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小学生の恋物語。 第二部  作者: けふまろ
2/9

六年生プロジェクト

 早いもので、二学期も終わりにさしかかっていた。

 六年生が卒業を迎えるにあたり、五年生も卒業のことを不本意ながら考えることになった。

 卒業式には、合奏と合唱でお迎えを六年生をお迎えするのだ。


 学習発表会が終わり、クリスマスがもうすぐ近付いてくる。

 

 加奈先輩がこの学校を訪れて早二ヶ月。想太君は今もなお、加奈先輩を想い続けている……。


 のかと思ったけれど。


 加奈先輩と想太君の間に、あの後、何があったのかは分からないけれど。

 でも、想太君が、加奈先輩のことをあまり口にしなくなったのは確かだった。


 だから、と言ってはなんだけど。

 想太君の好きな人は別にいると、そんな噂が出回っていたのだ。


 ◆◇


 冬休みまで後一週間と迫った頃。


「六年生プロジェクト?」


 五年三組。

 担任の本井先生が、綺麗な文字で黒板にそう書いていく。


 想太君が首を捻る。「六年生プロジェクトって、何ですかー?」と健一君が尋ねる。

「六年生プロジェクトとは、今年一年学校を引っ張ってくれた六年生へ向けて、良い門出をお祝いしようというプロジェクトです。来年からは、君達が六年生ですからね。

この一年間、学校を引っ張り、貴方達を立派に成長させてくれたのは、僕達先生ではなく、他でもない六年生ですからね。六年生は、運動会、学習発表会など、色んなことを手掛けてくれました。知っていましたか? 学習発表会の日、体育館に人数分の椅子を並べてくれたのも、運動会を装飾してくれたのも、全て六年生なんですよ」

 へぇ、と声が上がる。満足そうに先生が教室を見渡すと、「そこで」と教壇にばんっと手を置いた。

「君達が六年生になるにあたって、今の六年生に、感謝の気持ちと、中学でも頑張ってください、と送る会を、……まぁつまり、「六年生を送る会」を、全面的にプロデュースしてくださいってことだよ」

「マジで!?」


 それにいち早く反応したのは、裕香ちゃん。

 セミロングを編みこみにしている。あたしより何倍もイケてて可愛い。

 想太君が好きになるのは、あぁいう可愛いタイプだ。

 明るくて朗らかで、それでいて思いやりのある女の子。それが、加奈先輩だった。

 あたしなんて……。

 地味で目立たない。肩より少し長い髪は、何もアレンジしていない。両手と両足は、頼りないぐらい細くて。洋服も子供っぽいのばっかり。


 こんなあたしなんて、想太君に好かれるはずもない。


 そんなこと、加奈先輩と想太君が付き合い始めた頃から、分かっていたはずなのに。

 なのに諦めないって、良いことなのかな……?


 地味で取り柄のないあたしだけど。

 


「それで、まず、グループ決めをしたいと思います」

 先生は、黒板にプロジェクトの係を書き出していく。


「レイ作り」 クラスで各三名。

「六年生を送る会係」 クラスで各五名。

「謝恩会係」 クラスで各五名。

「卒業式係」 クラスで各五名。

「装飾係」 クラスで各十二名。


「こんな感じです。皆さん、好きなところに名前を書いてください。もし希望者が多かったら、じゃんけんで行きます」

 本井先生がそう言うと、皆は一斉に立ち上がった。


「ねぇ夏鈴。どれにする?」

「あたし? は……、装飾係かな……?」

 三雪ちゃんが尋ねてきたので、無難にそう答える。

「やっぱ競争率の低い装飾係だよねぇ。ウチもそうするー」

 三雪ちゃんは、チョークであたしと自分の名前を書く。ギャル文字と呼ばれる、小さくて丸っこい字。それで、「五木」「梶山」と書いていく。


「俺、謝恩会係、やろっかなー」

 

 想太君の明るい声が、教室中に響く。

 すると、女子殆どの空気が、ぴしっと張り詰めた。

 

 想太君ファンの子達だ。

 どんなに彼女とラブラブしようがお構いなし、加奈先輩がいなくなって狂喜乱舞して、「加奈先輩いなくなってくれてありがとうパーティー」という不謹慎極まりないパーティーを本当に実行しやがった女子達だ。


「ねぇ聞いた? 想太君、謝恩会係、立候補するって」

「聞いた。これは……誰が行く?」

「奈波ちゃん、行きますか?」

「行けるわけないじゃん。絶対悪目立ちするって」

 

 ひそひそと小声どころか大声と言った方が良いのだろうか、想太君ファン達は、そんなことを気にせずに話していた。

 それをこっそりじっと見ていた莉以君が、想太君に耳打ちした。

 すると、想太君はにやりと笑って。


「あっ、やっぱ俺装飾係にしよう。楽だし、人数多いから楽しめそう」


 急いで黒板消しで自分の字を消して、装飾係の欄に名前を書く。汚い。


 ってか、完璧にこの状況、楽しんでない!?

