3 夜の音
3 夜の鳴き声
KP「はい。ではお楽しみの夕食だね。基本キャンプの夕食は日没前が良い。キャンプファイアーやるならともかく、夜になると虫が飛ぶからね」
ヒカリ「キャンプファイアーってなんです?」
ダン「学園祭だとファイアストームとも言うな。櫓状に木を組んで火を焚いて周りを囲って歌ったりする」
氷室「そう言うのって今もやるのかな?」
KP「準備も後始末も大変だからね。学校だって周辺の事情を配慮してやらなくなってるみたいだし、こう言う所でも人数が小規模ならやらないと思うよ? あと、がっちり管理されているキャンプ場は火を使える場所もちゃんと決まっている。山火事なんか起こされたくないしね」
氷室「そもそも山の中で歌ったりするのも今だと非常識と言えなくもないか」
ダン「元々は火も歌も獣避けだったんだろうな」
KP「ちなみに火を焚くと虫が飛び込むので虫除けにはなる」
ヒカリ「ではご飯にしましょう!」
KP「と言うわけで君たちはレーションのご飯とBBQで焼かれた食材を鱈腹頂いたわけだ」
ヒカリ「肉肉野菜肉野菜」
氷室「牛牛……やめておく」
KP「懸命だな」
ダン「食事中に話題にするのも何だが、川についてちょっと言っておく。水質に不安があるから軽はずみな事はしないよに」
ヒカリ「あとはサイレンについてですね。私は聴こえませんでしたが!」
ダン「須賀さんも聴こえなかったみたいなんだよな。でも技能判定経由なら女性限定って事でも無いのか。こっちでも聴こえたけど川の放水ではなかったな」
氷室「そうだな。んーと、サイレンが聴こえてきた方に何があるか尋ねて良い?」
KP「地図くらいはあるよね。カーナビはわからないけど」
ダン「最近のレンタカーにはカーナビ標準装備だぞ」
氷室「便利な世の中だなあ」
KP「レンタカーは旅行に使う事が多いから、カーナビはあると便利だね。じゃあ調べられたと言う事にしよう。地図を調べるくらいなら技能判定は必要無い。でも何も無いね。山だ」
ダン「……? ん?」
ヒカリ「え? でも」
氷室「ははあ、だから技能判定無しなのか。こりゃ明日は何が何でも役場まで戻らなきゃならないな」
KP(……気付くの早いって)
ダン「うーん。折角だしここで須賀さんの目的を説明して貰いたいんだが」
KP「ほう?」
ダン「この後はシャワーなり就寝だろう? 俺たちが須賀さんと行動できる機会が少ないんだ。ここで目的を聞いておきたい」
氷室「確かに。明日の計画にも関係しそうだしなあ」
ヒカリ「私は明日のご飯について心配してます」
KP「取り敢えず朝食は何とでもなるね。昼食以降は計画次第と言った感じかな。それで須賀は質問に対して言葉を濁らせるね」
ダン「ん?」
氷室「言いたくないって事なのか?」
ヒカリ「研究ですから情報漏えいを心配するかもしれませんけど」
ダン「この面子で?」
氷室「〈説得〉してみるか?」
ヒカリ「〈心理学〉はどうでしょう? 私スーパーJKですよ!」
ダン「むう。〈説得〉は成功率に疑問だし〈心理学〉だと決定的な情報が出にくいぞ」
KP「何か質問して反応を見る技能だからね。取り敢えずどちらかで」
ヒカリ「スーパーJKの〈心理学〉の威力を見せます。須賀さん、是非今日の研究成果的な物を聞かせて下さい!」
KP「ストレートだなあ。では……(コロコロ)……うげ」
ダン「クリファンどっちだ?」
KP「うーん、どうしよう。……須賀は今日の収穫はほぼゼロみたいな反応だけど、上流に何かあると確信している感じだ」
ダン「……川の上流を地図で調べてみる」
KP「これも判定するまでもないなあ。うん。川の上流は山間の谷間に向かっている。大きな川でも無いからダムみたいなものも無いね。まあ一応地図の詳しい読み方ができるか、〈ナビゲート〉か〈地理〉か〈サバイバル〉で判定どうぞ。あ、ダンは職業柄って事で20%上乗せ可とするね」
ダン「大体四分の一か……よし、通った!」
