デート
自転車盗まれた。
近所のスーパー買い物行く時とか新宿行く時とか、わりに便利に使ってた赤いママチャリ。鍵かけてマンションの駐輪場に置いといたハズ(一昨日現場帰りの先輩と駅前の赤ちょうちんで飲んだあと置いたっぽいから正直あんまり覚えてないけど……)なのにない。
ダメ元で交番に届け出てみたら、なんとその日のうちに連絡が来た。職質受けた酔っぱらいが盗チャリ野郎でお縄になって、あたしの自転車はいま練馬警察署にあるらしい。取りに行けば取り戻せるのだけれど若干遠い。仕方がないので今日も現場な先輩にLINEを送ってみる。せんぱーい、いまドコよ。
“今練馬文化でおこちゃまバレエ、もうすぐバラシも終わるし”
なんと都合の良い展開。あたしは中央線から都営大江戸線(なんてフザケた名前なのかしら)を乗り継いで練馬駅に向かう。地上に上がるといつものバックパック背負った先輩が自転車(相変わらずヘンテコなヤツ)とセットで佇んでた。
「練馬警察署ってドコですか?」
「オレ練馬歴長いから目つぶっててもイケる」
などと豪語した割には、初見のあたしでも分かる程度の遠回りののち到着。親方日の丸的組織の日の丸的応対にも精神の落ち着きを崩さない程度にはあたしもオトナになりました。
「ったく、なんで生徒証じゃダメなのよ! それしかないのよあたし!!」
「……真希さぁ、社員証とかないのかよ」
まぁ、そんなのは事務所の机発掘しなきゃでてこないワケで、そんな気と暇がないあたしとしては、年甲斐もなく泥除けに書いといた住所氏名年齢と生徒証(卒業する時に返さなかったの)が照合できれば返却余裕って思ってたワケですよ。まぁ、年齢は19歳だし旧姓だけど……。
若干呆れ顔の先輩従えて目白通りの歩道を歩くあたし。なんで自転車乗らないかなんて野暮なコト聞きます? だって結婚して卒業して放送委員とオクタの仕事で忙しくてマトモな時間帯に街うろつくなんて贅沢あたしたちにはなかなかなかったのさ。地味に半年前の千鳥ヶ淵以来の逢瀬ですよ。ホント聞くだけ野暮ってものよね。
お互いに最近の現場のハナシをしながら歩道を歩くこと小一時間。日も暮れた山手通りを下っていくと、なんか白熱電球の優しい光が並んでる。あ、秋祭りだ。
宮下交差点300m手前のガソリンスタンドの背後に、鬱蒼と生い茂る木々と本殿を載せた氷川神社。入り口からずらりと並ぶ色とりどりの屋台。とっても魅惑的な食べ物や飲み物やらがいっぱい。どっから湧いてきたの? ってくらい子供や大人もいっぱい。
当然の流れで自転車を置いてふらりと境内に入ってみるあたしたち。わぁ、コレ楽しいわ。
「やっぱり世の中から白熱電球なくしてLEDにすんのって暴挙だよな……」
「お囃子ってカセットテープ的音質じゃなきゃ雰囲気でないですよね……」
同時にぼそっと呟いた台詞が、あまりにクロスしてて、ちょっと笑ってから気まずくなる。先輩こんなんで顔赤くしないでくださいよ……。
「ヒトのこと云えないだろ……」
まぁ気を取り直して、生(大きめ紙コップで600円とかいう承服しかねる奴)で乾杯して、きゅうりの一本漬け肴にしばらくボケーっとしてみる。なんでお祭りってこんなどーしよーもないものが美味しいんだろ?
横で同じくボケーっとしてる先輩の最近買ったばかりのスマホにLINEを送ってみる。
“今日はぜんぶ楽しかったです。ありがとうございました。”
先輩がちょっとキョドりながらスマホを取り出して画面見て固まってる。あ゛。なんかうっすら泣いてるし。ごめん先輩。そんなつもりじゃなかったんですけど……。
その夜、先輩がけっこうやんちゃしてくれたけど、そんなことここに書くほどあたしだって野暮じゃない。ま、そんだけのことです。




