第四回 『山椒大夫』 ー 世界に誇れる日本映画(森鴎外原作) ー
『山椒大夫』
1954年 日本 モノクロ
溝口健二監督作品
いよいよ登場、日本が世界に誇る溝口健二監督作品です。
この作品は、中世に興った説経節という芸能にある山椒大夫伝説を題材に書かれた森鴎外の小説が原作。物語の舞台は平安時代。
そして、溝口監督といえば、ヌーベルヴァーグの巨匠ジャン・リュック・ゴダールが敬愛していた映画監督。
ゴダール映画に関しては、第一回で『女は女である』をご紹介しましたが、まだご紹介したいのが残っています。『気狂いピエロ』という作品です。
ええと、なぜ溝口作品を紹介する回でゴダールを膨らませたのか。
それにはもちろん、わけがあります。
なんとっ……
ゴダール作品『気狂いピエロ』のラストシーンは、この『山椒大夫』のラストシーンへのオマージュなのです。
筋はまったく別の話ですよ。
ですが、ラストの演出、人物から海へと移動していくキャメラワークがそっくりなのです。
いや、もうこれだけで、溝口監督の偉大さがおわかりいただけたでしょう。
ついでに言いますとね、ヌーヴェルバーグの影響を色濃く受けた小林政広監督の映画『海辺のリア』(今年公開)にも、『山椒大夫』の名シーンを想起させるシーンがあるのですよ。
そして、その『海辺のリア』で使われている楽曲が『ソルヴェイグの歌』。この曲はですね、イプセンの書いた『ペール・ギュント』という芝居の曲(作曲はグリーグ)なのですが、ざっくりいうと、旅立ってしまったペールを待ち続けるソルヴェイグの歌う歌で、愛のある切ないメロディなんです。
これは『山椒大夫』における、離れ離れになった我が子を想う母親の歌と共通するところがあるなと、私は常々思っていたのですよっ。
ということで、小林監督の……
おっとごめんなさい、今度こそ話が逸れました。
ええ、それではその、『山椒大夫』の名シーンというものをご紹介しましょう。
これはまず……、どこから話そう……、
なんせ今回はこういう流れで来たので、筋を説明していないという……
まあいいや。
この話は、山椒大夫という荘園領主のもとで酷使されている兄妹(原作では姉弟)が主たる人物なのですが(クレジットではその母親が先ですが)、兄を外へ逃すという罪を犯した妹は、拷問されて自ら口を割るの事態を防ぐために自殺をしてしまいます。これが、切ないながらもとても美しい映像なのです。(ちなみにこのエピソードは、森鴎外の原作に書かれている場面であり、鴎外の創作です。)
また、香川京子氏演じるこの女性の覚悟が、健気でかっこいいのです……。
それと、もう一つ。
これは、原作にはない要素なのですが、妹の計らいによって荘園から逃げ出した兄を匿ってくれた寺のお坊さまの言葉。これは、現代社会を生きる私たちこそ、真剣に考えるべきもの。
俺はちゃんと朝廷に従ってるから、やることやってるから正しいんだ、って、そういうことじゃないんだよね。
特に自由競争のあるシステムのもとでは、それぞれ自分と自分の属する集団が中心になりやすい。
でも、だからこそ、こういった理想が必要なんじゃないかな……。
さて、今回はここら辺で。次回もお楽しみに。