪ねていた。

王都に留学しているセルディが帰って来る、と手紙を送ってきたのだ。そろそろ結婚の時期を決めねばならない。



セルディから見せられたものは、承認印のある婚約解約書。貴族の婚姻に関することは貴族院の承認が必要であり、二人が幼い頃にした婚約も承認がなされた正式なものだった。

「セルディ、これは?」

レイゼラの手は震えている、目の前には美しい女性を連れた男性。

「ずっと破棄したかったんだよ、でも持参金は魅力的だったからね。」

初めて聞く言葉に、聞きたくないと思う心が壊れそうである。


「お前みたいな田舎娘じゃ、このシフォンヌの足元にも及びもしない。

シフォンヌ・ポートダム伯爵令嬢だ、美しいだろう。」

恋人同士だと見せびらかすように、シフォンヌの腰を引寄せる。


流行りのドレスに身を包み、細身の体をセルディに密着させて、見下した目でシフォンヌがレイゼラを見る。

「ドラン伯爵領の通行料が安すぎる、値上げになったら払えないでしょう?

王都なら、貴女でも働けそうな仕事があるわよ。街裏でね。」

扇子をひろげ、口元を隠して言う言葉は、レイゼラを嘲笑(あざわら)っている。


「貧乏貴族は帰れ、話は終わった。」

セルディは立ちあがり、レイゼラを部屋の外に追いやる。

王都での留学費用など、ドラン伯爵家にはずいぶん金銭を融通してきたのだ。

レイゼラが嫁ぐ家だと返してもらうつもりもなく、借用書も作らなかった。

幼馴染として愛情もあると思っていた、全てはレイゼラと子爵家の思い間違いだったのか。

2年前、窮地に陥った時も、ドラン伯爵家は援助の手を差し出してはくれなかった。あの頃にはもう、決裂の予感があったのかもしれない。



ドラン伯爵邸を出て馬車に向かう、曇った空からは雨も降り始めた。

「私にはお金しか魅力がなかったのね。」

ポツンと呟く言葉を聞く人はいない。

大声で叫びたいのに、声がでない、身体が震える。

馬車に乗り込み、子爵家に戻るように御者に伝えると、すぐに走りだした。


涙が、頬をつたう。馬車の振動に身体が揺れる。どこを見ていいかわからない、視線はさまよい、両親に何て言おう、明日はどうしよう、考えることもできないのに、考えようとする。


子爵邸では、迎えに出た母親が、レイゼラの顔を見て、息を飲む。

「レイゼラ?」

「お母様。」

それ以上の言葉がでない、震える唇は言葉をさがしている。


「婚約を解消されました。」

そう言ったレイゼラは母親の目の前で倒れた。

子爵家の玄関に、子爵夫人の叫び声が響き、僅かに残っている使用人が駆け付けた。

外は、雨が激しくなり、レイゼラの心のように、激しく窓ガラスに叩きつけた。



そのままレイゼラは2日の間、目を覚ます事がなかった。




貴族院を通して、エッデルブルグ子爵家とドラン伯爵家の婚約解消が通知されると、密かに動き始めた人物がいた。



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