兀々地
たまにはこういうのも悪く無い。こんなオレでもそう思う。2月のとにかく一番寒い時期に行われるこのイベント。さすがに午前4時開始だから参加は任意だけど、漢なら一回は出るべきだと思うぜ。まぁ普段なかなかお目にかかれないモノも見られるし……な。
「ぅぃいやああぁぁ!!」
「っしゃぁぁあああああ!!」
痛えよ! マジで。お前ら本職(剣道部員)だろ。一般生徒だって参加してるんだから、ちったぁ手加減しろってんだよ!
「きぇえええええぃ!!!」
だからイタイっつうの!!
「……先輩もきちんと打ち込んで来てくださいよ! 稽古なんですからっ!」
って、お前神崎??
「ぅぅぅしねぇえええええ!!」
いま、お前死ねって仰った??
体育館棟2Fの剣道場。都心には珍しく星空がひろがり、ただひたすらに寒い夜明け前から始まる寒稽古。ここは普段は剣道部員の修練の場なんだけど、この一週間だけは一般生徒も参加できるの。資本主義の荒波に勝てなかった学食も、この一週間だけは剣道部の卒業生さんたちが来てくれて、善哉が振る舞われるんだって。まぁあたしは眠いからパスだけどね〜。
やっぱり剣道着って破壊力スゲーよな。面つけてると目線ごまかせるから、いろいろじっくり観察できるし、やっぱりいいよな~剣道女子……。って思ってたけど、さすがにオレも年だわ。打たれるばっかで、全然打ち返せねえ。去年はもうちっとマシだったんだけど……。うわっ、今度の相手はオトコだよ! テキトーに済まそうっと。
「きぃいいいいいぇい!!」
お前さ。武士道ってコトバ知ってる??
ようやく稽古が終わって善哉タイム。これがまた至福の時なのよ。防具とって剣道着だけになった女の子たちの汗にはりつく後れ毛とうなじが、朝の疲れを癒やしてくれる。まさに日本の美そのものだね。
“あ、かせせんぱい来てる……”
“としゆきせんぱいってば、道着姿が凛々し過ぎるぅ……”
“ね、前に座ってるのダレよ!?”
“あんなオトコいたっけ??”
“……あたしのGoogleフォトには入ってないわよ、あんなの”
「……おはようございます」
「お! 早瀬じゃん!! 寒稽古来たんだ」
「まぁ、一応参加しとかないと勿体無いかなって」
「そうだよなぁ、こんなマニアックなイベント。参加しない手は無えよな」
「まぁ、中学ン時ちょっとやってたからってのもあるんですけどね」
「へぇ、意外だなぁ。っていうかお前メガネないと意外と精悍な顔なのな」
「ちょっと先輩やめてくださいよ、隣のテーブルからBL待ち的な視線来てますし……」
“ちっ、感づいたか”
“嗅覚の鋭い奴め……”
あ、神崎が来た。
「おつかれさまでした」
「おつかれ〜」
「おつかれ、あぁ、いいんちょ……神崎も来てたんだ」
「え? アンタ早瀬??」
「……他の何に見える?」
「……ちょっと意外すぎるわぁ、お姉さん考えちゃうわぁ……」
「なんだよ!?」
「……アンタ、ウチのクラスの娘と付き合ってたでしょ」
「……あぁ、でもだいぶ前のことだよ」
「なんで、イケメンマイスターのミホがアンタなんかと付き合ってたか、ずーっと謎だったのよね〜」
「え? ミホってそんな娘だったの??」
「そう、それに寂しがり屋なのよあの娘。一時期結構泣いてたし……」
「ぇええ!? “やっぱキモいから無理”って云われて別れたんだよオレ」
「ミホは、“最近放送室ばっかり行ってて、絶対浮気してる系だよアイツ”って云ってたけど……」
「えー、仕事してただけじゃん。神崎だって知ってるだろ」
「そりゃそうだけど、夏頃にアンタが夜中女の子と一緒に歩いてたの見たって……」
「あ゛」
「……ナニ? お前そんなに手広くやってるの? その顔で……っていうかキャラで?」
「それ、中島なんですよ」
「ちょっとアンタ! 真希ちゃんに手ぇ出そうとしてるの!?」
「お前、あーゆーのがタイプなワケ?」
「……そーいうわけじゃないですけど……相当着痩せするタイプだなって」
「……ドストライクってこと?」
「……っていうか鑑賞済みってこと?」
「……まぁ」
なんということでしょう。




