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放送委員会のススメ  作者: 飯田橋 ネコ
47/69

業務連絡は酒の席で

そっから半年後の三島。


「なんでっ!?」

思わず、ではなくマジであたしは叫んだ。土曜の授業を二限まで出たあと新幹線に飛び乗って三島駅で降りて会館までタクシー飛ばして仕込み終わって演劇部の顧問から渡された宿泊先の地図の通りに歩くこと20分。急なことだったので演劇部と同じ宿がとれなかったって、顧問は謝ってはいたけど…。

「なんで、先輩と相部屋なのよっ!」

「んなこと云われても、どうしよ?」

「先輩が、演劇部の宿いけばいいじゃんっ!」

「だって、演劇部今は女の子ばっかだよ。中島が行けば……」

「やだっ! あんな女クラ集団と一夜を過ごすなんてっ!」

「じゃ、どうしよか」

「だっち、野宿(おそと)」あたしは外を指差す。

「……マジすか?」

十月の初め、それなりに冷たい夜風が自動ドアの隙間から忍び込み、あたしたちの間を吹き抜ける。

「……寒いです」

「……あの、お客様」

ビジネスホテルの薄暗いロビー。カウンターの向こうからうだつの上がらない風体の中年男性が、見慣れない高校の制服にたじろぎながら声をかけてくる。

「もし、よろしければ、もう一部屋お取りすることもできますが」

「できるんですか!?」

「ただ、ですね、追加料金のほうをお支払いいただく必要がございまして」

「おいくらですか?」

「残りのお部屋がスイートでして……一泊2万円になります」

あたしたちは一応高校生だ。そんな大金いきなり払えるはずもない。しかたがないから演劇部の顧問に電話をしてみる。

「この電話番号は現在、お客様のご都合によりおつなぎできません……」

だーっ、料金払えよ、貧乏公務員!!

「やっぱり中島が演劇部の宿いくしかないね」

「でも演劇部の宿知らないし……」

「……ゑ?」

「……あの、お客様」


 三島ステーションホテル1012号室。演劇部の顧問の先生はご丁寧なことに宿泊人数だけを連絡したらしく、ツインの部屋は落ち着いた照明と最低限の調度品、そしてダブルベッドで妙にすましていた。あたしの心とは裏腹に、なんだかだっちは嬉しそうに部屋を歩き回る。“おっ、電源とRJ-45コネクタ。さっすがビジネスホテル。仕事ができてしまうではないか……”なんていいながら荷物を降ろしている。


「先輩さぁ……」

「ん?」

「うん……」

「……あ、大丈夫。こんなこともあろうかと寝袋も持ってきたし」

いつもの機材満載バックパック、の一番下にクッション代わりに入っているスリーシーズンの寝袋、を引きずり出しながらだっちは云う。

「中島はベッド使えよ」

「そうじゃなくってさぁ」

だっちの手が止まる。

「何でしょか?」

「あ、いや」

「着替える?」

「……ううん」

「あ、風呂、じゃ、外で待つよ……」

「うん」


 だっちは部屋から出てゆく。違うんだけどなぁ。って何が違うっ→あたし。で、とりあえずクローゼットを開けると浴衣が二組きちんと折り畳んで置いてあってなんだか少し焦る。荷物からお風呂セットを引っ張りだし、制服やら下着やらを脱いでバスルームに入る。壁のつまみをひねると壁面にかかるシャワーからお湯が噴き出してくる。手で温度を確かめて頭からお湯を浴びる。立ちこめる湯気の中、あたしは、しばらく何も考えずにシャワーに打たれる。きらいな体。背は小さいし、頑張ってないと猫背になっちゃうし、腕には灯体をいじってるときについたヤケドの跡が残っている。髪の毛はもうだいぶ前から切っていないので中途半端に長い。