KP「うん。それならダンは川の上流にちょっと気になる部分がある事が読み取れた。基本的に山中に向かうんだけど、小さな盆地がある。ただし、そこに繋がる道は無い」
氷室「普通に考えればただの山の中なんだろうが……サイレンが気になるなあ」
ヒカリ「いやいや、サイレンなんて気のせいですよww」
氷室「上流に何かあると思っている……いや、何かあったって事なのか。やっぱり古い情報を調べなきゃわからないって事かなあ」
ヒカリ「ネットで調べられませんか?」
KP「古くて、どマイナー情報を調べるには結構な時間と判定が必要だけど?」
氷室「判定するのは構わんが……うーん、もう少し情報を得てからの方が良いかもなあ」
KP「さて、そんな感じで食事は終わりだ。後片付けを終えた後、女性陣はシャワーを使う為に管理人棟に向かう」
ヒカリ「あれ? 私もですか?」
氷室「空気を読めJK」
ダン「普通ならセクハラ発言だがな」
KP「普通に考えても女性陣と男性陣は分かれて使うのが筋だと思うけどね」
ヒカリ「うーん、そうですね。それなら私も須賀さんと一緒にシャワーを浴びます! あ、ノゾキは禁止ですよ!」
氷室「うん、そんな事はしない。……ところでダン。麗しき女性陣が無防備になっている状況を警備する必要性について意見を交換したいんだが?」
ダン「同感だ。少なくともおまえを単独行動させる危険性を考慮に入れる必要がある」
氷室「あれえ?」
KP「では場面を変えよう」
*
KP「女性陣は管理人棟でシャワーを借りる。有料方式だ。ちなみにシャワー室を借りる事ができるのは管理人が居る時間だけ。管理人は夜八時には退勤するからね」
ヒカリ「そう言えば管理人さんはどんな方なんです?」
KP「六十代の男性。よぼよぼしてはおらずしっかりとしているね。日焼けした農家のおじさんと言う感じだ。元々この設備は前にも言った通りレジャー施設の一環として建てられた経緯があるので全体的にはしっかりとした建造物だ。とは言え、さすがに経年老朽化しており、しかも予算の関係で補修もままならない。シャワー室はよくあるようなシンプルな個人用のスペースが壁に沿って向かい合って二列ずつ。計六つ並んでいる。そして何故か奥には結構な広さの浴槽もある」
ダン「……なるほど。元々は入浴施設だったが、結局シャワーしか使えなくなったんだな」
KP「その通り。明り取り用の窓も上方にしかない。外から覗こうと考える連中も居なくはないだろうけど、まあ角度的に無理だね。道具でもあれば話は別だけど」
氷室「いや別に、覗こうと何て思ってませんよ?」
KP「管理人のお爺さんは二人に使用許可を出した後、個室でテレビを観ている様だ。更衣室には内側から鍵もかかる」
ダン「まあ周囲の見廻りは簡単に済ませようか」
KP「さて、シャワーを浴びる為服を脱いでシャワー室に入る二人」
氷室「描写は?」
KP「ヒカリはどんな感じだっけ?」
ヒカリ「APPは期待値よりも上です。スタイルはまあJKなのでそこそこだけど数年後に期待と言う感じで」
KP「須賀は年齢相応の成熟した身体つきだね。フィールドワークにも出るので筋肉質と言うわけではないけど引き締まっている。未成熟な十代から見れば思わずボリュームに「うおっ」となるね」
ヒカリ「JKなのでお肌とか年齢で勝負します」
氷室「なぜ勝負にww」
KP「さて、ヒカリはここで〈聞き耳〉チェックだ」
ヒカリ「は、はい~?」
ダン「シャワー室には殺人鬼が現れる。これお約束」
ヒカリ「ちょっと待ってちょっと待って」
氷室「デンデンデンデンデンデンデン」
KP「判定は?」
ヒカリ「(コロコロ)あ、今度は成功です」
KP「では、ヒカリは一番奥のシャワースペースからぴちゃぴちゃと音がする事に気付く」
ヒカリ「ひいいいいいいいいっ!」
KP「何かが滴っているようだ。ちなみにシャワースペースはその中に排水口があるので、通路の方には流れてこない」
ヒカリ「あ、聴かなかった事にして後のお二人にお任せると言うのはどうでしょう?」
KP「閉め忘れかしら? と須賀が呟くね」
氷室「行けJK!」
