表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘッジホッグガールΩバースト  作者: 稲村皮革道具店本館
2/30

ヘッジホッグ@ガール:01

私、蘇我野茉莉(そがのまり)は、親を知らない、適格者育成プログラムで産まれた戦闘サイボーグ予備生。全寮制の学校に通っていたけど全身サイボーグになり、遂にその日がやって来た。実践配備、だ。

 作戦開始から2週間前、私は初めてその身体を身に付けた。




「……これで、完了。」


 いつも厳しい武村指導員が、簡潔にセットアップ完了を告げた。


「マリ、気分はどう?」


 茉莉、ってどうしても馴染めないから、名前はいつもカタカナで書いてきた。だから呼ばれる時に頭に浮かぶのはカタカナの、マリ。


「ん…あんまり、いえ、問題ないです。」


「正直に言っていいのよ?あなたが納得出来なかったら何回でもやり直すから。」


 では、甘えよう。いいじゃん、今くらい。


「それじゃ、私の顔、見たいです。」


 一瞬、周囲に沈黙が走る。技師や補佐官が何人も詰めているこの部屋には、女性は武村指導員だけ。だから、


「あぁ、あなたのインターフェイス?いいわ、ちょっと待って…、」


 私の後ろにあるパラペラントボックスの上に屈み、しばらくしてから、




「お待たせ……さ、あなたの顔よ。なかなかいい出来だと思うわよ?」


 少しだけ柔らかく微笑みながら、台に固定された私の見える所まで持ち上げてくれる。


 少しだけ眉を下げ、目と口を閉じた肌の白い、可愛らしい、私の……、





 毎日朝から寝るまでに何回も何回も見てきた見慣れた顔、鏡の中で泣いたり笑ったり怒ったりする度に……見てきた、顔。




 それが、今、まったく同じ形のお面みたいになって、武村指導員の手のなかに。



 一瞬で感情が爆発しそうになる。私の顔!私の顔!返して!!って。


 きっと、今までなら泣いてただろう。わんわん泣き喚いたかもしれない。



 でも、今は出来ない。この任務が終了するまで、生きて帰ってくるまで、元の身体には戻れない。


 この戦闘サイボーグの身体で居る限り、任務終了で一時帰還を果たすまで。




 長距離偵察用戦闘サイボーグボディ、二六式16型「ヘッジホッグ」改。


 これが私。



「マリ!あんまり落ち込むなよ!どーせ生身に戻ってもデートの相手もまだ居ないんだから!」


 このうるさいのが私の「補助電脳」のラミ。


 ラミは今回から、作戦中の補佐官みたいに私の面倒を見てくれるけど、ありがたいやらありがたくないやら……。


「でもさー、私達で七人目だってさ~。心配してもしょーがないけど、無事に帰れるといーわねー。」





「あの、武村指導員。」


「なに?」




「…補助電脳って、みんなフレンドリーでお気楽な感じなんですか?」


「いいえ、一人一人の性格で判断して、最適の組み合わせを目指しているから、人によって違うわ。」




 それじゃ、私に足りないものはフレンドリーでお気楽な感じなんですか。そーですかそーですか判りました。


 ……だからっていきなりは無理ね。無理よ無理無理。




 でも、なんか少しだけ楽になったかも。ラミは私が居るから作成された疑似人格なら、ある意味、私自身なんだよね。


 よし、絶対戻って、取り返してやるぞ!!私の身体!!


「でもさー、マリ。もしもこのメタリックで、いっかちぃ身体が好きな男性いたら、どーすんの?」


「そんな変態さんには興味ありませんよーだ。」


 ✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳


 《遡ること96時間前》


「マリ、決まったみたいだってね。」


「うん。そう。」


 彼女はルームメートのさくらさん。名前で純日系かと思ったら、大陸移民系の血統みたい。髪の色も薄茶色で、少しだけ茶褐色の肌色。でも、言われなければ判んないけど。


 今の旭本は、来日したアジア各国からの福祉労働移民の影響で、日系アジア人みたいな人々が増えたらしい。


 あと、最近あった戦争で旭本が色んな国に影響を及ぼしたせいで、難民や移民も増えたみたいだし。




「あんまり、嬉しくなさそうだよ。平気なの?」


「うん、平気。たぶん。」


「そう……ま、気にしちゃうよね。じゃさ!帰ってきたら、寮母さんに頼んで

 パーティーみたいなのやってみようよ!!」


 みたいって言ってたけど、そう…、パーティーいいかも。


 ま、帰れたらね。 



「さくら、今夜でしばらくお別れだね…」


「うん……」



「……ん、」



「」





 私達は、遺伝子レベルで改良、つまり選別卵子を更に加工して作り上げられた適格者。


 だからある年齢からいきなり社会に出る。私達の場合は8才で市民権を持った個人として学校に通う。


 学校には通常学級と、適格者の受け皿の特殊学級がある。


 特殊学級には学寮があり、その中と学校だけを往復するだけの生活。


 ただ、郊外学習等の機会はあるので、外部と接点が無い訳でもないけれど。



 もちろん通常学級には文字通りの通常の生徒も通っている。


 そちらは共学(特殊学級は女子のみ)で、男子からは羨望、女子からは妬みの対象と見られるのがほとんどだけど。



 それは適格者が望みの完全サイボーグボディに入って生活するから。


 希望すれば、外観は完全無欠の理想的な体型だろうと自由に選べる。



「まるでセクサロイドみたい」が共学組男女共通の感想。



 別に自分達は選民意識もないのに、そう言われるのは面白くない。


 それに、完全サイボーグボディにも一つだけ欠点がある。



 R指定、つまり年齢制限指定仕様。


 はっきり言えば、女性器がない。



 生身なら希望しなくても大半は、勝手に成長に合わせて肉体は成熟するけれど、私達は学校を卒業するか、本来の目的である「戦闘サイボーグ」として戦場に立たない限り(肉体的には存在しないが認知領域に確保されている)、年齢制限の鎖は取れないし。




 だから、大半の生徒は特殊学級の生徒同士で疑似恋愛してしまう。


 周りを気にしながらの口づけは挨拶じみた領域を激しく逸脱してるし、共同シャワー内は抱き合う二人の逢瀬の空間になっているし。



 ましてやルームメート同士なら、二人だけの空間を朝まで占有できる訳で、まぁ、そういうこと。


 お陰様で、二人で朝まで抱き合いながらしばしの別れを惜しみました…よ。


「……マリ、必ず帰ってきてね。」


「…うん、わかってる……。」



「」



 ✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳


「後部ハッチ、開きます。マリ、準備して。」


 朝焼けの大空。


開いた瞬間、一瞬で周囲が強烈な寒気に晒されて、霜が付く位の温度差。氷点下21度かぁ…。生身じゃしんどいね。



風切り音は凄まじく、音声リンクが無ければ意志疎通すら出来やしないな。


「マリ。訓練通りに、ね。」


武村指導員の声。これから暫く聞けなくなるのかぁ。



「武村指導員、今まで、ありがとうございます。ちょっとだけ、しばらく、……行ってきます。」


「えぇ、マリ。長久武運を、ね。」


意外と古風な言い回しだな、ホント。

噂じゃ、見た目と違って、中身は70代っての、今なら信じられるかも?




それでは、


「マリ。降下開始まで、あと、3、2、1…」


ラミの声が響く中、ハッチの端まで歩き、





ゆっくりと、朝日を浴びながら、


私は大気と、一体に成った。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