 先輩に悪いので手早く済ませ、浴衣に着替えて部屋の外に顔を出す。だっちは扉の横で突っ立ていた。

「……お」

考えたら、人前で浴衣着るなんて初めてな気がする。

「?」

「いや」

気のせいかだっちが動揺しているように見えた。なんとなくありえない。

「先輩は、入らなくていいの?」

「あ、あぁ。入る……」

今度はあたしが外で待つ番だ。それにしても、知らない人が見たらまるでアホな展開よね。


 部屋の前で待つのも馬鹿らしいので廊下の突き当たりの自販機コーナーにふらりと入る。ガムテで補修されたぼろっちいソファが幅を利かす寒々しい10㎡くらいのスペースに、レギュレーターの作動音と白々しい蛍光灯の光が満ちている。申し訳程度についてるはめ殺しの窓の向こうには町の灯りが見える。に、しても寂しい。三島は田舎だ。


 髪の毛から雫が落ち、肩にかけたタオルに染み渡る。ソファの端っこに腰をおろし、ふと、思う。条件反射で浴衣着ちゃったけど、私服くらいもってくればよかった……。それにしてもホテルに男、の子と二人でお泊まりなんて、あのヒトが聞いたらどんな顔するかしら?


 廊下の向こうで扉が開く。そういえばだっちの浴衣見るのも始めてだわ、って、浴衣じゃないし……。

「あがったよ」


 部屋に入りながらあたしはつぶやく。

「……先輩さぁ」

「何でしょ?」

「なに? その適当な服はっ?」

「いや、これ普段着だけど」

奴は七分丈のパンツに大きめのプリントシャツ、裸足にスポーツサンダルなどというふざけた格好で現れやがった。ぜんっぜんキャラにあってない。なにその陸サーファーみたいな格好! だいたいなんで! なんでそんな……さわやかなの?


 だっちが眼鏡を外したのを見るのはこれが二回目。そもそもあたしたちがこんなトコまで来ることになった演劇部の公演のことを伝えにいって以来だ。あの時は……、なんていうかすごくびっくりして、あんまり顔とかきちんと見られなかったけど。意外とだっちは端正な顔立ちなのだ。つくりが丁寧というか、磨けば光るというか……。ん、あたしは奇麗なものはきちんと認める主義だ。

「へぇ、先輩って年頃の格好すればそれなりじゃない」

「それは、……褒めてるの?」

「まぁそういうことにしておけば」

「ありがと」

「……ね、鏡とか真剣に見たコトあるの?」

「……真剣に見て、どうするの?」

「……聞いたあたしが悪うございました」

きっとだっちは気付いていないのだ。とにかくあの眼鏡とぼうぼう髪の毛がひどかったのだということを。で、少し気になった。なんで突然両方辞めたのかしら。

「まぁ、いままでそんな暇と気が無かったからね〜」

コトも無げにそう返事する奴はいつものだっちなハズなんだけど、……いまいち調子狂うのよね。

「もしかして、わかっててやってるの?」

「なにを?」

「も、い」


 で、部屋の中にはなんだか重苦しい空気が漂ってしまったりする訳です。手持ち無沙汰なあたしたちは明日の本番用のキューシートとか見返し始めてみたりするのだけど、これって再演も再演なのよね。ついこの間、一週間前の文化祭でやってたばっかりだから、そんなもの読まなくても体が憶えてるっつーの!


「中島さ」

床に広げた寝袋の上で書類から目を話さずにだっちが云う。

「何ですか?」

ベッドのうえにうつぶせになりながらあたしは生返事。

「今まで、ありがとう、な」

「え?」

「……一応さ、中島と仕事すんの、明日で最後だから」


その不用意な一言はあたしに敵意を抱かせた。

「はい、そうですね……」

「なんだよ、それ?」

言葉に出てしまったトゲが先輩を振り向かせた。

「先輩には関係ないっ!」

「中島?」


 寝袋の上からこっちを見てるピアノ氏。あたしはちょっとした怒りすら感じていた。この一年半。ちょっと時間があればdutchで過ごしながら、柄にもなく“また会えないかな……”なーんて妄想してた相手が、実はずーっと一緒にいた人だったなんて、全く気が付かなかったさ。何本も一緒に現場やって、一緒に色んな目にあって、一緒になんとか乗り越えてきたってのに全然。なんなのよ、あたし……。

 っていうか、あたしこの人に全部見せちゃってる気がしてならない、いろいろと。そう思ったら、ほんとにキャラに似合わず赤面ですわ。ガサツな性格、女子力の低さ、ろくに偽装もせずに女のチャック全開であけっぴろげだったわけですよ。……そういえばほんとにあけっぴろげだったこともあったような。


