ヘッジホッグ@ガール:02
マリは相棒の副電脳ラミと共に見知らぬ場所へと進む。そこで出会った人物とは?
青空の中、落下する私達。
「ねー、マリ。下の大地、全然近付いて来ないよ……」
ラミが呟く。
確かに高時計は0のまま変わらない。えっ?ゼロって、まさか……
「あら、これはまた全身サイボーグなんて、久し振りね。」
気付くと私は真っ暗な一室に居た。
そして、目の前にはソファに横たわる真っ赤なドレスの、髪の長い女性が居た。
てか、いつの間に!?誰?このヒト!?
「見た感じは日本、いや、旭本の戦闘サイボーグかな?確か26型歩行タイプね。てことは、可愛らしい女の子って訳ね。」
私達のこと知ってる!?
「ここはセラエノ。忘れられた知識を保管する書庫、ってとこかな?それで、私はそこの管理人。」
その女のヒトは、長い指先でテーブルの上から銀色のケースを持ち上げ、中から白い筒を取り出して……あ、タバコか。
カチン、と音を立てながら、いつの間にか持ったライターで火を着けて、長く吸い込んだ煙を、ゆっくりと細く横に燻らせる。
「……ん、と。あなた、色々聞きたいこと、あるんじゃない?」
バーガンディ、って色かな?マニュキュアで彩られた爪でトントン、と灰を落とし、灰皿にタバコを載せると、身体を起こしてソファに腰掛けながら頬杖を突き、微笑みながらこちらをジッ、と見つめた。
「あ、私、マリと言います。いきなり会って、自己紹介も出来なくて、すいません!」
ペコ、と頭を下げながら、上目遣いで見ると、
「アハ!お行儀よいわね!うん、悪くないわ。見た目と違って躾の行き届いた育ちの良さね……あの男にも見習って欲しいものだわぁ。」
うんうんと頷きながら、腕組みして(その腕でむにゅー、とされてる超絶バストが凄いことになってるけど)私を褒めてくれた。
「ねぇマリ……さっきから何を言ってるの?」
ラミが頭の中で呟く。……は?何言ってんの?
「悪いけど、私は何も認識出来てないし、対象になる存在を感知出来ないんだけど?」
ラミ、壊れた!?
「違うって!私は紫外線も赤外線も観測出来るけど、一切の光学的反射も何も検知してない……相手はまさか幽霊なの?」
怖いこと言わないでよぅ!
不安げな私達をそっちのけで、テーブルから瓶とグラスを持ち上げて、そのヒトは何か……赤い飲み物を注いで、手に持ち、傾ける。
「……、歩く戦車、バーサーカー、独り軍隊、無補給殺戮者。二十六式type16。射出兵器が殆んど無いのに対陸戦兵器では無敗、ステルス迷彩により対地攻撃もされにくく、都市部ならゲリラ的な戦力維持で、独力無補給……」
スラスラと出てくる機密事項。このヒト、スパイか何か?
当の本人は赤い透明なお酒……?を呑みながら、
「ほーんと、二十六世紀のアンタの国、戦争の道具作らせたら平行世界でもダントツに凶悪よ?特に……」
そこまで言って、言葉を切り、ジーッと、また見詰めてくる……
「あ、もしかして、あなた戦闘処女でしょ?」
かぁーーーーーーーーーーーッ!!、!
い、い、いきなりなななななにを!!!
もし生身なら赤く成りそうなことをシレッと!!
「あーそーなんだ、あーやっぱりぃ。じゃ、アレは知らないか。そーか。」
うんうんとまた頷きながら、独りで納得しとります。
「ま、楽しみは後にしときなさいな、ね?」
訳知り顔でニンマリと笑い、グラスを空ける。
「さーて、面接はこれでおしまい!あとはあなたが決めることね。」
は?面接とは?
「セラエノには一回来れば、また来たい時に訪れられるわ。」
「え?」
「ここは保管庫。戦士の全てを蓄える所。それじゃ、そろそろ時間ね。」
待って!まだ聞きたいことが!
「あんまり答えられないわよ?知らないこともあるし。」
「私より先に来た仲間は無事なんですか!?」
「あー、あの娘達?今んとこは無事よ。今んとこはね。」
「どこに行けば会えるんですか!?」
「それは判らないわよ……なんせみんなバラバラになるようにしたから。」
「そんな!酷い……」
「ま、あんまり心配しなくてもいつか会えるわよ。でも、ねぇ……」
少しだけ言い淀んで、
「あんまりハンディばっかでも可哀想だし。そうね、いいことしてあげる!」
そう言うと、やおら立ち上がって近付いて来て……、
「背丈はともかく体重だけなのよね……ま、いっか。」
指先を私のオデコに付けた瞬間、
「あなたのステルス迷彩に細工したげるから。」
「……やっ!マリ!マリ!!ハッキングされてるよッ!!早くコネクターを外して!!」
えっ!?コネクターなんて何処に!?
眉間に付いた指先から細い管が延びてるのを見逃してた!
でもすぐにするするりと管は縮んで爪の中に消えちゃった……きも。
「ステルス迷彩って、ホント便利よね~!けれど存在因子に干渉なんて、発想自体が魔法じみてるけどね~。」
え……そうなの?もっと真面目に授業聞いてたらよかった……。
「さて、そこに鏡あるから見ときなさいな。出来映えは悪くないわよ?」
何もない空間に姿見の鏡がドン!と現れたけど、けれど……
「怖がることないわよ!貴女が一番見たいものが映る筈たから。」
怖々とつい覗き込むと……、
「マリ……嘘、どうして……ステルス迷彩にこんな機能はないわよ!!」
ラミが悲鳴に近い声で叫ぶわよ、これ見たら!
そこには、間違いなく、背丈も体型も、全部、あのまま。
一番見たかった、生身の私……。
ただ、なぜ、裸?
「うわわぁ!服!服!」
「ゴメンねー、やっぱ1つ位はハンデないと楽しくないし!」
「マリ!確かパラペラントボックスに野営シートある!」
グッジョブ!ラミ!
てかこの棺桶……は?
「場所柄考えなさいって。これから行くとこ、そーゆーんじゃないと馴染まないわよ?」
……は?どーゆーこと?
「だって、剣と異種族の溢れるファンタジーな所よ?」
えっ!?マジで?
「そう!行けば判るわよ~!ほらほら!えいっと!」
ドン!と背中を押された瞬間、身体がフワリと浮いて、鏡に向かって……
「わー!わー!いやいやまだシート持ってない!」
「キャー!マリ!また落ちる!」
「ふぅ。騒がしい子だこと。」
溜め息漏らしながら、波打つ鏡の表面へと消えたマリを見送り終わり、また一本のタバコに火を点ける。
「……ふーっ。」
一吸いし、また元のソファに横たわり、目を閉じる。
「ま、楽しんでらっしゃいな。フフフ……。」
セラエノにまた、新しいコレクションが増えるか、彼女の退屈しのぎの楽しみが増えるか、まだ判らないけれど。
彼女の足元のガラス張りの床には、一面に広がる収納庫。
地平線の彼方まで異種族の戦士達が眠り、いつか訪れる目覚めの時まで、保管されるか否か。
それは彼女、赤の女王にも判らないことであった。
赤の女王についてはまたいずれ。それでも知りたい方は平行世界の一つ、罠師が異世界、で検索してください。次回も平行世界の星降る平原を中心に色々と……。