2:スキルと仲間
「おい見ろよwコブリンがいるぜ。」
「ほんとだ。命が惜しくないのかな。馬鹿な奴。」
ここはゴブリンの村から少し離れた場所にある酒場。施設内での殺しは天罰が下ると考えられているため、酒場は人間もモンスターも利用するが、興味本位で弱いモンスターが足を踏み入れようものなら無事では済まないことも多い。
「はぁー...」
俺は大きなため息をつく。
やっぱりどこに行ってもゴブリンはゴブリンと言うだけで馬鹿にされる。
分かってはいたがやはり腹が立ってしまう。
「ぐぬぬ...言いたい放題いいやがって...
この剣さえあればお前らなんてケチョンケチョンのブチュンプチュンだってのに。今に見てろよ....」
今は我慢だ。いずれ見返してやる。
そう呟くと。
「おい。そこの雑魚モンスゥ!」
デカい人間が俺を指さして叫んでいる。
「ゴブリン風情が武器なんか持ってんじゃねぇか?おぉ?その寂れた弱そうな剣。お前が持ってても意味ねえし、俺が有意義に使ってやるよ!」
「あぁ!?なんだと!?上等だぁ!」
我慢とはなんだったのか。俺のペラペラの紙のような煽り耐性は簡単に崩れ去ってしまう。俺は先日の戦いで調子に乗っていたので啖呵を切る。負ける気がしなかった。
すると酒場のあちこちで大爆笑が巻き起こった。
「おい!あっちでゴブリンと人間が喧嘩してるぞ!!」
「ぎゃはははwやっちまえー!」
酒場内は大盛り上がりだ。やってやるさ。
お互い剣を抜く。やっぱりこの剣を握ると自然に力が湧いてきて強くなった気がする。
「かかってこいよw」
俺はまんまと挑発に乗っかり、そのまま人間に切りかかった。
キン!キンキン!
しかし、俺の剣はいとも容易く弾かれ、いなされる。俺はさらに力を込めて剣を振りまわす。
(さっきよりも格段に威力があがった。こいつ!?いや、まさかゴブリン風情がな...でもまぁ関係ないか。)
「____...!」
グンッ!
剣を弾かれ一瞬の内に懐に潜り込まれる。
次の瞬間俺は地面に倒され喉元には切っ先が向けられている。
____負けた。
いとも簡単に負けてしまった。
ここが酒場でなければ俺は死んでいた。
恥ずかしさと悔しさから俺は酒場を飛び出す。
「君!ちょっと待って!」
声をかけられ振り向くと、そこには俺より小さな1匹の蝙蝠のような羽を持つモンスターがいた。
恐らく女の子だ。
目をキラキラさせながら彼女は尋ねてくる。
「どこでそのスキル覚えたの!?なんのために1人で冒険してるの!?ねえねえ私気になるの!」
ス、キル...?なんだそれは。
あっけに取られながらも俺は質問を返す。
「待て待て待て待て。その前にいきなりお前なんなんだよ!まずは名前くらい名乗ってくれ!」
「あっ。自己紹介してなかったね!
私はバット族のルージェっていうの!君は?」
「俺はリードだ。いずれ魔王になるゴブリンだ!」
「それでそれでそのスキルはどうやって!?」
「知らねぇよ!そもそもスキルってなんだ。」
「え」
「え?」
「ええぇーーーーーーーーっ!?!?」
彼女は世界の終わりを見たかのように驚いて、
「君スキルも知らないで冒険してるの!そんなんで魔王になるとか言ってるの!?」
「なんだよ?わりーのかよ。知らないものは知らないんだからしょーがないだろ!」
「驚いたー!仕方ないから説明してあげるの!」
彼女の話によるとこうだ。
スキルってのはモンスターや人間が持つ特殊な能力のことで、その種類は数多く存在していて、スキルにはモンスター種族ごとに持つことがある【固有スキル】と、きっかけがあり会得できる【獲得スキル】の2種類があるらしい。
そして俺が持っているスキルは獲得スキルなんだそうだ。
普通ゴブリンが持つスキルとしては固有スキルである【盗賊】のみであり、獲得スキルを持つ個体は世界にごまんといるゴブリンの中でも稀中の稀らしい。
「でもよ。俺はスキルなんて使った記憶も見たこともないぞ?」
「そんなことないわ!現に君はさっきの戦いでスキルを2つも体験してるの!」
2つ?じゃあ俺の相手をしていたあの人間もスキルとやらを使っていたのか。
「君の相手の人間もスキルを使っていたのよ!あのスキルは【加速】ね。その名前の通り行動が早くなるスキルなの!」
「なるほどな...それじゃあ俺のスキルってのはなんなんだ!?教えてくれ!この剣を持つと不思議と力が湧いてくるんだ。」
「えーとね。わかんないの!」
「そっかそっか、わかんないかー!」
「うん!わかんないの!」
まぁ知らないものはしょうがないよな。うん
「そっか。じゃあな。」
「ばいばーい!...って待って欲しいのー!」
「まだなんかあんのかよ。」
「私は君を気に入ったの!
君といれば面白いこと珍しいこといっぱい起こりそうな気がする!ついてってもいーよね!君が魔王になるの手伝ってあげるの!」
「え」
こうして俺に初めての仲間ができたんだ。