ヒカリ「ううう、私が見ますよ! と言って須賀さんを手前のシャワースペースに半ば押し込みます。それから確認に行きます」
KP「よろしい。音がするのは窓際の一番奥だ。そこを覗き込んだヒカリだったが、どうもそれは腐食したシャワーの根元から零れていたようだ」
ヒカリ「……あれ? 正気度チェックはしないんですか?」
KP「〈アイデア〉どうぞ?」
ヒカリ「ほげええ」
ダン「……もしかして、そう言う事か?」
氷室「ん?」
ダン「水道はあるよな。でも、もしかしてだ。飲料に使わない水を川から汲み上げている可能性がある」
氷室「……あ」
ダン「施設として整備されているわけだから水道は引かれているのは間違いない。ただ、飲料ではない水に自然水を使っている可能性がある」
氷室「でも、そんな面倒な事するか? 水道なら水道に繋いだ方が楽なのにわざわざ川の水を汲んで沸かして使うとか余計に手間がかかるんじゃないか?」
ダン「……確かに正論だが……どうだかな」
KP「実はそう言うパターンはある。水道代よりコストが低いと考えられた場合とか、あるいは工事でトラブルが起きてそこだけ川から水を汲み上げるように後から改造されたとかね。で、判定は?」
ダン「……〈アイデア〉はなあ……」
氷室「成功しやすいからなあ」
ヒカリ「……あう。成功です」
KP「ではヒカリは、そんな可能性に思い至ってしまった。ダンから聞いた話と合わせて背筋に冷たい感覚を覚える。正気度ロールをどうぞ。成功で0。失敗で1ね」
ヒカリ「むむむ、とりゃあ! (コロコロ)成功です!」
KP「じゃあ減らない」
ヒカリ「まあ私が使わなきゃいいんですよ。おっと、この事は知らせておくべきかな?」
ダン「我々も巻き込むつもりか」
ヒカリ「どうせ報告すれば同じですし~」
氷室「いや、神話事件ではないから」
ダン「それにしても腐食って、単なる経年劣化じゃないだろ。何が入ってるんだ?」
KP「さすがにそこまではわからないね。さて、シャワーを終えた二人はボーンと言う音を聴くね」
ヒカリ「ボーン? なんでしょう?」
KP「時計の音みたいだ」
ダン「時計か。それにしてもここでも古い時計を置いているんだな」
KP「うん。アンティークと言う程古くは無いけどね。秒針もチッチッチと音を立てているね。静かな夜間だと音もよく聞こえる」
ヒカリ「おっと、時間がありますから早く二人に交代しましょう」
KP「では男性陣はシャワーを終えた。水の事も知らせたとしよう」
ヒカリ「早いですよ!」
KP「さて、夜だね。男性陣と女性陣で分かれてテントに入る」
ダン「……ん? もう少し何かあるかと思ったが……」
KP「では〈聞き耳〉をどうぞ」
ヒカリ「え? 全員ですか?」
KP「もちろん」
ダン「成功」
氷室「成功」
ヒカリ「あ、今度は成功ですよ」
KP「では、全員微かだが明確なサイレンの音を聴いたね」
ヒカリ「ちなみに須賀さんは?」
KP「寝ている」
ヒカリ「ちょ、え?」
ダン「外に出てみる」
氷室「同じく」
KP「聴こえる方向は山中だ。そしてそれもすぐ途絶えるね」
ヒカリ「何なんでしょう?」
KP「明らかに空耳ではない。しかし正体不明の音。正気度ロールをどうぞ」
ダン「なんだかいよいよ増えてきたな。どうはっ!」
氷室「……む」
ヒカリ「あ、あれえ~?」
KP「おっとまさかの全員失敗か。では1減らす」
ダン「正気度は1減っても痛い」
氷室「取り敢えず夜の状況じゃあできる事は限られているし、寝直そう」
ダン「迂闊に歩き回ってもなあ」
ヒカリ「あ、そう言えば私はどんな姿で寝てるんでしょう?」
KP「さすがに出歩けない格好ではないでしょう?」
氷室「普通にジャージなんじゃない?」
ヒカリ「うーん、須賀さんもジャージなんですかねえ?」
KP「たぶんね」
ヒカリ「お年頃としてはジャージで寝ていると言うのもどうかと思うんですが」
ダン「キャンプ場だからな」
KP「それでは夜はここまでとしよう」
ダン「……なんだかスロー展開なんだが、どうなるんだ?」