 

「はぁっ? マジ? 装飾係に書き換えた!」

「まさかウチらの会話、聞いてた?」

「それでわざと変えたの?」

「マジドS。でも、それがカッコいい~!」


 きゃっきゃと騒ぎ立てる女子達。想太君は涼やかな顔をしている。

「装飾係、全員行っちゃう?」

「行っちゃおう。そんでもって、接近しちゃおう? ね、奈波」

 女子達は、奈波ちゃんの方を振り向く。すると奈波ちゃんは、少々気がかりなのか、「……うん」と力なく頷いた。

 想太君は、「それにーっ、一緒に作業したい人が、いたからさー装飾係に」と、意気揚々と独り言を言った。

 それを聞いた男女は、身震いする。

 

 想太君が一緒に作業したい人って、誰だろう。

 加奈先輩は、このクラスどころか、この学校にもいないのだ。どこからか情報が出回ってくるわけでもない。


 

 係が決まった。

 同じ図書委員会の名塚さんと、あたしと三雪ちゃんは、装飾係。

 想太君と、奈波ちゃんと裕香ちゃんが率いる、想太君ファンの女子達は、殆どが装飾係。

 健一君と、莉以君はレイ係。実優は、謝恩会係。「ジュースとか飲んだり~、皆と一杯話せるから! 告白タイムもあるしぃ?」と相変わらずの自信満々ぶりっ子を見せつけていた。


 でも。

 健一君と莉以君は、同じ装飾係ではない。じゃあ、女子の誰かかな……?


 もしかして、あたし……?


 なんて、あらぬ想像もしてみせた。


 ◆◇


 装飾係は、意外と早く役目が来た。

 二学期末。本井先生から、「装飾係は、体育館に集合してください」と号令がかかったのだ。


 体育館は、暖房やストーブがないので、寒い。夏なら「冷房をつけろ」と五月蝿いし、冬だと「暖房をつけろ」と五月蝿い。あたし達って、つくづく勝手だ。

「えー、皆さんに集まってもらったのは、他でもありません。装飾係は、色んな行事に関わる大切な役割を持つ係です。雑用係ではありません。だから、こんなにも多くの人に集まってもらったのです。六年生を送る会、卒業式、謝恩会。全て体育館で行います。その体育館を綺麗にして、装飾をするのは、他でもない貴方達なんです」

 副校長先生が、壇上で喋っている。でもどうせ主役は私達じゃないんでしょ。誰かが言う。

「そこで、皆さんには、いち早く仕事をしてもらいたいと思いましてね、号令をかけたのです」

 いち早く仕事をしてもらいたいだって。ブラック企業かな?

 誰かがまたも反論した。


「あー、何かさ、こういう係活動って、だりぃって思う人いるかもしんねぇけど、地味に楽しくない?」

 

 と。

 この陰口に気付いているのか気付いていないのか、想太君が莉以君に呟いた。

 すると女子達は、一斉に、「副校長の言い方はあれだけど、言ってることはごもっともだよね」と言い始めた。

 うーん、想太君、影響力大きすぎだよー。女子の心を簡単に揺れ動かすことが出来るだなんて。

 それなのに、一途だなんて、ズルすぎるよ。

 想太君が、そんな煮え切らない態度だから、勘違いして諦められない女の子が続出するんだよ。……あたしだって、そうだよ。本当は、君に言いたい。

 想太君のことが、大好きなんだよ。

 でも。

 そんなこと、言えないよう……。


「よかったね、夏鈴」

「う、うん」

 三雪ちゃんが隣でニッコリ笑いかけてくれる。あたしも、頷く。

「夏鈴、これからいっぱいチャンスはあるんだよ? 加奈先輩が離れた今、想太君は隙だらけなのよ」

「う、うん、それはそうなのかもしれないけれど……」

 でも、想太君の視線は、いつもあたし達に向いてはいない。いっつも、すり抜けて、加奈先輩の方へと、歩んでいってしまう。

 そんな彼が、あたしは、どうしようもなく好きで。

 そんな彼にも、どうしようもなく好きな人がいて。

 もどかしいよ、こんなの。こんなに想っているのに叶わないだなんて、世の中、理不尽すぎるよ。

 加奈先輩はモテているのに、あたしは、ちっともモテはしないんだよ。

 それなのに……。


「では、まず、この鈴蘭テープを……」

 本井先生が、ビーッと鈴蘭テープを引っ張っていく。あたし達は、それを見る。後ろの方に立ってるから、あんまり見えない。だから、ぴょこぴょこ飛び跳ねて見るしかないのだ。


「おい、夏鈴。飛び跳ねるのはいいけど、ドタバタうるせぇ」

「……あっ、ごめん名塚さん」

 あたしの前に座っていた名塚さんが、あたしに向かって注意する。途端に、誰かが吹き出す。

「夏鈴、うるさいってば」

「豚? どんどんっ、なーんちゃって」


 今の、全部、想太君ファンの女子からだ。

 嫌だ……辛い。何であたしがここまで言われなくちゃならないの。想太君ファンの貴方達が、前にいる想太君の横を陣取って、立っているからでしょ。


「豚、マジ、豚」

「体育館壊れるし~!」

 あぁ、もう嫌だ。辛いよ。

 女の子達のひそひそ声が、あたしの耳の中にわんわん響く。このまま消えちゃいたい。そう思ったときだった。



「何やってんのお前ら。夏鈴いじめて、何が楽しいの?」



 体育館中に響く大きな声で、想太君が叫んだ。

 …………。

 嬉しかった。あたしのことを守ってくれたことが、嬉しくて。

 あたしが想太君を見て、目配せでお礼を言おうとしたら。


 ニッ。


 可愛らしい笑顔で、返してくれた。目と目が合って、あたしと、想太君だけで……。

 きゅんっ。


 な、何なのよ、その笑顔! とっても、可愛い……。


 やっぱり、ずるいよ、想太君。一途なくせして、そんなの……。

 こんなに舞い上がらせて。ずるいよ、本当に。



「……ごめん、夏鈴」



 あれ?

 今、名塚さんが、あたしに謝ってた気がするけど……。

 気のせいかな? 気のせいだよね?

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