大日本帝国遣米艦隊戦記《短編版》
架空戦記創作大会2018秋お題1「アメリカ南部連合国をテーマとした架空戦記」のつもりです。史実と違う点についてはなるべく傍点をつけました。
1915年1月24日、メキシコ政府の陰謀とされるサンディエゴ計画が露見する。この計画には黒人、ネイティブアメリカンの蜂起などが含まれていたため、アメリカ社会に衝撃をあたえる。特に南部地域では黒人を標的とした白人による無差別テロ事件が発生、更に州軍の一部もこれに加担した為連邦軍が治安維持のため出動。同年8月16日KKKがジョージア州アトランタでウィリアム・シモンズによって再結成。
1916年11月7日、民主党出身の現職大統領ウッドロウ・ウィルソンを抑えて、共和党のチャールズ・ヒューズが当選。第29代大統領に就任する。前年の暴動への対応に対して不満を募らせていた南部諸州を味方につけた結果と言われる。ヒューズは公約通り大企業優先の経済政策と大規模な軍備拡張路線を取る。
1917年、アメリカ対独参戦従来からの軍備拡張路線も相まってアメリカにはさらに多くの武器を製造する事となる。KKKは愛国的主張により勢力を拡大。共和党政権内部では問題視する声もあったが勝利のカギとなった南部諸州への配慮から黙認。
1919年、第一次世界大戦終結。アメリカでは余剰となった武器があふれる事となる。また、南アフリカのヤン・スマッツの提案によりジュネーヴに国際連盟設立。
1920年11月2日、民主党のジェイムズコックス|が第30代大統領に就任し国際連盟加盟に代表される国際主義的政策を推し進める|。大戦後のヨーロッパからの移民に対しては「アメリカはアメリカ人だけのものではない」と発言し積極的に受け入れる姿勢を表明。経済政策については戦後の経済の落ち込みへの対応から大企業優先策を維持。
1922年、ワシントン海軍軍縮条約不成立。アメリカはさらなる建艦計画を推し進める。
1924年11月4日、ロバート・ラフォレット・シニアが第31代大統領に就任。企業の国有化政策など社会主義的政策を推し進める。これに対し各地で反発。
1926年2月4日アラバマ州知事のエドワード・L・ジョンソンを中心として、ジョージア州、フロリダ州、アラバマ州、ミシシッピ州、アーカンソー州、ルイジアナ州、オクラホマ州、テキサス州、ニューメキシコ州、などが中心となってアメリカ連合国として独立を宣言。そのほかにも西海岸諸州が独自に独立と中立を宣言したため、アメリカは分裂状態に。
1930年、アメリカ合衆国の支配地域はサウスカロライナ州、ノースカロライナ州及びテネシー州以北、ミズーリ州全域を含むミズーリ川以東にまで縮小。アメリカ合衆国では社会主義者以外にもサンディカリスト、左派系のジオイスト等を含む大連立政権が成立。これ以降は憲法が停止されたため、アメリカ合衆国は様々な左派勢力の寄り合い所帯となる。
これを受けてそれまで独自に外交を行っていた西海岸諸州が正統アメリカ合衆国を宣言。以前のアメリカ合衆国を東部合衆国、正統アメリカ合衆国を西部合衆国として区別する事となる。西海岸以東、ミズーリ川以西は混沌とした地域に。
同年、ジュネーヴの国際連盟で大日本帝国が中心となってアメリカの各勢力に対し即時停戦を求める決議とその監視団の派遣を決定。
1935年4月8日午後17時42分
アメリカ連合国ジョージア州国境付近 国際連盟北米特別停戦監視団所属大日本帝国海軍遣米艦隊 旗艦金剛
ノースカロライナ州沖合にて監視任務に当たっていた英海軍潜水艦より戦艦『ダニエル・デ・レオン』を含む艦隊が停戦ラインを越境。との通信が入ったのは2時間ほど前の事だった。
戦艦『ダニエル・デ・レオン』はコロラド級1番艦『コロラド』を改名したもので内戦中の戦闘で4番砲塔が使用不能となった(後に撤去され、現在は水上機用カタパルトが設置されている)が依然として侮れない火力を持つ。
