ばいばい、先輩
卒業式。いつの間にか明かりづくりまで終わってた体育館で平身低頭するあたしたち。だって、今年の新歓ステージ、とうとう出演団体が三桁の大台に載ったのよ!? だっちの顔なんか二週間くらい前から土気色だし、智子は“今年は放送も出演しましょ!!”ってナニかしでかそうとしてるし、白山は生徒会室に入り浸って戻ってこないし……。
まぁ、そうは云ってもこの学校にしては珍しくドノーマルな式典なわけで、特別感動的なことが起きるわけでもなく、普通の呼名、普通の涙、普通の別れが繰り広げられるんだけど。やっぱ泣けるのよこれが……。
「ぜんばい〜! おぜばになびばじだぁー」
お前さぁ、女子力の前に保育園からやり直せよ……、ダレかこいつに鼻のかみ方をだなぁ、ってくっつくなぁあああ゛!
加瀬先輩に邪険にされたあたしは、それでもくしゃくしゃになった花束を渡しながらふと玄関ホールを見渡す。たくさんの笑顔。たくさんの涙。あの人垣はたぶん先代の生徒会長。こっちの人だかりは高木先輩、そして向こうから時速30km/hで押し寄せてくるのは……、
“かっせせんぱーい!!”
“おつかれさまでしたー!!”
“としゆきー!! やめないでー!!”
大階段の上から突然鳴り響く調弦。静まり返るホール。佐野先生率いる弦楽部が卒業式のド定番、ヨハン・パッヘルベルのカノンを奏し始める。演奏が中盤に差し掛かると第一ヴァイオリンを弾いてた生徒が演奏を止め、立ち上がり、歩み去る。次はコントラバス。今年は二名の生徒が卒業してゆく。止まらない演奏。後ろに控えていた後輩たちが空いた場所に座り、カノンが繋がっていく。
「……こーいうの、弱いんだよなぁ」
加瀬先輩が泣いてる。神崎先輩も泣いてる。だっちだって、白山だって、智子だって、みんな泣いてる。
“はーい、放送のみなさーん。こっちですよ〜”
カシャ!
先輩の卒業アルバムに載ったあたしたちの写真は、正直事務所チェック通せない感じだったけど、コレ一枚しかないから、いまでもスマホのSDカードの片隅にずっと残ってる。人の親になった今でも。




