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小学生の恋物語。 第二部  作者: けふまろ
3/9

彼の好きな人

 三学期がやってきた。

 三学期初めての登校日。その日の朝、あたしはカーテンをしゃっと開けて、外を見やる。

「あっ」

 雨だ。

 カーテンを閉める。なんてこったい、何で一番最初が雨なのよ。最悪な三学期を予想しているのか、おいこら。

「……姉ちゃん、雨だね」

「あ、春喜(はるき)……」

 あたしに、目をこすりながら挨拶をしてきたのは、弟の春喜である。五木春喜なんて、また微妙な名前だが。


「朝ごはん、もう用意してあるって」

「あぁ、了解」

 春喜が知らせてくれる。あたしは頷き、椅子に座った。

 あたしの机には、三雪ちゃんと一緒に撮った写真が、フレームに飾られている。三雪ちゃんは、ピースで写っている。あたしは、後ろに手を隠している。

 懐かしいなぁ、もう一年も経ったんだ。

 

 机には、白米に、お味噌汁、小松菜のおひたし、焼き魚が置かれている。隣の春喜の席には、一回り小さいお椀と中身。春喜が「ほら、いっつも少ない。姉ちゃんより俺の方が食べるのに」とぶーたれていた。

「今日から学校ね。春喜も、夏鈴も、頑張ってね」

「了解でーす」

「はーい」

 あたし達はお母さんの言葉に生返事をしながら、「いただきまーす」とご飯を食べ始めた。


 そんなことより、もう三学期か。

 今年届いた年賀状は、三雪ちゃんと、イトコと、それから……。

 想太君から、年賀状が来た……。


「明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします」と改まった、至って普通の年賀状だったけれど。

 それでもあたしは、飛び跳ねたものだった。


 ◆◇


「夏鈴ーっ。明けましておめでとーっ」

「おめでとう、三雪ちゃん」

 年賀状は届いたけれど、新年度初めて会う三雪ちゃん。相変わらず可愛い。

「ね、ね、聞いた? 聞いた夏鈴?」

「な、何が?」

 新年早々突っかかってくる三雪ちゃん。

「あーっ、それはさては、聞いてないな?」

 うん、聞いていない。あたしが首を横に振ると、「もーっ、超マジでやばいよ!?」とあたしの手を掴んでぶんぶん揺らす。


「あのね、想太の話だけどね!?」

「想太君!?」

 通学路であたしが叫ぶと、歩いていた人達が振り返った。

 あたしと三雪ちゃんが「何でもないです!」と謝ると、三雪ちゃんは興奮した様子を取り戻し、あたしに向かって言った。



「想太君から年賀状が届いた子って、想太君の好きな子だって噂があるんだって!」



 えっ。


 足元が、ぐらぐらする。胸がドキドキして、手足に一気に血が巡る。


 年賀状って……あたしに届いた年賀状……?

「そ、そそそそそれ……」

「ど、どした夏鈴!」

 まさか、というような顔で、三雪ちゃんは段々顔が赤くなる。


「あたしに、届いてた……」


 キャーーーーーーーーーッ。


 そしてまた、三雪ちゃんとあたしは人の注目を集めることになった。


 ◆◇


「マジかー。想太の恋もセカンドシーズン到来?」

「到来……なのかな……?」

 三学期の係決め。あたしと三雪ちゃんは、黒板を見て苦笑いしていた。


 あたしと三雪ちゃんは、教科係になった。教科係は全部で四人。国語、算数、社会、理科の挨拶やノート集めを全部四人で担当するのだ。

 もう一人が、名塚さんで、そしてもう一人は、想太君。

 有り得ない! 皆、騒ぎ立てていて。

 もちろん、あたしだって、全然信じられなかったんだ。六年生プロジェクトと、三学期の係も、まさか想太君が率先してあたしと同じ係に立候補してくれるなんて。

 三雪ちゃんはあたしを見ながら「セカンドシーズン! セカンドシーズン!」なんて騒いでいる。

 もう、だから、セカンドシーズンなんかじゃないよ! 絶対、両想いなんかじゃないんだから。


「想太。お前、何で教科係になったの?」

 健一君が、あたしが一番聞きたかったことを聞いてくれる。想太君ファンの女子が、健一君と想太君の会話を聞いている。



「俺、教科係に気になる奴がいるって、言ったじゃん」



 ぼんっ。

 あたしの体が、蒸発した。

 年賀状、六年生プロジェクト、教科係……。

 想太君と、いっつも一緒だ……。


 ふらふら……。

 気になる奴って、誰なの!? ってずっと思ってたら、足元がふら付いちゃって……。気がつくと、教室の机に、ばたんって倒れこんじゃってて……。


 皆があたしのこと見てくるし、皆の注目を集めちゃったし、おまけに、ぶつかった頭がすっごく痛いし……。


 おまけに、想太君が見てくるしぃ……。

 ひゃーっ、マジで、どうしよう!


 ◆◇


「目が覚めた? 五木さん」

「へ?」

 気がつくと、目の前に白い天井が広がっていた。何だか薬のような、清潔な香りがする。


 あ、ここ、保健室だ!

 そう思って、あたしはばっと辺りを見渡す。

 そばにいるのは、養護教諭の先生。……と。


 後ろを向いている、ショートカットの知らない女の子。ランドセルを背負っている。

 誰だろう。肩にギリギリ届かないぐらいのショートカット。後ろを向いているから、顔も分からないし、座っているから、背丈も分からない。


「大丈夫だった? 梶山さんから、五木さんがいきなり教室で倒れたって聞いて、驚いて」

 あたしの戸惑いにお構いなく、先生は「たんこぶが出来ていないから、大丈夫だと思うわ」と言う。思うわ、で大丈夫なのか。


「先生、あの子って、誰ですか?」

 あたしがこっそり聞くと、先生は「あぁ、あの子?」と小さな声で答えてくれた。

「転校生よ」

 転校生……か。

 この微妙な時期に転校するなんて、嫌だよね。同情しちゃうよ。


「頭は、もう、痛くない?」

「あぁ、はい、大丈夫です……」

 その子は、ランドセルを手前に持ってきて、その中に入っている教科書をパラパラとめくる。そして鉛筆を走らせる。

 保健室で勉強しているのか……。へぇ……。

「転校してくる子って、皆あんな感じなんですか?」

「いやー、またこの学校に戻ってくる形でこの学校に来てるから、ちょっと怖いみたいね」

 へぇ。

 学校に戻ってきたんだ。不安だろうな。いじめられて転校したのかな。また戻ってくるだなんて、やっぱり可哀想だよ。


「……あ、もう帰りますね。ありがとうございます」

「いえいえ。また痛くなったらいつでも来てね」

「はい」


 よし。

 保健室から出る前に、一瞬チラッと、あの子の顔を見てやろう。もしかしたらあたしの知っている子かもしれないし。


「ありがとうございました、失礼します」

 そう言って、ドアの方まで歩み寄って、そこから振り返って、保健室を見渡す。

 転校生の顔を見る。


 そして、息を呑んだ。

 ショートカットの女の子。小さくて、華奢な女の子。




 その女の子は、砂月加奈さん……だった。

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