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小学生の恋物語。 第二部  作者: けふまろ
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名塚さんの裏の顔。

 昼休み。

 給食は三雪ちゃんが言っていた通り唐揚げだった。あたしは最後に食べ、三雪ちゃんは言った通りジャンケンに参戦し、見事唐揚げを二個もゲットしていた。


「三雪ちゃん、お腹、大丈夫?」

「うぅ……。唐揚げだからって調子乗っちゃったみたい……。お腹痛い……」


 生理、というものは、かなり辛いらしい。

 あたしはなったことがないからその辛さっていうものは分からないけど、三雪ちゃんはどうやら二年生から始まったらしい。同年代の人達よりかはめちゃくちゃ早いらしく、あたし自身も早いんじゃないかな、と思う。

 何しろ、「走るときとかナプキンがずれて大変」らしい。よく男子が「お前、生理だろー?」とからかうのだが、三雪ちゃんは「お前らサッカーしてるときにいちいち股関節気にしてる暇ねぇだろ」と反論するとたちまち黙る。弱いよ男子。あと三雪ちゃん、華の女子が股関節とか何てこと言ってるの。

「もうちょっとお花摘む?」

「何で夏鈴がそんな言葉知ってんのよ」

 女子ですから。


 ◆◇


「悪いねぇ夏鈴。毎回付き合わせちゃって」

「何言ってるのよ。あたし達、一年生の頃からの仲でしょう? 助け合って当たり前だよ、どうせあたしもいずれそうなるんだから、予習よ予習」

 トイレから出てきた三雪ちゃんが、可愛らしいポーチを持ってふんわり笑顔を向ける。


「夏鈴がいてくれるから、毎日楽しい。ありがとう」


 面と向かってそう言われると、ちょっと、いやかなり照れる。

「三雪ちゃん、照れますねぇ」

「照れてなんぼよ。夏鈴は照れてるのが可愛いんだから、それでいいの」

 ……頬が熱い。可愛いなんて言われたり、感謝されたり。今日は何か色んなことがあるなぁ。



「おーい五木、小六がお呼びですよ~」



 女子トイレのドアをそう言ってノックしてきたその声は、想太君。

「きゃっ」

「ちょっと想太、女子トイレをノックして夏鈴呼ぶとか、失礼にも程があるんですけど!?」

 三雪ちゃんがめっちゃ怒ってる。

 ……って、小六って誰?


 あたしは、三雪ちゃんの腕を引っ張って女子トイレの扉を開ける。

 開けた目の前に想太君のジャニーズ似の端正な顔があるものだから、あたしは一瞬、息を吸い込んだ。

 そのコンマ数秒後に冷静を取り戻し、「小六って誰?」と目を見て尋ねた。

 綺麗な瞳だなぁ、と思ってると、想太君はあたしの視線を遮断するように瞬きをする。


「フード被った女子。「五木夏鈴さん、いますか?」って。女子トイレに駆け込んだのを見たから、女子トイレにいますって言ったら、呼んでくれって」


 もしかして、もしかしなくても、加奈先輩?


 あたしは想太君の周りをきょろきょろ見回す。


 いた。

 黄色のパーカに着いているフードを被った加奈先輩。パーカの下にはチェックの赤と白のミニスカート。明るくて無邪気だった加奈先輩らしい。

「……分かった。ありがとう、想太君」

 あたしがお礼代わりににっこり笑うと、想太君は「おぅ」と返してくれた。



「か……五木」



 今、何て言おうとしたの?

 名前呼び? もしくは。


 加奈って、呼ぼうとした?


 ◆◇


「ごめんね。昼休みなのに、付き合わせちゃって」

「……いえ。それで、話って何ですか?」

 加奈先輩は、口角を少しだけ上げた。以前なら、にっこりしているのに。何で?

「実はね」

 加奈先輩はあたしの顔を見つめて、口を開いた。



「想太に、私が、想太のこと嫌いになったって、言っておいて」



 え?

 何故? 何故に?


「そ、想太君のこと、加奈先輩、嫌いになっちゃったんですか?」

 そんな。だって、加奈先輩、想太君のこと好きだったんだよね? そんな簡単に嫌いになっちゃうなんて、そんなこと、ある?

 そう思っていたが、先輩はふるふると首を横に振った。気付くと、加奈先輩の目尻には、涙が浮かんでいた。


「違うの。……私がいると、想太に迷惑がかかっちゃうから……」


 ぽろぽろと涙を流し続ける加奈先輩。

「ちょ、ちょっと、これだとあたしが泣かせたみたいな感じになっちゃうじゃないですか!」

「だ、だって。想太に迷惑かかっちゃったら、私、自分のこと、許せなくなっちゃうもん……」

 加奈先輩はそんなあたしを気にもせず、涙をこぼし続ける。スカートに水滴がついていた。

「と、とりあえずどうして想太君に嫌いなんて言ってほしいんですか?」

 あたしが尋ねると、加奈先輩はひとしきり涙をぬぐった後、呟くように言った。



「名塚って子が……」



 名塚?

 名塚さん? って、あの、名塚真琴さん、だよね?

「……名塚真琴さん?」

「……そう」

 加奈先輩は頷く。

「名塚……真琴君? が、私がミサちんとさえっちと帰っているときに、言ったの」

 加奈先輩は何故か笑みを浮かべながら、呟くように言った。


「何で貴方が帰ってきているんですかって。貴方が帰ってきたら、想太に片思いしている人達の願いが叶わないから、貴方なんて、帰ってこなければよかったのにって」


 嘘。

 名塚さん、そんなこと言ってたの?

「それ、本当に、名塚さん……ですか?」

「うん。彼の持ってたバッグに、ご丁寧に名前が書いてあったから」

 …………。

 名塚さん、真面目なんだな。バッグに名前を書いてあるなんて。防犯上、危険だけどさ。

 ……いや違う。

 名塚さん、そんなことしてたの?

「……もしかして、想太に恋している人の中に、好きな人がいたのかなって。名塚君」

 加奈先輩は苦笑いしている。



 でも。

 名塚さんが、本当にそんなことを、言ったの……?

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