第十六回『恋多き女』(1956) ー ルノワール監督による恋愛喜劇 ー
『恋多き女』(1956)
1956年 フランス カラー
ジャン・ルノワール監督
前回からだいぶ時間が空いてしまいましたが、ようやくの更新です。
そして、このエッセイでご紹介してきた映画、じつは今まで、読者のみなさんが手に取りやすいように、レンタルビデオテープではなくレンタルDVDの出ているものを選んでご紹介していたのですが、今回のは……、観たいかたは販売DVDを買ってください。もしくは、2018/4/19 現在、デジタル修復版が全国で順次公開中なので、観にいってください(現に私は東京に観にいきました)。
この映画、私の大好きなイングリッド・バーグマンが主演で、しかもこれまた大好きな画家ルノワールの次男、ジャン・ルノワールが監督という映画なので、みたいみたいと思いつつ……、どうせなら劇場で観たかったので、上映情報を探して見つけるも……
2016年 見つけるのが遅すぎて上映終了(というか、ルノワールに興味を持ったのがこの年の夏だったので……)
2017年 1日だけの上映で、都合がつかず行けずじまい……
で、今年になってようやく、デジタル修復版公開の情報を見つけまして、観にいってきた次第です。ちなみに、同監督の『大いなる幻影』も一緒に観てきましたが、こっちはたしか、今現在レンタルDVDがあるんだよなあ……
前置き……ともつかない雑談が長くなりました。
では、内容のご紹介を。
恋愛ものというと、みなさんはどんなストーリーを思い浮かべますか?
男女一組の、真剣で深刻な、あるいはキュンキュンするラブストーリー? それとも、どろどろとした三角関係?
この作品は、そんなものじゃありません。恋愛喜劇です。恋人同士のディープな心情描写ではなく、誰と誰がくっつくか、そんなノリ。高尚ぶったものは一切なしです。ジャン・ルノワール監督の生きた時代もけっして安穏な時代ではなかったと思うのですが、こういう楽観主義的なところは画家の父親譲りなんでしょうね。
ということで、少しその、監督のお父ちゃんのお話をしようと思います。
画家ルノワールは、19世紀末には人気のなくなったロココ時代の画家フラゴナールの絵画を擁護するようなことを語っています。フラゴナールの絵……というかロココの絵画は、宮廷貴族を喜ばせるような明るく幸福に満ちた色彩で、時に軽薄で品のないのが特徴です。フラゴナール作『ぶらんこの絶好のチャンス』(1767年頃/ウォーレス・コレクション蔵)なんか、ぶらんこに乗って大胆にも片足を伸ばして靴を飛ばしている女性と、その下でスカートの中をのぞこうとしている男性が描かれているんですからね、軽薄このうえないです。
要するに、画家ルノワールはその軽快さで、かっちりとした重厚さや深刻ぶった高尚さを笑い飛ばすような、そういった愉快な芸術家だったのです。
そうそう、彼はジャン監督の子供時代を肖像画として残していますが(『白いピエロ』1901年/デトロイト美術館蔵)、私の主観的な感覚をいいますと、なかなかにイタズラの好きそうなお顔をしておられますよ。
さて、ようやく映画のお話に戻ります。
フランス、パリ。バーグマン演じるポーランド公女エレナは、製靴業の資産家ミショーとの縁談があったが、ロランという将軍の閲兵を見ようと集まったパリの群衆のなかで、将軍の友人アンリ伯爵に出会う。彼のおかげで将軍に会うことのできたエレナは将軍にヒナギクをプレゼントするのだが、その直後に将軍は陸軍大臣に推される。エレナは伯爵とパリの夜を満喫するのだが、将軍も彼女を愛するようになっていて……
このロラン将軍というのが、民衆の人気者でもあり、独裁を恐れる人々からは疎まれる存在でもあって、政治的に重要な位置にいる人物なのです。フランス大尉の偵察気球がドイツ領に落ちるという事件が起こり、エレナは将軍に大尉の釈放を求めるよう説得に行くこととなり……(ミショーは将軍の政策団とのビジネス的な交渉、つまり、貿易政策に関する駆け引きから、エレナを将軍に会わせることを許すのです)
まあこんな感じで、エレナは最後、誰とくっつくのか、みたいな。
そのほかにも、ミショーの息子やその婚約者、エレナの侍女、将軍の従卒、将軍の以前からの恋人、ジプシーの女性、様々な人物が登場し、恋愛喜劇をくりひろげます。さて、誰と誰が……、ふふ。
あと、私が個人的におもしろかったのは、例の事件を伝える新聞。フランスとドイツで挿絵が全然違うのがおもしろい。被害者はこっちだ、みたいな。この映画を作ったのがイタリア人でもイギリス人でもなく、当のフランス人というのがまた、ね。
おっと、長くなりましたね。では、このへんで。
映画情報サイトやアプリで、上映館を調べてみてくださいね。




