第九回 『女が眠る時』PG12 ー なぜか惹かれてしまう、魅惑の印象映画。この映画、タイプです。 ー
『女が眠る時』
2016年 日本 カラー PG12
ウェイン・ワン監督作品
はい、注目。ブラバ禁止(という表記に拘束力があれば苦労はないんだけど)。
なぜなら、これは私が最も好きな映画の一つだからです。
映画のレビューサイトでの評価に惑わされてはいけません。
これは、感じる映画。まずは何も考えずに、浸る映画なのです。
これは、アメリカ映画『スモーク』で有名な台湾出身のウェイン・ワン監督の撮った日本映画。ビートたけし氏主演です。
本当は私、こういうタイプの小説を書きたいんですけど、なかなか出てこないんですよね。
唯一近いものがあるとすれば、『湖』かな。
もちろん、この映画のような魅惑の雰囲気はまだまだ出せていませんが、拙作『湖』を楽しんでいただけた読者さんなら、この映画も好きになれるはずです。
私はこの映画が公開された当時、映画館で二回観ました。
私はなるべく多くの作品を観たいと思うので、同じ時期に、しかも新作映画を二度観るっていうことは珍しいんです(二回とも遅い時間に観たので、割引がありましたが^^)。
初めて観たときの感想は、「よくわからない」でした。
しかし、「この映画の世界にもっと浸りたい」とも思えたのです。
スクリーンの向こうで何が起こっているのか理解できない。それでも、惹かれる。
映画をただ、ストーリーを追って楽しむためのものだと思っている方々、
ぜひこの映画を観て、というより眺めて、こういう種類の映画の楽しみ方を覚えてください。
ストーリーなんかわからなくても、何を意味しているのかわからなくても、楽しめる映画はあるのです。
こういうものを言葉で紹介するときに、「象徴的」という言葉が一番正確なような気がしますが、私はあえて、「印象的」と表現します。なぜなら、初めから難しく考えてほしくないから。
絵画に例えると、色彩、筆致、ぼやけた輪郭。ただただその美しさを感じ取れば良いのです。背景に山があって、手前にはドレスを着た少女がいて、川が流れていて……、そんなのはどうでも良いのです(例えばの話ですよ)。
いきなりすべてを理解しようと思った途端に、あなたの時間は退屈な時間になってしまいます。そんなことはせず、ただただ浸るのです。
まずは、その「よくわからないけど惹かれる」という不思議な感覚を味わうべきです。
さてと、もちろんそれだけでも充分楽しいのですが。
映画館を出て、私は書店へと直行しました。
近くの大きめの書店を検索して。
原作(スペインの短編小説)の邦訳と映画の小説化されたもの(一冊にまとめられている)を購入し、読み途中だった別の文庫本をしばらく放置して、早速読み始めました。
そうして初めて、私は私なりの解釈を持って、二週間ほど後、もう一度同じ映画を観に行ったのです。ある程度解釈を固めてから観ると、新鮮さはないかもしれませんが、一回目より余計なことを考えずに浸れますね。
そうそう、西島秀俊氏の芝居について、「棒」だと評す人がいますがね、この作品に関して言えば、それはかえって効果的だと思います。なんでもかんでも、リアルな感情を露わにする必要はないのです。多少違和感のあるほうが、不思議な味が出て、おもしろい。
もちろん、それが合わない役というのもあるとは思いますが、この映画は西島氏の個性を活かしきっている映画だと思いますね。
西島氏の他にも、主演のビートたけし氏はじめ、忽那汐里氏、リリー・フランキー氏、新井浩文氏も個性が光っています。
これは本当にね、2016年公開の映画でダントツの、私が衝撃を受けた映画です。
では、また。




