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小学生の恋物語。 第二部  作者: けふまろ
1/9

叶わない恋の始まり。

 三個も連載があるのに(しかもその一つがエタッております)、第二部新連載を始めるアホの極み作者ですが、宜しくお願い致します。

 五年三組。

 平凡で変わらぬ教室。だけど、そこに一人だけ、異質な存在がいた。

 森川想太。

 彼は、学年一、学校一とも呼ばれる美少年で、そして……。

 

 転校してしまった砂月加奈さんと、付き合ってた人だ。


 ずっとずっと、三年生の頃から片想いしていた。

 その綺麗な瞳に、童顔の美少年で、ぶっきらぼうだけど優しくて……。

 そんな想太君が、ずっと好きだった。


 そして、加奈という先輩に取られて、あたしの長い片想いは、幕を閉じようとしていた。

 だけど、また、あたしの恋は、幕を開けた。

 

 加奈先輩が転校してしまった。想太君にとっては、相当にショックな出来事だっただろう。

 でも、これは沢山の人にとって大チャンスとなった。

 そして、それはあたしにとっても、大チャンスになった。


 

 これはあたし、五木夏鈴(いつきかりん)の恋の記録だ。


 ◆◇


「あれ? 今日って夏鈴、図書委員だったっけ」

「うん。あ、大丈夫だよ名塚(なつか)さん、あたし一人で当番やるから」

 十月のある月曜日の昼休みの図書室。

 五年三組の図書委員会が、月曜日の昼休み担当をしていた。

 五年三組の図書委員は、あたしを入れて三人。名塚真琴(なつかまこと)さんと、友達の梶山三雪(かじやまみゆき)ちゃんだ。

「すいません、これ借ります」

 一年生ぐらいの可愛い女の子が、絵本を持ってカウンターに並んでいる。

「あ、はーい」

 あたしは、女の子の絵本に機械を押しつける。

 ピッ、と音が鳴ると、絵本の貸し出しが完了された。

「はい、良いですよ~。次の方~」


 あたしが呼ぶと、男子がふて腐れた様子で本をカウンターに置いた。

「返しまーす」

「あっ莉以君じゃん」

「あ、五木だ」


 ふて腐れた様子で尚も言うのは、加奈先輩の親友の弟、佐藤莉以君だった。

「聞いてくれよ五木。昨日姉ちゃんがさ、「シチューの具材が足りない。人参とブロッコリー買ってこい」って言うからさ、スーパーで買い物に行ったらさ、「あと私が食べる梨も買ってこい」って言うんだよ? マジありえなくね? 弟に自分の娯楽のための材料買いに行かせるとかさ、姉としての最低行為ナンバーワンだよ!?」

