ヘッジホッグ@ガール:06
とりあえず自由都市で私の生活が始まりました。でも手元には服とパラペラントボックスもとい棺桶だけ。あとは借金かぁ……働かなきゃダメかな?
今日は町を案内してもらうことになりました。
人が沢山いるとこなんて、学校の校外学習以来だなぁ~。
案内はライルさんの他にラクシャさんとシャンさんイクさん。
特にラクシャさんは猛烈な勢いで着いて行くからッ!!!!と、言われたけど正直、怖い……。
出掛ける時に、居間に居た大家のゼルダさんに挨拶したら、
「ま、あまりライルに近付かんことだな、発情期の娘さんがいるのじゃからな!ほほほのほ!」
と、露骨なアドバイスを頂戴いたしました。
はーい、気を付けまーす。
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まずはお隣さんにご挨拶、っと。
……うわぁ……これ、どーなってるの!?
お店屋さん、らしいけど、物凄くひしゃげたシュールな建築物!!
「マリ~、建物がゲシュタルト崩壊してるみたい!」
ラミ、的を得すぎだわ。
「お、皆さんお揃いでどちらまで?……ん?見かけない顔だね。」
立派な扉を開けて店に入ると、小柄な丸刈りの男性が出てきた。
「旦那、久しぶり!こちらはマリさん。新入りの住人ってとこ。」
「は、はじめまして!昨日から越してきました!マリと言います!」
「マリ、マリさんね……(ライル、同郷か?)(……はい。)」
しっかり聞こえてますがな……て、ことは、この人もこの世界の人じゃないんだ。
「ま、いっか。うちは武器や防具を扱う店をやってるから、物入りになったら是非利用してくれよ?」
「は、ハイ!!こちらこそよろしくお願いします!」
「そんじや、帰りにまた寄るわ。そいじゃ行くか!」
店の中は色んな武器?防具?があったなぁ。
中世の武器屋って感じだったけど、私に扱える物があるといいなぁ。
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「まずはこの辺の区画やね。住宅地と商業地の狭間に我が家が有る訳だけど、基本的な交通機関は馬車くらいだよ。」
「ば、馬車なんですか…」
「そ。後は歩きだけ。それ以外の乗用動物は各地にいるけど、メジャーなのは馬だね。地方によっては山猫族のグランドグリフォンとか、砂漠猫族が飼ってるオオトカゲとか居るな。」
「乗ってみたくはないかも……」
「そうか?一回乗ると結構楽しいぞ?」
いや、私だとたぶんお馬さん、潰れちゃうかもしれないし……。
「で、ここら辺が商業地。建物も平屋が目立つだろ?」
「うん、でもたまに、屋根がやたら高いとこもあるね。」
「あ、あそこらは丘巨人が出入りする店だね。間口も倍はあるでしょ?」
確かに。てか、のそ~っ、て私の倍は有りそうなでーっかい人が出てきたし!!
「ここら辺は交易区域だね。周辺から商品を売買しに商人が集まってくるから、個人相手に売り買いしてる店は少ないかな?」
「じゃ、私は来ることないかも、ですか?」
「いんや、何かあって沢山の物を売り買いしたい時はらここらで商談したほうが早いんよ?長旅で大量の食料とか必要な時とかね。」
「あ、成る程……」
でも、私は食料、必要なんだろうかな……まだ、本格的に食事してないから、自分が消化吸収できるのか確かめてないし……。
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ここまでシャンさんイクさんは「うちらは買い物ついでに付いて来てますから」って言ってたけど、
「わ、私は新しい仲間のマリさんが気になるから付いて来てますよ?あははははは……。」
ラクシャさん、ほーんと!判り易いわぁ。
ライルさんと私が、イイ仲にならんよう心配なんかなぁ。
「マリが百合っ娘だって知ったら心配いらないのにね~。」
ラミさんうるさいです。そりゃ、今はそーだけど、もしかしたら将来、キッカケあったら変わるかもしんないし……。
そう考えたら、今の住環境、女だらけじゃん。ライルさんよく節制出来るなぁ。エライんだかチキンなんだか……?
「……マリさん、どーかしましたか?」
「あ、いやいや別に!お気になさらずに!」
あー、ビックリした。よし、次はどこだ?
