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放送委員会のススメ  作者: 飯田橋 ネコ
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なんかいろいろとおかしい、この学校

 この学校はおかしい。そう真剣に思い始めたのは、新入生歓迎週間が終わった四月の下旬あたりだった。まず、授業からしておかしい。どう考えても文部科学省の学習指導要綱から逸脱している。現文の前期は“のらくろからポストエヴァンゲリオンの展望”だし、地歴・公民は“靖国神社と昭和史”ばかりやってる。お願いだから日本敗戦のくだりで泣き出すとかやめてよね足立先生。あたしは文系コースのはずなのに、数学とか物理とかが平気で必修になっている。いちどお試しで情報処理(前期)に出てみたけど、ありがちなWordとExcel講座なんかぢゃなくってVxWorks入門とかやってて意味不明。“NASAが火星探査などに使用したOS、その優れた設計思想と汎用性に学び、現在のMicrosoftによる業界支配に疑問を呈する”とか云われてもあたしの人生には関係ないし……。


 英語は英語で、先生が日本語あまり喋れないとかで、嫌でも英語力が上がる仕様。授業はいつも今日の新聞を読むことから始まる。ミシェル先生の持ってくる新聞の切り抜きには、日本のニュースでは報道されもしないような世界の片隅のニュースが載っている。名前も知らない小さな国の暫定政府と反政府勢力の抗争とか、中国の辺境支配の実態とか、紛争をビジネスにしている民間会社の訓練キャンプの様子とか。で、英語でそれについて討論する。先生の持ってくるものが、新聞だけではなく、書籍だったり、写真集だったりすることもある。あたしがまだ子供の頃に起きたアメリカのテロと、それに続く長い紛争のこととか。世界的に有名な日本人アーティストのこととか。結構面白い授業なの。

 でも、先生の英語、なんだか微妙に様子がおかしいので授業の後でお話したら、実は英語圏の人ではないことが判明。お互い母国語でないって安心感からか妙にうちとけてしまって、内戦続く故郷のお話とか、本当の職業の話とかしてくれて、あたしはなんだか世界が広がった。シャリク先生。故郷(くに)の放送局の海外特派員やりながら講師だなんてあなたは偉い。だけどなんで偽名使うかな? ミシェルなんて今日び流行らないわよ。そもそも生徒にそんなこと教えていいんですか?


 体育ならまともでしょ、って思ってたあたしはまだまだ甘く、しょっぱなから、授業時間内に皇居一周してくる、とか、雨の日の非常階段20往復(ウェイト付き)、とかが普通で、バレエとかバスケはなかなかやらせてもらえない。新入生はまず基礎体力だっ、ボールに触るなんて十年早いっ、みたいなノリらしいけど、それは運動部の理屈ではないかと思うのだが……。で、そうこうしているうち、四月下旬には早々に水泳が始まってしまう。男の子は可哀想にふんどしをはく。いや、締める、か。夏休みの遠泳合宿(一年生全員強制参加!)に備え、男子は赤褌でひたすら泳ぐ。地下の温水プールは何故か水深3mで泳げない子は強制的に泳げるようにさせられる。“人間、もともとは海の生き物であるから、絶対泳げる”とか云われても、泳げない子にとっては恐怖の一時間だ。ちなみに女の子はスクール水着に黄色い腰帯。理由を聞いてびっくり。サメ除けと救助用だそうだ。それでいいのか?


 他にも変なトコロは沢山あるけど、いちいち挙げたらキリないからまた今度。ま、とにかく、そんなこんなで、あたしはくるくるまわりながら一日一日を過ごしておりました。妙に大学っぽいうちの高校は、どちらかというと、クラスのまとまりってのが微妙な感じで、最初のころ緊張しながら言葉を交わしてたクラスメイトも休み時間や放課後になると教室から散っていく。もっとも普段の授業からしてバラバラなので、仕方のないことと云えば仕方がない。あたしは結構誰とでも話せるけど、そのくせ友達をつくるのは苦手だった。一緒の部活はいろうよ、とか、お昼飯田橋のス○バ行かない? とか云われるとちょっとばかしひいてしまう。これぢゃあ中学の時と一緒ね……。で、なんとなくお昼は一人でdutchに居る。珈琲とタバコの匂い。やっぱりピアノ氏はいない。いつもの穏やかな昼下がり。もうすぐ五月。連休明けにはもうちっと考えなきゃ、ね……。


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