第六回 『白い恐怖』 ー モノクロームの魅力とダリ ー
『白い恐怖』
1945年 アメリカ
アルフレッド・ヒッチコック監督作品
実は私、大学で映画関連の概論の講義を受講していたことがありまして、実際教室で映画を観て、その場で書いた感想のようなものを提出することがあったのですが、他の学生の提出した用紙をちらと見ると、たった一言、こんなことが書かれていました。
「モノクロは見ません」
さて、その学生が単位を取れたかどうかは目下の問題ではないので置いておくとして、ここではその学生の真意を
「だってさーあ、モノクロなんて、古臭いだけじゃないですか、せんせーい」
と勝手に解釈したうえで、ヒッチコック監督作品『白い恐怖』を紹介するとともに、モノクローム映画について述べていきたいと思います。
モノクローム映画には、カラーには出せない魅力というものがあるのです。古臭いだなんて、とんでもない。
もちろん作る側としては、「全編カラーにすると製作費が……」みたいな事情もあったのかなとも思いますが、果たしてそれだけなのでしょうか。
『白い恐怖』
これは、アルフレッド・ヒッチコック監督の映画です。
この映画、「白地に線」を見ると謎の恐怖を覚える記憶を失った青年と、彼と恋に落ちた女医のラブストーリーに彩られたサイコスリラー映画なのですが、そのほとんどがモノクロームの映像なのです。
そして、ラストの見せ場で、ほんの一瞬だけ赤い光が……。
観てもらえればわかります。これを全編カラーにしてしまったら、どのような映画になってしまうか……。
ちなみに、ヒッチコック監督のモノクロ作品といえば 1960年の『サイコ』も有名ですがね、これもやっぱりモノクロームならではの映画でしょう。(こちらはカラーでリメイクを撮った監督もいるらしいですが。)
さてと、『白い恐怖』の魅力について。
まあ私は、イングリッド・バーグマンが好きだから観た、という人間なのですが、彼女以外にもたくさんの魅力がありましてね。
まずは、扉ですね。恋によって、自分を閉じ込めていた扉が開いていくシーン。この画が本当に美しい。これもね、モノクロームならではだと思うのです。
そして、そのムードを盛り上げる、ミクロス・ローザの甘美な音楽。まさに、スペルバウンド……。
あ、そうそう、この映画、邦題は『白い恐怖』という、サイコスリラーということが非常にわかりやすいタイトルとなっておりますが、原題は『Spellbound』、つまり、うっとりとした、という風になっているのですね。
もちろん、ヒッチコックの作品ですから、サスペンスであることに変わりはないのですが、本当にうっとりとするような映画でもあるのです。
ええと、もう一つ、特筆すべきことがあるとすれば、
終盤(だったかな?)のとあるシーンで使われた奇妙なセットのデザイン。なんと、サルヴァドール・ダリが協力しているのです。ダリといえば、シュルレアリスム絵画の巨匠。こんなところでも活躍していたとは……。
ちなみにですね、この映画はすでに、パブリック・ドメイン(著作権切れ)となっております。
日本では絵画などの著作権は権利者の死後50年続くので、ダリ絵画の著作権は切れていないのですが、この映画はすでにパブリック・ドメインなのです。
さて、今回は初めて、アメリカ映画を取り上げました。次回はどうしようかな……。
余談ですが……、
本当にどうでもいい余談ですが……、
リアルでこういう話をすると本当に変な目で見られるのですが……、
ザ・コーデッツで有名な『ロリポップ』ってあるじゃないですか。
あれ聴いてて思ったんですけど、「ヒッチコック」って、「ロリポップ」と同じような、可愛らしい響きじゃありません? なんか、ポップな感じというか……。
ごめんなさい、それぞれのファンの方。本当に……。