 でも……そういったこと、だっちは知らない。知るはずもない。だって、だっちはだっちのままなんだから。飄々としてて、つかみ所が無くて、うさんくさくて、どこか完璧で、でも放ってはおけなくて、そういう人なんだから。


「困ったな」

「そうですよね……、わけ、わかんないですよね……」

やっぱり冷静な早瀬先輩にあたしは急に後輩モードになってしまう。なんだか久しぶり。

「中島さ」

「はい……」

「何かあったの?」

どちらかというとこれから何か起きてしまいそうなシチュエーション。先輩とあたしはビジネスホテルの客室で向かい合った。

「先輩」

「はい」

「ご飯。食べにいきません?」そういえば晩ごはんがまだだったのだ。


 ホテルの地下のフロアには何軒かの飲食店があった。さすがは三島。昭和(生きたことないけど)の香りに事欠かないラインアップ。とりあえず和食屋に入る。既に何組かのおやぢが和やかに酒を酌み交わし、賑やかに談笑していた。なんかとっても場違いな感じがするけど、だっちは平然とカウンター席につくと何事もなかったように、とりあえず中生、とか云ってる。相変わらず違和感無いけどアンタまだ未成年だろ、一応。

「中島は?」

「あ、生で」

ひえひえのジョッキが出てきたので乾杯などしてしまう。

「おつかれ〜」

「おつかれさまで〜す」

で、一口目を愉しみつつメニューを物色。だっちが“コーンスープがない……”とか意味不明なことをつぶやいているので、あたしが注文する。先輩が飲むってんなら付き合わさしていただきますわっ。

「とりあえず刺し盛り三点の方、と湯豆腐一人分、柚子胡椒つけて……それから、茄子の田舎煮。で、いい?」

「いい」


 陸サーファーと浴衣にスタジャン女(どっちも年齢不詳)。なんだかよくわからない組み合わせ。なんともいえない気まずさを取り繕うかのごとく、少し明るく振る舞ってみる。

「先輩はこのあとどうするの?」

「どうって?」

「一応理系なんでしょ」

「あぁ、ま、一応」

「大学とかいくの?」

「う〜ん。考え中」

「もう、先輩も受験生なんだし」

「そうか、受験生なのか俺」

「……自覚ないの?」

「あんまり」

「でも、先輩って勉強はできそうよね」

「そんなでもないよ」

この前、放送室の机の下に落ちてた全国模試の順位表のことを思い出す。71位、早瀬洋平(東京)って書いてあったけど、やっぱりあれは同姓同名の違う人なんだろうか?

「この前の模試も中の下くらいだったし」

「中の下って、もしかして71位とか?」

「あぁ、たしかそんくらい……、って、なんで知ってんの?」

「……まさかその順位、校内のだと思ってたりするわけ??」

「違うの?」

……だめだ。こいつは根本的に間違えている。

「あれって全国の順位だよ。日本全国!」

「……そうか、どうりで知らない人ばっかり載ってると思った。」

この人はたぶん同じクラスのヒトの名前だって覚えてないんだろうけど……。

「そうかぁ、どうりであっちこっちの地名が載ってるわけだ……」

「本気なの?」

「うん、今知った。俺すごいじゃん」

「……あぁ、すごいすごい」

呆れた。


 となりでだっちはご機嫌にジョッキを傾けている。まったくもってこの人はわからない。手足がびろびろ長くて肩幅広くて、みるからにオタクで挙動不審で、でもその似合わない眼鏡をとるとびっくりするぐらい端正な顔立ちで、実は例のピアノ氏で、スゲエ頭がいいことが判明して、しかも結構バカであたしの先輩で一応高校生……。なんだか他にもいろいろ隠れてるような気がして、あたしは少しいたずらしてみたくなった。

