二人の夜
もうね、築20年の“ビンテージ”マンションだから、コンクリートに断熱材とか入ってなくて、ひんやりとした冷気が壁紙貫通してひたひた押し寄せてくるのよ。だから11月にもなれば夜は半端無く寒い。まぁ最近はお布団の中に熱源が入ってるからわりに楽勝なんだけど、この熱源ちょっとばかし問題が……。
「ねぇ、先輩ってなんで半袖七分丈なの?」
「……だって“それなり”って云ってたじゃん、中島が」
「あのね〜、気温に合わせて服を変えるのって、義務教育中に習わなかった?」
「オレ真冬でも半袖っていう健康優良児だったし……」
「あー、そ~いう子いたわ〜……」
「……ごめん、もうちょっとくっついてもいい?」
「はいはい……」
何気に新婚二週間目のあたしたち。未だに呼び方は“先輩”“中島”“だっち”“お前”あたりだし、こうやって布団のなかでくっつく以上のことは一切ない。家事を二人で分担できるようになったから、日々の生活はラクになったけど、今ひとつ実感がわかないのよね〜。
「だいたいからしてあたしの○欲はどーなんのよ!」
「……オレがどんだけ我慢してるかわかっておいでか?」
まぁ、先輩の親権者(いけすかない高飛車BBA)に“別にダメとは云わないけど、そのへんきちんとすんのよ”って署名捺印頂く際に釘刺されたから無茶は出来ないんだけど、健全な高校生男女としては、もうちょっとなんかあってもいいような気がしないでもないわけで。
あれ? 先輩? 急にそんなにぎゅーって。ちょっと! イタイってば……。
ガチャ。
「はいはーい! 夜の見回り参りました〜!!」
まーた性懲りもなく来たよ。葉子さんが……。
先輩が引っ越してきてからというもの、毎晩おっきなお腹かかえてやってくる葉子さん。そんなに気になるんだったら住んじゃえばいいのに、どうせ旦那さんまた海外とかいう流れなんでしょ。
「酒飲めなくて眠れないのよ〜! ねぇ早瀬くん、真希と何処まで行ったのかな〜? キャー!!」
……アンタ絶対飲んでるだろ。そもそもアンタのせいで物事が前に進まないんだよ、いろいろと。
「……真希って最近冷たいよね〜」
「中3の夏にあたし見捨てたヒトの台詞とは思えませんね……」
「葉子さんって、中島のこと12年も面倒見てたんですよね」
「そうよ〜、いっちばんキャリア積まなきゃいけないって時期に、オムツとか保育園とか、ほんっと大変だったんだから」
「……それ云う?」
「まぁ、おかげでこいつのいい練習になったから、トントンかな……」
お腹をさすりながらつぶやく葉子さん。
「どっちなんですか?」
「女子だってさ~」
会心の出来のパースを見せてくる時のあの顔で、葉子さんは云う。
「いいヒトだね、葉子さんって」
「そんなこと、わかってるっての……」
葉子さんがひとしきり騒ぎ立てて“じゃ、またねー”って出て行った2DK。先輩とのママゴトみたいな生活もあのヒトに見透かされてるんだろなぁ。
「……もう、遅いし、寝るか」
「そうね……」
二人でお布団入って目をつぶる。急に唇重ねられるあたし。え?
「おやすみ!!」
真っ赤な顔して目をつぶってる先輩。なんてピュアなのこのヒト。っていうかこんな少女マンガ的展開にあたしマジ困惑。