「マジで?」

 あたしは思わず噴き出す。うちにも姉と兄が二人いるが、そんなパシリ方されたことはなかった。

「おーい夏鈴ちゃん。早く済ませてくれる?」

 裕香ちゃんが、あたしに言う。「あ、はーい」とあたしは返事をし、莉以君の貸し出し処理を済ませた。


「返します」

 裕香ちゃんは、去年と比べると見違えるように痩せた。何でもいじめが原因らしい。

「貸し出し処理、大変?」

「そんなことはないよ」

 リーダー的存在だからか、思わず身構えた口調になってしまう。裕香ちゃんの方は何気なく話しかけてくれたのに、こんな風に身構えるだなんて、失礼だなと思ってしまう。


 裕香ちゃんの貸し出し処理を済ませたとき、図書室に男子が飛び込んできた。



「大変だ、大変だ莉以!」



 飛び込んできたのは、想太君だった。


「!!」


 あたしの心臓は飛び跳ねる。何で、何で想太君がここに。

 ぜぇぜぇと息を荒らげながら、想太君は切れ切れに叫んだ。



「今、北門に、加奈が、いる!」



「えぇえぇぇぇっっっっ!?」



 莉以君は叫んで、本を持つのも忘れて、北門にダッシュした。

「想太君、行こう!」

 他の、加奈先輩を知らない子達も、わらわらと莉以君達に続いた。

 あたし? あたしももちろん、北門へダッシュ。

 加奈先輩を見る想太君を見たくて。


「か、加奈!」

 北門には、言葉通り、加奈先輩がいた。

 ツインテールは相変わらず、気楽そうな笑顔も相変わらず、お洒落さも相変わらず、つまりどれも変わらず。転校先の学校でも、上手くやっているらしい。キャラを変えずにいられるということは、転校前の学校のキャラでも愛されキャラとなっているということだ。確かに、人懐っこい笑顔と、不満を抱かせることのない顔立ち。これほど気楽な性格なら、いじめようにもいじめることは出来ないだろう。

 ちょっとだけの悔しさを抱いて、私は加奈先輩と想太君を見守った。


「久しぶり~想太! わー全然変わってないね!」

「貶してるの? 褒めてるの?」

「もちろん、貶してるに決まってるじゃん! って嫌だ、冗談だよ、褒めてるに決まってるじゃん! 何ふて腐れた顔してるの?」

 想太君の表情はここからはよく見えない。だけど、加奈先輩の表情は分かる。

 白い肌が、太陽に照らされてきらきら輝いていて、笑っている顔は、無邪気さに溢れている。

 想太君にぴったりだ。多分、読者モデルの実優さんや、奈波ちゃんよりも、遥かに似合っている。


「ホント、莉以君も、裕香ちゃんも、奈波ちゃんも、全然変わってないね。皆、可愛い」

「嫌だ、加奈さん、褒めても何も出てきませんよ」

 裕香ちゃん、目が本気だ。恐らく、まだ想太君が好きなのだと思う。

「そうだね。褒めても何も出てこないけど、私は何か求めて褒めてるわけじゃないよ?」

 加奈先輩は、にっこりと笑いながら想太君のほっぺをつねった。

「ふがっ、ひょっとはな(ちょっと加奈)、ふぁんでひひあり(何でいきなり)ふぉっふぇふへふふぉ(ほっぺつねるの)?」

「可愛いから!」

 へへへっ、と笑う加奈先輩。

 二人の周りから溢れるリア充オーラ。な、何だか……眩しい。



「加奈~!」

「加奈ちゃ~ん!」

 

 

 張り裂けんばかりの大声が、校庭から聞こえてきた。


「さえっち、みさちん!」


 飛び出してきた二人が加奈先輩に抱きつく。加奈先輩は想太君から手を離した。

「くっ、苦しいよ二人とも!」

 加奈先輩は、めいっぱい笑いながら二人に抱きついた。

「今日ね今日ね、運動会の振り返り休日だったんだ!」

「あーそっか、それ私達も行ったよね!」

「加奈達が優勝したもんね!」

 どうやら、加奈先輩は運動会の振り返り休日を使ってここに来たらしい。そして、彼女達の親友、莉以君の姉、佐藤美咲先輩と、お金持ちのお嬢様、山田紗枝先輩も、加奈先輩の運動会を見学していたのだと思う。


「ねぇ、今日ちょっと学校案内するよ!」

 想太君が加奈先輩の腕を掴んで引っ張ろうとする。

「良いよ、想太。でも、手短に済ませてよね? 今日はちょっと用事があるんだ。無理難題言ってこっちに来させてもらったんだから」


「「「「えっ、そうなの?」」」」

 四人分の驚きが重なる。

 想太君、莉以君、佐藤先輩、山田先輩のものだろう。

「……そうなんだ。私、新しい学校のクラブで呼ばれているの。だから、あと三時間後には出発しなきゃいけない。だから、学校を回るのは手短にお願いしますよってこと」

 加奈先輩はニッと笑い、「さぁて」と校舎を見渡した。そして、目つきが少しだけ険しくなった。


「……実優ちゃんに、遥君……」


 あたしはその方向に振り向く。確か、二階の理科室だ。

そこに、読者モデルの桐野実優さんと、去年転校してきたパーフェクト美少年、立花遥先輩がいた。

「……告白?」


「はぁ!?」


 途端に全員が理科室に向かってダッシュ。

 あたしも追うべくダッシュした。加奈先輩も、想太君も、佐藤先輩、山田先輩も、莉以君もダッシュ。

 そして、北門には誰もいなくなった。


 ◆◇


「……えっと、だから、僕には……」

「好きです! 好きなんです! 好きったら好きなんです!」

 