「ここは自由市民の斡旋所。平たく言えば、職安かな?」
「職安、ですか。」
昔の行政にあった就業斡旋施設、かぁ。私の時代にはないから、歴史の範囲に近い知識だなぁ。
「特に希望がなければ、ここで仕事探す手もあるぜ?難しい仕事も少ないから判りやすいし。」
「ん~、考えておきます。」
そうか、仕事かぁ。
本来の私の任務は偵察と情報収集、なんだけど、今はそれは考えなくていいか。
「マリ、私達の先発隊との合流も忘れないでね?」
あ、そっか。それは大事なことだよね……でも、人が沢山集まるとこで情報収集する手もあるか。
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歩くのは苦じゃないけど、正直足元を気にして歩くのがしんどいのよね……。
足でも踏んじゃったら相手は骨折しかねないし~。
「そろそろ昼だし、ここらで何か食べていくか?」
ライルさんの提案で、お昼御飯を御馳走になることになったけど……、
「マリ、マリ、大丈夫かなぁ……さすがに私もこんな状況は想定外なんだけど……」
……同感だよ~、だって戦闘サイボーグ、なんて一時的にブドウ糖と水分だけ補給できれば充分活動できるように設計されてるんだし……。
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結局、来ちゃった……。
都合のいいことに、椅子は木の切り株みたいに頑丈なものだったから、きしんで気まずいことも避けられそうだし……、でも、
「どしたの?嫌いなものとかあるの?」
ラクシャさん、優しいけど私の心配はそこじゃないんだよなぁ……。
見た目はサラダにお肉、パンと果汁の組み合わせだから、量は申し分ないんだけど、
果たして消化吸収できるんだろーか?
えーい!もぅどーにでもなれぃ!!
「…………、」
「あの、マリさん、ええっと……」
「うまい!!いやホントまじで美味しいッ!!」
野菜のサクッとした歯応え!振り掛けられた香辛料から香るスパイシーな風味!肉は繊維を噛みきる瞬間にら歯茎に伝わる心地好い抵抗感も快感だし!外側はサクッとした噛み応えながら直ぐ下に控えるスポンジ状の生地から薫る小麦の芳ばしい香りが鼻腔はおろか口蓋すら充満していく上に爽やかな果汁の瑞々しさの豊潤かつ濃厚な風味!「あのー、えっと……、」それら全てが今私の全ての味蕾を刺激し尽くすのっ!!
「……まぁ、喜んでいただけてよかった、よね?」
「うん、師匠。そだよね……?」
がりかりぱくばくもしゃもぐむしょきゅりかちゅ。
……そっか、私、もう3日近く何も食べてなかったんだよなぁ……。
軽く涙目になりながら、
「ほんっと!ごちそうさまでしたぁっ!!」
結果、美味しくいただけました。
心配して損したぁ~!
「……でも、この栄養って、どこにいくんだろーね?」
へーきへーき!きっと平行世界のどっかに行ってるんだって!!だから心配ご無用!うひひひひ食べて食べて食べまくっちゃうもんね~!
「おかわり!あとそこの骨付き肉と果物一房ちょーだい!」
「おぅふ。」
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ある日の教導団施設内、地下深くにある、戦闘サイボーグ処理後のフレッシュボディ保管室……。
「ねぇ、武村さん?」
「はい?どうしましたか?」
「……いえ、保存槽にある蘇我野茉莉の体重が、さっき二キロ程急増したんですよ……。」
「二キロ!?機器の計測誤差じゃないわよね?」
「はい……私もこんなの見たことなくて……」
「栄養素の投与ってミスもないわよね?っても自動投与だから有り得ないし……。」
「この子、四次元にでも行ってるのかしら……?」
「うひょひょ果実酒ウマーーーーッ!!」
「いやー!」
「誰かマリを止めろーー!!」
「酒乱だーッ!!」
「キャーッ!!」
初めての酒乱騒ぎをしちゃいました!てへ☆
「作戦中の飲酒は懲罰処分になるわよ!」
へいへい……。
初めてのお酒がこんな環境だと、客観視出来ないなぁ……果たして私はお酒に強いのか弱いのか……(未成年の飲酒はいけません!彼女は戦闘サイボーグ、体内のアルコールも解毒プラントで瞬時に分解できます)。