「先輩さ」

「ん?」

「自分のことあまり喋らないね」

「聞かれないし」

「じゃあ、聞きます」

「はいな」

「先輩、彼女とかいるの?」

「いない」

「好きな人は?」

「今はちょっと云えないな……」

「なによそれ……、じゃ、家族は何人?」

「いない」

「……いや、あの好きな家族って質問ではないですよ?」

「家族いないけど」

「へ?」

「今、一人」

「先輩、一人暮らしなの?」

「うん」

「家族は?」

「だから、いない」

「……?」

「死んだんだよ。小三ん時。事故で」

「……。」

「悪いこと聞いたとか思ってる?」

「え、えぇ。」

「でもさ、もう結構経つし、いまじゃそんなに悲しいとかもないんだよね」

「……。」


 黙ってるあたしに、今度は先輩が聞いてくる。

「じゃ、質問」

「は、はいっ」

「彼氏は?」

「いません」

「好きな人は?」

「え、いや、いません……」

「……誰よ?」

「……あの、先輩、のしらない人」

だーっ、何を動揺してるのですか→あたし。

「……中島さ」

「はいっ!」

「俺を動揺させようなんて十年早い〜」

今まで見たことも無いいたずらっぽい顔で先輩が笑った。まずい。見とれた。


 アルコールのせいか少し上気したあたしたちは、それからとりとめもなく話し続けた。あたしは先輩のことをいろいろ知った。先輩の両親は先輩が9歳の時に交通事故で他界したこと。それからの親戚の家を転々と移り住む日々。結局そうした生活に馴染めず、高校に入ってから一人暮らしを始めたこと。いままで全然知らなかった先輩のいろいろなこと。でも少し気になった。なんでそんなに話してくれるの先輩?

「……なんかさ、話したくなったんだよ」

「お酒のせいですか?」

「それもあるけど……中島には話しておかなきゃいけないような気がしてさ」

「何ですかそれ?」

「何だろうね?」


 あたしはふと、わたしのことを考えた。“あたし”がまだ“わたし”だった頃のこと。小さい頃から成長が早く、実際の年より上に見られることが普通だった。画素の荒い写真の向こうに笑う美しい男女。今は亡き両親の、その血を受け継ぎ、背があるわけではないけれど、物覚えはひどくよかった。そしてその血とともに相続したちょっとした資産にまつわる、周りの大人たちの言葉や諍いの端々に、幼心に恐怖を感じていた日々。親戚中を巻き込んだ騒動の結果、なぜか一緒に暮らすことになった葉子おばちゃん(葉子さん、でしょ! 真希!)は、まだ小さかったわたしを邪険にしながらも一応育ててくれた。仕事の虫だった葉子さんは、朝早くわたしを保育園に放り込んで会社に行き、夜遅くまで帰ってこない人だった。家にいる間だって、気が向いた時に入るお風呂と力尽きて寝る時以外はだいたいMacで仕事してた。わたしがうっかり風邪でもひこうものなら“急に熱出してんじゃねえよ! 仕事休まなきゃなんねえじゃねえかよ!!”と怒られる始末。結局休むわけにもいかない葉子さんは、わたしを連れて“打ち合わせ”というものに行くことが多かった。普段見たこともないようなちゃんとした格好の葉子さんが、A3のカラフルな図面片手に、聞いたこともない単語をつらつらと並べて丁寧にお話してる横で、おとなしく座ってるのが私の仕事だった。“打ち合わせ”が終わると机の向こう側に座ってたかっこいいお兄さんやおじさんたちが“えらかったね〜おとなしくできて。またおいでね〜”と頭をなでてくれるのがうれしかった。その“かっこいいお兄さん”が何週間かあとのテレビで歌って踊ってるのを、葉子さんは“もっと全景映してくれないとわかんねぇよ”などとぶつくさ云いながらちょっとうれしそうに見てた。たまの休みの日には、美術館とか展示会に連れてってくれてちょっと楽しかったけど、小学生ぐらいになると、それも葉子さんの仕事だったんだとわかるようになった。中学校の制服を着る頃には掃除・洗濯・炊事・ゴミ出しが一通りできるようになって、葉子さんもやっと怒らなくなった。かわりに彼女はいろいろなことを教えてくれるようになった。この社会で女が予め背負ってるいろんな重荷。男共のバカさ加減とあしらい方。実際まだぎりぎりアラサーだった葉子さん(アタシはまだ余裕で39だよ! 真希!)はうんと年の離れたお姉さんみたいな存在で、仕事が一段落つくたびに、この社会のどうしようもないとこを、芋焼酎のグラス片手に、年端もいかない中学生女子に滔々と叩き込んでくれた。そんな話を半分くらい聞き流しながら濃い目の水割りとかお湯割り梅干し入りとかそれに合うおつまみとかを上手に作れるようになる頃には、中学校での生活はあまりに子供じみた茶番になっていた。成績は良かったし、ともだちや先生ともそれなりにうまくやっていたけど、心のどこかに寂しさがあった。もうわたしはまともな青春を送ることはないんだろうなぁと、半ば諦めていたそんな中三の夏に、あろうことか葉子さんが日和った。