 思った通り、理科室では、実優さんが遥先輩に告白していた。

 うん、そりゃあもちろん戸惑うよね。と、あたしは理科室のドアの窓から覗いていた。もちろん、先輩三人も、皆覗いていた。人の告白を覗き見するだなんて、とても最低だな、と思うけど、誰もそんなことは言わなかった。

 恋の行く末を見守っていたかったのだ。見守る……ではないのかもしれないけれど。


「……あの、僕には、好きな人がいるから、ご、ごめ……」

「じゃあその好きな人は読者モデルなんですか?」

「いや、読者モデル、じゃないんだけどね?」


 遥先輩が、質問に戸惑っている。そうだよね、だって読者モデルと知り合う機会なんて、いくらお金持ちでもそんなにないものね。しかも見るからに「派手な子は嫌い」って顔してるもん。遥先輩が恋した相手は、素朴な可愛い人なんだろうな。きっと。


「あの、本当にう、嬉しいんだけど……。でも、本当に、ごめんなさ……」

「何でなんですか!? 読者モデルですよ!? 珍しいことなんですよ!? 会うことすらもままならないのに、告白して付き合うことなんて、ホント、百万分の一ぐらいの確率なんですよ!? 美男美女、ぴったりじゃないですか!」


 実優さんが、必死に遥先輩に詰め寄っている。じりじりと後ずさりしていく遥先輩。


「あぁ、やっぱり実優、馬鹿だ」

「へ? 何で裕香ちゃん」

 加奈先輩が、呟いた裕香ちゃんに尋ねる。


「いや、あの、本井夏輝っていう先生と想太君のことが同時に好きだったの、実優。だけど、本井先生は氷室先生と付き合っちゃうし、想太君は想太君で、まだ加奈さんのこと想ってるから、好きな人が誰か分からない遥先輩に押し寄せたってこと」

「あ、なるほどね。……でも私、遥君の好きな人知ってるんだよね」

「えっ、誰ですか?」

 本井先生と保健室担当の氷室先生が付き合ったという話は一学期中に全学年に広まった。

 だけど、あたしは加奈先輩の言う遥先輩の好きな人について、興味がわいていた。

「言わない。この学校の子じゃないから」

「えっ、そっちだっけ?」

 何故か想太君が反応している。見ると、加奈先輩は口元に人差し指を押しあてている。内緒の話があるのだろうか。


「……美男美女、それは流石にちょっと言いすぎだよ、決して……」

「貴方は美男です! そして、私は美女! お似合いすぎて眩しすぎて直視出来ないほどですよ?」


「いや、決して僕も美男ではないけれど、君も美女ではないでしょ? メイクをしてるだけだと思うんだけど。それよりも、僕は素朴な人の方が良いな」


「うっ……」

 

 すごい、一瞬で実優を黙らせた……。

「神じゃん」「ヤバーイ、遥先輩」「実優、クソザマァ」

 そんな声が聞こえてくる。実優嫌いの男女が遥先輩の対応を褒めちぎっていた。

「好きになってくれたのはすごくありがたいけど、そんな高飛車な態度をとるんだったら、ちょっと嫌だな」

「は? 何でですか? モデルですよ? 読者モデルですよ?」

「読者モデルだって言われてもね、そんなに高ぶられても知らないよ。読者モデルだからって、好きになるって思ったら、大間違いだからね?」

 遥先輩は、今度は挑むような目つきで実優を睨んだ。

 一瞬怯んだ実優は、「へ、へぇ……」と何か言いたそうな顔をしながら理科室を出て行こうとした。

「後悔しても、もう知らないわ! あんたが、あんたが私を振るなら、もしあんたが私を好きになっても、付き合ってやんないから!」

「まず好きにならないよ」

 珍しく挑戦的だな、と想太君が言った。

「何よ~!」

 悔しそうな顔をして、実優はドアまで走った。

 そこで、あたし達を見付けてしまった。


「はっ? 何で加奈がいるわけ!?」

「加奈さん!?」


 実優の嫌そうな声に、遥先輩はぱぁっと顔を輝かせた。

 あれ……?