この報告を受けて国際連盟北米特別停戦監視団は不測の事態に備え、この海域で最大の火力を保有する大日本帝国海軍遣米艦隊の派遣を決定したのだった。
「なんだってこんな時に…」
金剛艦長の岸本鹿子治大佐はいかにも迷惑そうに言った。
「明日は南北戦争の終戦から70年だからね。いくらアカに被れていてもアメリカ合衆国を名乗っている彼らとしては『あの時勝ったのは我々だ』ということを南部人に示しておきたいんだろうよ。」
遣米艦隊司令官、坂野常善中将は大したことでもなさそうに言った。
「それよりも、今の我々にとって重要なのは」
「これをきっかけに新たな紛争を起こさないこと、ですな。」
岸本大佐が司令官の言葉を引き取って言う。
大日本帝国は一連の北米での動乱において軍需物資の輸出において大きな経済的利益を得たが、同じく軍需物資の輸出を行っていた欧州列強がスケープゴートとして大日本帝国を標的にして批判を強めた事から、大日本帝国が中心となって停戦決議がなされたという経緯がある。しかしながら欧州列強はことあるたびに大日本帝国が最大の戦力を派遣しているからとの理由で、矢面に立たせたがる傾向があった。(ニューファウンドランドのハリファックスにはN級を含む英国海軍の大艦隊があったが、英国は国際連盟北米特別停戦監視団に小規模な艦艇しか派遣していなかった。)そのため帝国海軍としては些細な失敗も許されないのだ。
「見張り員より報告。敵艦見ゆ」
同時刻 アメリカ合衆国海軍 スペシャル-サービス-スコードロン 旗艦『ダニエル・デ・レオン』
スペシャル-サービス-スコードロンはもともと砲艦外交用の艦隊としてパナマに設立された経緯があるが、合衆国分裂後は専ら主力である合衆国艦隊を投入するまでもない低度の緊張状態において便利に使われるコマとしての役割を担わされていた。したがって示威行動に投入されるのは道理だった。
司令官のデイヴィッド・F・セラーズ少将はテキサス出身者であったがアメリカ連合国独立後も合衆国海軍に奉職し続けている将官の一人だった。陸軍とは違い海軍は分裂に際して秩序だった行動を維持した。大日本帝国や欧州列強が直接的な軍事介入を避けたのもすべてはアメリカ海軍の存在故だった。…だがここ最近はおかしなことが多すぎた。5年前の非常事態に伴った合衆国憲法の停止と左翼独裁政権の成立によって、アメリカ合衆国は事実上滅亡した。それ以降はアメリカ連合国や正統アメリカ合衆国に亡命するものも多く、それによって海軍全体への締め付けが強化され、その結果亡命者がさらに増えという悪循環に陥ちいっていた。それでもハワイやフィリピンで朽ちるのを待つよりはマシではないか、と思いセラーズは自分を慰めていた。
「艦長、コロラドの調子は」
セラーズは改名された名前が大嫌いだった。そのため今でもコロラドと言う。
「いつも通り各所で細かい不調が、いつもと違うのは新入りがもめ事を起こしたことぐらいです。」
「すまないな艦長。レックスやサラよりも先にこいつの面倒を見るよう言ってはみたのだが…」
「いえ、かまいません。いつもの事です。」
海に憧れて海軍に入隊したというアーカンソー出身の艦長は肩をすくめて見せた。
「新入りについては…まあ何とかしよう」
自信なさげにセラーズは言った。
彼らは『星条旗よ永遠なれ』を歌うよりも『インターナショナル』や『赤旗の歌』を歌う事に喜びを見出す連中だ。そしてじきにアメリカ合衆国には『星条旗よ永遠なれ』歌う事ができない人間が生まれるかもしれない。セラーズの心中は暗かった。敵艦発見の報告が舞い込んだのはその時だった。
1935年4月9日アメリカ連合国首都モンゴメリー特別市
元々はアラバマ州の州都であったこの都市はアメリカ連合国の初代首都であったことから、アラバマ州から独立して特別市として首都になった経緯がある。現在も政府諸官庁の建設が進められているがその建設現場で働いているのは黒人ばかりで周りには白人のMPが目を光らせている。黒人の中には血を流している者もいるがMPはそんなことは関係なさそうにしている。
