ヘッジホッグ@ガール:04
マリとライルはとりあえず当座の滞在先へと向かいます。
そこで二人を待ち受ける者は……?
「ところでライルさんて、ニホンではなんて名前だったんですか?」
「あー、いや、うん。新井透だったから、何となくで、ライル……かな?」
アオル、にはしなかったんだ。
「もう社会人としての生活よりもこっちの生活が長くなってるからねぇ……、馴染んじゃった。」
それじゃ、私もそーなるのかなぁ。
蘇我野茉莉じゃ、……結局、マリが一番かな。
「お、見えてきた、あれがこの平原の中心、アシュワナ大陸最大の自由都市さ。」
名前とかないのかなぁ。
「皆さんはなんて呼んでるんですか?」
「ん?自由都市だよ。なんせ議会制で王族も居ないから、固有名詞使わなくても問題ないし、町も大きいから誰でも知ってるし。」
ふぅーん。太平洋、みたいなもんか。
「あ、そーいやビジターセンターで新規登録しなきゃいけないか。」
「え?新規登録?」
「そ。旅人にしても移民にしても、必ず申請しておかないと後々面倒だし、それに行く当てもないんでしょ?」
そうなんだけど、どうしようかなぁ……、
「ま、それよりもその格好だけは何とかしなきゃならないから、まずは服探しだな!」
あ、忘れてた!それにこの棺桶も何とかしないと……。
私とライルさんは市外周部の自由交易地域で、露店を探して買い物することにした。
も、もちろんこの代金は、必ず返すからねッ!うん、たぶん……。
「おーい!おっちゃん!それとそれ!あ、あとおばちゃん!この娘さんに合いそうなの、いっしょに選んでやってよ!」
「お!ライル!お前ついにラクシャに振られたか!」
「ち、ちげーし!そもそも付き合ってねーし!」
「あら、ライルにも遂に春がやって来たのねー!おまけに美人だし!」
「おばちゃん耳遠くなったのか!?おまけに美人は認めるけど春を語る年じゃねーよ童貞なめんな!」
なんか丁々発止でやり取りしてる中、いつの間にか露店の脇のテントに連れ込まれておばさんに身繕いされ、
「はいよ!一丁上がり!やっぱり別嬪さんは何着ても似合うわねー。私の若い頃も負けてないけどね!」
そこで笑いが起きて、なぜかライルさんとおじさんがぶん殴られて、
「いつつ、何で俺が……お、おぉ!すげぇ!ホント美人は何着ても似合うな!」
照れるわ……でも、そう、かな?
ここらの平均的な服装?長めの青いスカートに革のサンダル、腰回りを幅の広い花柄の刺繍された布地で纏めて、上半身はシンプルな若草色のチュニック、最後は腰のと同じようなので髪の毛を束ねた服装。
「それにしても髪長いわね……それに黒髪なんて、あんまり見ないわ。ライル、あんたの出身と同じとこなのかい?」
「あ、あはは、そーそー、海沿いのなんつーかそんな感じの島国?的なぁ、そんなとこ?」
「ふーん、知らないとこじゃ聞いても判らないけどねぇ。」
そーか、珍しいんだ……。
「ところでマリ、あんた気付いてた?」
え、なんのこと?
「あんたねぇ。知らない土地なのにバイリンガルしてるの不思議に思わないの?」
あ!確かに!ライルさんと話しながら露店の人と普通に会話してたから気付かなかった!
「ハイハイ天然天然。全く私が居なかったらどうやってコミュニケーションとるつもりだったのやら?」
う……どうせ外国語なんて自動翻訳……あ、ここどこの言葉なんだ!?
「あんたねぇ……いい?私達の言語通訳に登録ない領域だったから、情報解析と暗号解読の応用で同時通訳したげたの判らなかったでしょ?」
え!ラミあんたそんな器用なことやってたの!?
「とーぜん!だって会話なんてただの空気の振動よ?音階だろうと音節だろうと単純な物だし、例えば会話のヒントになる、商品や通貨の固有名詞を推測するのなんて、隠蔽因子を放出する際の外部情報を獲得する各種センサーを駆使すれば容易いことでしょ?それに」
ハイハイハイ!!判りました判りました!ラミがとーっても!有能な補助電脳だってことはよーく判りましたから!!