 遥先輩の好きな人って、加奈先輩……?

 なら、加奈先輩は、遥先輩が自分を好きだと知っていたの? でも、そしたら何故違う学校の人だと嘘をついたのだろう。……もしかして、自分が違う学校だから?


「加奈さん!?」

 遥先輩は、実優を突き飛ばして加奈先輩に駆け寄った。突き飛ばし方に悪意を感じる。

「……うわっ? 何どうしたわけよ、遥君」

 照れくさそうに笑う加奈先輩。遥先輩は更に照れくさそうに笑い、「何でここにいるの?」と尋ねた。

「ちょっとね、振り返り休日を利用したんですよ。……って、全然遥君変わってないね? 相変わらずのperfect」

 何故か巻き舌で言う加奈先輩。それで遥先輩は噴き出した。

「ホント、変わってないですね」

「変わってないよ。懐かしいなぁ。ホント」

 そう言って加奈先輩は、ひとしきり理科室内を見渡した。

「覚えてるかなぁ? ここで確か顕微鏡で微生物見て、プレート割った人いたんだよね」

「覚えてる覚えてる。僕の隣の席だった」

「でしょ? ちょっとした大事件になってさ、あの後その子めっちゃ泣いてた」

 それを笑顔で言うことか、加奈先輩よ。隣を見ると想太君も呆れたような顔をしていたから、多分おんなじこと思っているんだろう。


「加奈さんも、全然変わらないで、元気そう」

「元気だよ~私は! 何しろ、転校前のキャラで普通に許されてるからね。良いことだよーホント」

 遥先輩は、少しだけ寂しそうになりながら言った。加奈先輩もそれに答える。……恐らく加奈先輩は、遥先輩の寂しさには気付いていないのだろう。

「……加奈が元気で、本当に良かった」

 想太君が、ボソッと呟いた。振り向くと、想太君は、少しだけ寂しそうな顔をしていた。遥先輩と言い、想太君と言い、何故だか寂しそうな顔をしている。


「どうしたの想太君」

 あたしは、誰よりも早く想太君に尋ねる。裕香ちゃんと奈波ちゃんの羨ましがられるような視線があたしの横を通り過ぎる。

「あ、五木か。……うん、まぁそんなことだよ、分かるでしょ? 正直言っちゃうと」

 想太君は、あたしに気付くと、はにかみながらそんなことを言った。


「自分が知らない加奈がどんどん増えていくのは、ちょっと悔しいな、なんて」

 

 その言葉は、どれほどあたしの心に突き刺さっただろうか。

 やっぱり想太君の加奈先輩への恋は、今も続いているのだ。真っ直ぐで、見ているこっちが「恥ずかしいってば!」と転げ回るほど、チャラそうに見えて、意外と真っ直ぐで温かい。そんな想太君が、あたしは好き。

 いつもそうだ。運動会も「面倒くさい」だの何だかんだ言いながら頑張っていた。そして、加奈先輩へ向ける熱も、超真っ直ぐで、入る余地がない。

 分かっているけど、あたしは恋を諦められないのだ。

「……もちろん、自分勝手なことだなって分かってるけど。……でも、そう思うのは仕方ないのかもしれないな」

 しみじみと言う想太君。


 やっぱり想太君は、加奈先輩のことが好きなんだ。

 あたしなんかよりも、ずっと心に居座る時間が長いのに、悔しい気持ちになるのはお門違いだって、分かってる。

 でも、まだ好きなんだ。


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