「真希……、わたし間違ってたわ」

夜も更けたのに珍しくしらふの葉子さんは、そう切り出した。

「男って全部が全部ダメってわけじゃないんだよ。真希。この世界だってそう捨てたもんじゃないんだ」

酒が足りないのかと思って慌てて準備しようとしたわたしを、葉子さんは初めて抱き締めてくれた。

「いままでいろいろありがとうね、真希。こっから先はアンタの好きなように生きてみな」


 葉子さんがそれまで使わずにとっておいてくれた両親の生命保険と、知らぬ間に書き溜めていてくれたわたしの成長日記の束を残して、12年間一緒に暮らしたマンションを出て行った時。うっかり涙が出そうになるくらいの感謝と、こっから先どうすんだよという不安と、あと年不相応の完全な自由を手に入れてしまった困惑を胸に、わたしはつぶやいた。

「幸せになってくださいね、この裏切り者。」

この日を境にわたしは葉子さんと一人称を交換してみた。口にしてみると意外に馴染む、あたし。


 そんなあたしの人生の要約版を話す。先輩はくすりと笑う。

「中島が自分のこと“わたし”って云うなんて想像もできないな」

「いちおう、わたし、女、ですから」

「さようで……」


 結局、あたしたちは似た者同士だったわけだ。家庭の温もりを知らず、年不相応な諦念を抱え、子供らしくあることを割愛して生きてきた者同士。なんだか一年も先輩後輩してるけど、今日初めて知り合った気もする。でも、あの日感じた懐かしさの正体がわかったところで、奴への感情は一方通行だ。ちょっと癪に触る。


「うわぁ、なんかむかつく!」

「何が?」

「……青春、返してよね」

「姐さん酔ってる?」

「しらふだもんねぇ。あははっ!」

「をいをい……」


 気がつけば、黒霧島のボトルが半分になって、水割りセットの氷もとけちゃってる。先輩は最初の生のあとはずっとロックをちびちび飲んでるし、あたしは薄めの水割りをちょいちょい頂いてる。


「……じゃ、これ飲んだら部屋戻るか〜」

「そうしますか〜」


 数刻後。ふと気が付くと二本目のボトルがカラになっている。以前はよく見た光景だったけど、自分でカラにしたことは流石にない。葉子さんはよく“こういう場になんないと話せないことってあんのよねぇ”って云ってたけど、なんか向こうの方から来ましたよ……。


「……とりあえずさ〜、メガネ外すとイケメンって古典的なのやってみたんだけど、どう?」

ま、先輩にしては上出来なんじゃない……、ってそれどういう意味?

「そういう意味。どう?」

え〜マジか? いきなりか? あたし先輩と付き合うのか? 

「ほら」

先輩が片手あげて待ってる


“ぱちん”


 取引成立。


 だってこんなに気心知れた先輩からの正統派メガネ男子萌え的展開どうしようもないじゃないの! 人生にトドメ刺されたようなもんよ、まったく!!

「中島のそーいうサバケけたトコ、結構好き」

あぁーそうかい!! あたしだって、アンタみたいな飄々野郎(ぬらりひょん)大好きだよ!!


 で、結局その日の夜はダブルベッドで一緒に寝てみました。久しぶりに誰かと一緒。あったかかった。それだけ。


 翌朝、目が覚めると、先輩はとっくに起きてて制服に着替えて荷物をまとめてた。あたしは先輩を追い出し、もう一回シャワーを使い、大急ぎで着替えてロビーに降りる。

「じゃ、いきますか。」

二人の最後の現場(じんせい)が始まる。


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