「ま、判ればよろしい!」
小難しい話は苦手だなぁ……。
しばし脳内会議してた私達をほっといたまま、ライルさんは小さな荷車を借りてきて、元パラペラントボックス現棺桶を運ぶようだったけど、
「よ!あ、あれ?これ無茶苦茶重いぞ!?」
あ……私これを普通に引っ張って歩いてきたけど、確かこれ70キロ近く有ったような気が……ま、いっか。
「ライルさん、疲れてるからだよ、きっと。」
私はわざとらしくうんしょうんしょ言いながら(実際はそんなことないけど)よいしょと荷車に積み込んで、ガラガラ引っ張って進むことにしました。
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そのあとビジターセンターって所で、簡単な質疑応答をし書類を作り、私は晴れて「自由領民」ってことになった。
先に自由領民になってる人が推薦すれば問題なく誰でもなれるって。
ライルさんの紹介なかったらどーしてたんだろうか。
それから暫く歩いて中心部に近い住宅地の辺りで、
「お、見えてきた。あれがうちらの屋敷、シェアハウスってのか?なんせ10人位は住んでたり泊まってたり憑いてたりするからなー。」
つ、憑いてたり!?
聞き捨てならない不穏な単語をさらっと言いながら、さっさと玄関を開けて
「ほら、紹介するからはよ中に入りなさいな。」
「お、おじゃましまーす……、」
「あー、ライルさんお久しぶりで……」
「ほんとだ、ライ……」
「「あー!浮気してるー!!」」
「ばばばば違う違う!!」
異種族、ホントだぁ……猫耳、ってか見た感じ毛の生えてるとこに正に「虎柄」みたいに毛の生えた娘さんに、同じく「茶トラ」の毛色の娘さん!
「マリ……私達、本当に全然違う世界に来ちゃったんだね……」
ラミ、今、私もそー思って実感湧いてるから!
「何ですか何なんですか一体何の騒ぎですかあお久しぶりですライルさん相変わらずご健勝で何よりで……、ありゃありゃりゃ!!!あなたラクシャさんと言う可愛らしいガールフレンドがいらっしゃるのによくもまぁいけしゃあしゃあと」
「うるさいっ!!少しは俺の話を聞けーーッ!!」
え?まさか、パワードスーツ?
今の……鎧?でも頭の部分がないのにちゃんと声がしてる……遠隔操作とか!?
「……一番面倒くさいのが出てきたのに、案外平気なんだ……。マリさんアンタ、デュラハンとか見たことあんの!?」
「デュラハン?北欧神話の妖精だっけか?ラミ、合ってるよね?」
「そうだけど……私にはやっぱり感知も知覚も出来ないんだけど……。」
補助電脳のラミには見えないってことは、
「声が聞こえなくて鎧が勝手に動いてるだけだったら……そう!ポルターガイストって奴なんだね!ラミも判るならよかった!」
「喜んでいいのかなぁ……機械の私が……。」
ラミの呟きも、私の本当の姿も、今のところは私達だけの秘密……。
「あ、大家が来たか。ゼルダさんおいっすー。」
大家さん?気さくな人ならいいんだけど……、
「なんじゃ?ヴァリトラが騒いでおったから、またライルが変わった性癖を露呈してたのかと思うたぞ?」
「変わった性癖とかマジでねぇ~っての!……ん、あ、ゼルダさんが若いから驚いた?」
うん、驚いた。だってどんだけ年上かと思ったら……、
「そこの娘、誰しも初対面ならば、妾の見目麗しさと若々しさに言葉も失うのも無理ないぞえ?ふふん♪」
はい、幼女、です。
ひそひそ……(言っとくけど、ゼルダさん吸血鬼だから、見た目と中身は全然違うかんね?)
ひっ!?き、吸血鬼!?
あ、でも私、赤色の血液流れてないから、心配ないか……。
「はじめまして!私はマリ、今日からこちらに厄介になるものです!何も判らないふつつか者ですが、よろしくお願いします!」
「……ん、挨拶の出来る者に悪い奴はおらなんだ。ライルは助平だが割りと人を見る目はあるからな、マリと言ったか?色々聞いて頼ってやるがよいぞ?」
吸血鬼、だったっけ?全然そんな怖い感じもないんだけど。
「ただしな、その女誑しは用心しておくがよい。悪気は無いのに童貞力高過ぎて何回も下手な芝居で失笑を買おておるわ。」
なるほど、ねぇ。
下手な芝居なら、私だって負けてないかも、だし。
一先ず部屋代はお役に立てるようになってから!……かな?
登場人物達の詳細を知りたい方は「罠師がサクサク」と検索してください。
そーすりゃ一目瞭然。