スピンオフ “みちのくグルメツアー”
畳のお部屋。ひさしぶり。子供の頃行ったおばあちゃん家以来かな。あの頃はおじいちゃんも元気で、近所のおばちゃんたちもいっぱい来てて、お年玉いっぱいもらったっけ。
今日のお部屋はちょっと狭いしちょっと寒いけど、畳は新しくていい香り。で、なんかそわそわしてる士郎くんがさっきから荷物をいじってる。カメラ忘れたとか云ってるけど、そんなの最初から持ってくる気ないんでしょ。
おふとんの覚悟。できてる。そんなの新幹線乗る前からできてるのに。遊びに行く時とか、キスする時とか、いっつも“オレがリードしてやるからさ”的雰囲気出しまくってウザいくらいなのに、この期に及んでそわそわするとかナンなのよ。
お風呂入ってお夕飯いただいたあとお部屋に戻ったらおふとん並べてひいてあった。まぁ、旅館だからそういうものよね。窓の外には暮れの暗がりとぼんやり光る雪。遠くから聞こえてくるお寺の鐘。
ちょっとイラっとしてお部屋の電気消してみる。青白い光に包まれる浴衣のわたし。ちゃんと見なさいよ。こっちだってそれなりに気合いいれてんだから。
「……なんか、すごいな」
すごく遠いわたしが上のほうから見てる。いつか全部がウソみたいに消えてなくなったとしても、これだけはぜったいに消えることのない味覚。
今日までのわたしはこれでおしまい。今日からのわたしはいま始まったばかりです。