そんな中を一台の高級車が駆け抜けてゆく、フォード・ディキシー・モデルKA V12、アメリカ連合国以外ではフォード・リンカーン・モデルKA V12として知られる、前年出た新型モデルだ。名前が違う理由はアメリカ連合国においてリンカーンが忌み嫌われているからに過ぎない。基本的な性能に大差はない。
黒人が文字通り奴隷のようにこき使われる横を高級車が悠々と通り抜けていく様はアメリカ連合国の歪みが如実に示されているようだった。モデルKA V12はそのままアメリカ連合国大統領官邸へと滑り込んでいった。
白い木造2階建ての建築物をそのままコンクリートで建て替えたような外観の建造物だがここがアメリカ連合国の心臓部の一つなのだ。モデルKA V12から、一人の男が下りてきた。男は日本人だった。
男が中に入ると、そこはパーティーの真っ最中だった。
「大使、ようこそいらっしゃいました。」
男を呼ぶ声がした。声の主は遣米艦隊司令官坂野常善だった。
「南部は初めてだそうですが、いかがですか。」
「まあ、昔居たオレゴンよりかは少しはましかな。」
大日本帝国駐アメリカ連合国大使松岡洋右は答えた。
「とはいえ、色々酷い所もある。」
松岡はそのまま黙ってしまった。そんな松岡を見て坂野にも彼が何を見たか想像がついた遣米艦隊の本拠地のあるフロリダ州ジャクソンビルでもそうした光景を幾度となく目撃したからだ。
そのまま坂野も黙っていると「そういえば昨日は大活躍だったみたいだね。」と松岡の方から話しかけてきた。
「ええ、ですが…あれはこちらの方が錬度が高かっただけの話です。普通であれば難しかったでしょう。」坂野は沈痛そうな表情で答える。
「いやいや、14インチで16インチを追い返したのは見事なものだと皆ほめていたよ。」松岡は励ますように言うが坂野の表情は晴れない。
かつて帝国海軍と太平洋を二分したアメリカ海軍の現在の余りにも不甲斐ない有様に何かを感じているのだろう。
「この分ではあの噂は本当かもしれないな」
「噂ですか」
「うむ、何分不確定な情報なのだがね。東部合衆国政府は戦力差がこれ以上開く前に、アメリカ連合国と西部合衆国に対して予防戦争を仕掛けようとしているとな。東京で聞いた時は対して信じてはいなかったが…」
坂野はそれ以上話す事ができなかった。あまりの衝撃に文字通り言葉を失っていたのだ。
アメリカ連合国が存続したという仮定の作品は商業ネットを問わずたくさんあります。
しかしながらこの作品では敢えて、アメリカ連合国滅亡後に復活させる事にしました。
理由は簡単でいわゆる私たちのイメージする「極悪非道の南部連合」(もちろんこれは歴史的に見て全く正しくない)というものを作るのが、南北戦争期から存続しているパターンだと難しいのではないかと思ったからです。
これは、今大会のお題1の先駆者であるあきらたろう氏の「第二次世界大戦におけるアメリカ南部連合国」のように国際社会に押されて、ある程度有色人種へ開かれた国家となってしまうであろうからです。
また、実は我々がイメージしがちな南部社会における有色人種への偏見を持った社会が形成されたのは南北戦争後の反動が原因であるとの説を目にした事も復活したアメリカ連合国という発想の原点になりました。
実際に書いてみる赤くなった(社会主義だけではないのでピンクか?)アメリカ合衆国の方に熱が入ってしまいました。企画の参加作品としては失敗かもしれません。
初投稿なので書きなれず、尻切れトンボな形になってしまいましたが、構想だけはいろいろあるのでまた続きをかけたら…とは思っています。ネタは一杯ありますので(スパルティズムから始まる連合国陸軍の機械化とか、せっかく亡命したのにまた逃げる羽目になるシコルスキーとか)